第98話 スノーバードとファイターイーター2



 戦った感じだが、攻撃が当たらない限りやばい感じはしない。


 ――が、麻痺にしろスノーバードの衝撃にしろ、どちらも攻撃が一度でも当たったら致命的な被害を受けるのは間違いない。


 絶対に回避しなければいけないのに数が多いとなれば相当厄介になるだろう。



 剣に着いた血を拭いているとヴァンが歩いてきた。



「助力感謝する、ギルドに行っても共に来てくれる者はいなかったから助かった」


「いえいえ、一人で新人冒険者を助けに行ったと聞いたので、気になって追いかけてきただけです」


「そうか、吾輩はヴァン。ヌーイ大陸の勇者ヴァンとして名を売っているA級冒険者だ。ところで貴殿らもA級冒険者か何かか?」



 俺らはちらっとお互い目を見合わせた。



「俺はイクス・トットベル。D級冒険者です。隣にいるのはアスラ、冒険者ではないけど一緒に旅をしている者です」


「イクスにアスラか、よろしく。……と待て、D級? 今の強さでか?」


「はい、少し前に冒険者ギルドに登録しましたのでまだその辺です」


「ふむ、なるほど。そういう事か。ともかく、吾輩はこのまま奥へ行くが共に行こうぞ」


「はい、行きましょう」



 森の奥は木々が空高くまで生い茂っているのもあり、光があまり通らなかった。


 それでいて、上から固まった雪の塊がたまに降ってくるから、周囲だけでなく頭上も警戒しながら歩くこととなった。



「静かね」


「うん、モンスターとかいないのかな」


「いや、この森は普段はモンスター以外にも通常の獣も存在している。だが先日スノーバードとファイターイーターらが群れを成してこの森に来たから隠れているのだろう。ベテランならばこの森の異変にすぐに気づき、いつでも逃げられるように進んでいただろうが、新人となればな……」



 逃げ遅れる事は無かったという事だろう。



「それにしてもどこにいるんでしょうね」


「木の上にいるらしい」


「木の上?」


「うむ、ファイターイーターは地面を張って動くしスノーバードは鳥だが、飛行高度は高くない。この森は木が高いから咄嗟に木に登ったまま降りられなくなっているそうだ」



 そういう事か。


 確かにいないと思って木から降りたら出会ってしまった……、って恐怖を想像してしまったら絶対に木から降りられないよね。



「寒い中、たき火も出来ず食事もままならない。体力を大分失っていることだろう」



 その状況なら早めに助けなきゃ間に合わなくなるかもしれないね。


 ギルドメンバーの反対を押し切ってヴァンが一人で来た理由もわかる気がする。



「この先に休憩できる洞穴がある、そこの木々のどれかにいるらしい」


「ではそこにモンスター達も?」


「いるだろう」



 そう話した直後。


 正面の草陰を突っ切り歩いていると、悲鳴が聞こえた。


 急いで走るとひらけた場所に通じ、そこにわらわらといた。



 スノーバードとファイターイーターの群れだ。


 それも合計で二十近くいる。


 多勢に無勢という言葉を使うのはこの時だろう。



「数が多い、一度退きますか」


「いや、ならん! 見ろ!」



 ヴァンが指さすとその先には二人の冒険者が怯えながらモンスター達に追い込まれているのが見えた。


 きっと勇気を振り絞って降りたらさっき言った流れで出くわしてしまったのだろう。



「ここで退いてはあいつらへの助けが間に合わない、吾輩達が来た意味が失われてしまう」


「ですが」



 ただこの数はやばいぞ、流石に麻痺の特効薬は持っていない。ポーションが効くかどうか分からない中、攻撃を貰ったら終わりだ。



「た、助けて!」



 気付いた冒険者達が声を上げるが、流石にこれは……。



「くっ」


「ええい、我が名はヴァン! ヌーイ大陸の勇者ヴァン! 助けを求める者を放っておくわけにはいかん! ぐおおおおっ!」


「ヴァンさん!?」



 なんとヴァンは、この無数のモンスターの群れの真ん中を直進して行った。


 伸びてくる触手を斬り、飛んでくるスノーバードをかいくぐりながら走り抜けていく。


 甲冑に触手が当たるが弾かれた、スノーバードの攻撃がかすり一瞬よろけるがそのまま歩みを止めず突っ込んでいく。



「無茶苦茶ね……」



 後ろでアスラが呆れる中、冒険者二人の下へヴァンは何とかたどり着き、モンスター達の方へ振り返った。



「さあ、かかってこい。吾輩が相手になろう!」



 命知らずにもほどがある。


 ――が、おかげで冒険者達を救う時間は少しだけ稼げた。


 俺は両手にそれぞれ剣を取る。



「アスラ、援護をお願い、ちょっと本気出して斬っていくから」


「分かったわ、スノーバードはともかく触手には気を付けて」


「大丈夫」



 触手を使ってくるモンスターとは戦った事がある。


 俺は死角を作らない様に首を左右に振り、更に極力接敵しない様に風の刃で敵の触手を斬りながら、群がってくるモンスター達を倒し始めた。

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