第27話 王女?
思いっきり壁に叩きつけられるドーラン・キッシュ。
肉体強化の魔術も間に合わなかっただろう、ずるずると地面に崩れ落ちる。
……やってしまった。
でもま、ここで黙ってるってのは男としてどうかと思うよ。うん。
「貴様……!」
ビルトンが取り出した小型の杖を瞬時に出した剣で斬り飛ばす。
魔術師の杖は基本的に杖の先端の宝石で魔力を増幅して出す。
よって、そこを斬り飛ばせば最悪何を使われたとしても返せると踏んだのだ。
もっともビルトンには俺の抜刀が見えなかったのだろう。
杖の先が斬り飛ばされた瞬間、二度見してからへなへなと力なくへたり込んだ。
斬った後でなんだけど、ビルトン兵士長って魔術師だったんだな。
腰に剣を付けてるからてっきり剣士かと思ったが偽装だったか。
一応剣を仕舞い、ゼンムを見た。
「これ、やっぱ不合格ですかね?」
「これは……いや」
「不合格だ、完全に不合格に決まっている! 不正以上に俺に刃を向けたんだぞ。め、明確な違反だ」
「待ってください」
続けて扉が開いた。
先に入ってきたのは鎧を身に纏った中性的な顔の男だ。
どこかで見たことがある気がするけど……。
見ていると、次に入ってきた人物を見て思わず目を丸くした。
「どうやら良いタイミングだったようですね」
相変わらずの抑揚のない声。
無表情で入ってきた女性は俺と同じ位に若く、黒髪緑目の美人。
胸は大きく、すらりと伸びた手足は長い。
ドーラン・キッシュから順々に見ていき、目を細める。
「メイ……」
「メイゼ王女!」
ゼンムとビルトンが慌てたように傅いた。
メイゼ王女? ……王女?
現れた王女は表情を変えないまま、隣に立つ護衛、ルキに合図する。
「ビルトン兵士長、王女が来た意味が分かりますか?」
「え、いや……」
「王女は以前よりあなたの裏金不正を調べており、あとは証拠待ちでした。そして今回派手に動いてくれたおかげで確固たる証拠が出ましたのでここに来ました」
「…………っ!」
ビルトンが言葉なく口をパクパク開閉する。
「ゼンム副兵士長、これまでよくやってくれた」
「い、いえ。役に立てたなら何よりです!」
「は?」
ビルトンはぎょっとした顔でゼンムを見た。
「ぜ、ゼンム。お前どういう事だ?」
「すみません兵士長、私は少し前からあなたの素行を調べ、逐一ルキ様に伝える任に付いておりました」
「な、なんだと」
「気付かなかったのですか?」
王女は冷ややかな目でビルトンを見ながらソプラノボイスで言葉を投げ掛ける。
「お、王女殿下、これは何かの間違いです。ゼンムがどんな報告をしたのかわかりませんがもっと調べていただければ」
「どうしますか?」
「証拠はもう十分ありますからどうもこうもありません、彼らを連れて行きなさい」
「はっ!」
ルキが指示すると後ろから兵士がわらわら現れ、意識を失っているドーラン・キッシュと情けなく叫んでいるビルトンを部屋から連れ出してしまった。
ゼンム副兵士長は、それに付いて行った。
残されたのはルキという護衛と王女と何となく状況が理解できた俺と全く状況が掴めていないクノリである。
「ルキ」
「はっ」
ルキに扉を閉めさせ、王女は無表情のまま俺の前に立ち真っすぐに見上げてきた。
「メイゼ……王女ですか?」
「メイシュで構いません」
「王女だったんですか?」
「はい、黙っていてごめんなさい。正式にはメイゼ・シュバルツ・マーケン・フォードと申します」
「長いですね」
「ですのでこれまで通りメイシュで構いません」
俺は彼女が王女だと知って驚いたが、なんとなく納得もしていた。
違和感を感じていたのは屋敷にいた頃だ。
その一因は父親のレブ・トットベルにある。
当時俺を無能と思っていたレブがちょっと俺がメイシュと文通をし始めた位で態度が変わった。
トットベル家は辺境を領土としているが、王都でもそれなりに一目置かれている魔術の名門貴族だ。
下手な貴族程度より格は上なのだ。
それを踏まえて態度が変わった、ということは実はメイシュは相当な上級貴族なんじゃないかと疑っていた。
まさか王女だったとは思わなかったけど。
「驚きましたか?」
「驚きましたが、納得した面もあります」
「そうですか、流石は察しが良いですね。それに腕も鈍っていないようです」
「どうでしょうね、鈍っているような気はしてます」
1500年鍛えていた頃と比べたら……だけど。
「し、失礼します!」
話しているとクノリが近づいてきて首を垂れた。
「わ、私は今回試験を受けたクノリと申します。王女にお会いできて光栄です」
丁寧な礼である。
そういえば王女を守りたいとか言ってたっけ。
「クノリさんですね、話は聞いています。今回は災難でしたね、もっとも他にも不当に不合格になった方々がいますのですぐに探して連絡をしなければいけません」
「あれ、ということは俺らは?」
「合格です、というより私があなたを不合格にするわけがありません」
メイシュはぴしゃりと言い放った。
明言するとは凄いね。
ただそれに首を傾げたのはクノリだ。
「……あの、ずっと気になってたんですけど二人はどういう関係なんですか?」
「ん、ああそうか。そういえば話してなかったね。俺らは……」
「将来王都で会ったら子作りをする約束をした関係です」
「ちょっ!?」
「「えええええええっ!」」
ここで言っちゃうの!?
クノリだけでなくルキすら驚いていた。
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