第57話 死姫



「あ、ああ……」



 震えているセイナを発見した。



「どうしたんだい?」



 ミハエルが優しく話しかけるとセイナはカタカタと震えながらさっきまで見ていた方向を指差す。



「あ、あっちに沢山の死体が。多分昨日川で襲ってきた人達かもです」


「な、なんだって!」


「……盗賊が?」


「ちょっと見てきます」



 何だろう、この違和感。


 誰がその盗賊を殺したんだ?


 俺は二人の対照的な反応に少々疑問を感じている。



 ミハエルは驚きすぎだしメイシュはむしろ少し喜んでいる雰囲気だ。


 二人は盗賊について知らないと言ってた気がするが、反応的に恐らく何か知っていて隠してる?


 いや、今はいいか。


 俺の頭の中ではドガの死体と盗賊の死体、立て続けに現れたそれをやった奴は近くにいるのかが問題だ。



「死体はこの先?」


「は、はい。その角を曲がったところに沢山死体が」



 死臭はしないが……。


 俺は意を決して角から飛び出した。



「あれ?」



 最初に頭に浮かんだのは疑問符だ。


 家々の角を曲がると現れたのは崩れた家や育った植物、瓦礫だけ。


 死体一つない見慣れた廃墟だ。



 ヒュン……というかすかな風切り音が聞こえた気がした。


 頭では不思議に思いつつも、身体は危険信号を発している。


 このままだと死ぬ。


 身体だけが反射的に動いた。



 ギインッ!


 振り返りざまに振るった剣が、硬い何かに当たった気がした。



「これはどういう事ですか?」



 俺はにやにや笑うセイナを睨んだ。





「エメドラちゃん!」



 セイナの後ろではメイシュがエメドラを抱きしめながら呼び掛けている。


 だらだらと血を流しており、咄嗟にメイシュを庇ったのだろう。



「あは……これでも駄目ですかぁ。昨夜も警戒されない様にメイシュさん殺すの我慢したのに意味なかったですね。しょうがない、正攻法で行きますか」


「ミハエル!」


「…………っ! メイゼ様、こちらへ」


「でも、イクスが」



 俺の叫びでミハエルはすぐに感づき、メイシュを連れて逃げ始める。



「おっと、逃がしま……っ!」



 横薙ぎの剣は躱されたが、メイシュ達は引いていった。



「ま、彼らはあなたの後でも良さそうですね」


「……一応聞くけどお前がドガさんを殺したのか?」


「ええ、家族に会いたがってましたので。送ってあげました。優しいでしょう? これでも私魔王軍の中じゃ優しい方だと自負してます」



 魔王軍……。


 すげえ嫌な予感がしてる。



 この圧倒的威圧感。


 エメドラは気弱ではあるが、ダンジョンのB級以上のモンスターを追っ払える上に言葉を喋れるドラゴンだ。やっぱり種としては大分強いはず。

 そんなドラゴンを一撃で戦闘不能に出来る奴は絶対雑魚じゃない。



「知らないならそれでいいんだけどさ、マルクって知ってる?」


「ええ、知っていますよ。あなたが倒したんでしょう? 全く、人間なんかに負けるなんて本当にプライドだけ高いわりに糞雑魚なんだから」



 糞雑魚か、俺からしたらあいつかなり強かったけどね。



「では改めて、私は死姫しき ニードセイナ。魔王軍4魔の一角、先日まではこのビハリ国を担当していた者よ。これでも私イクスさん達には感謝してるわ」


「俺らに感謝?」


「ええ、あなた達のおかげで殺し損ねたあの人間を始末出来ましたから。これでも私って魔王軍の中じゃ仕事熱心と自負してますよ。だからこそこの国を滅ぼした後休まずすぐに……」



 セイナの姿が一瞬消え、



「次の標的を殺しに来たんですから」


「…………っ!」



 横で声がして咄嗟に前に飛ぶ。


 地面を蹴り間一髪セイナの攻撃を躱せた。


 俺の横の家が衝撃で崩れ落ちる。直撃してたら確実に死んでいたところだ。



「おやおや、活きが良いですわね。やはり魔術は使わないのですか?」


「ああ、使えないんでね」


「それで、なら耐魔術もなさそうですね」



 セイナは無造作に両手を広げた。


 白い光が淡く光っている。


 嫌な予感がする。



「そんなに警戒しないでください、マルクに勝ったんでしょう? それにしてもあなたの方からわざわざ私の所へきてくれたなんて、僥倖でした」



 クスクスと笑ってから、不意に掌をこちらに向けた。


 白い帯が凄まじい速さで飛んできた。


 俺の身体の知覚できる所まで来たところで俺はそれを剣で受け流した。



「重っ……」



 受け流された白いそれはそのまま後方にある石造りの建物に当たり、それを倒壊させる。



「……面白いね、それ」


「でしょう、でもまさか魔力掌圧を剣で受け流すとは思ってもみませんでしたけど。少々ムカつきました。一体剣一本でどこまで躱せるでしょうね」



 ひとしきり笑ってから、次々と魔力掌圧が飛んでくる。



「デュアル」



 白い帯が二つに増える。



「トゥーティス」



 三つに増え、技の回転が速くなる。



「ムーターティオ」



 白い帯が4つに増え、更に不規則になり、途中刃に代わって突き刺すように飛んでくる。



「く……おおおおお!」



 俺は全力で目を見開き、視界一杯飛んでくる魔力掌圧をことごとく受け流していく。


 横殴りの雨の様に飛んでくるそれは、細いのに馬鹿みたいに重く、弾くたびに剣が悲鳴を上げていく。


 こいつマルクより強いかもしれない、けどこの位ならまだ耐えられ……。



「…………っ!」



 一段と重い一撃に剣が一瞬弾かれる。


 それと同時に足元から伸びてくる蛇のような触手は、俺の身体の前で先端が巨大化しつつ一文字に割れ、大きな口を開けた。


 びっしり歯が生えたそれは俺を食らうべくする凶器で、咄嗟に右半身をもぎ取られていたドガさんの死体が脳裏によぎる。



「くっ!」



 目では反応しているのに右手は空に跳ねた状態の時、俺の方へそれは飛び込んできた。

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