第18話 助けたらご飯に誘われるもの
「大人しくしておけよ、さもなければこれがどうなっても」
「ちょっと失礼」
「あ?」
俺は後ろに回り込み男からペンダントを奪った。
警戒されていない一番最初にこれをやらないと結局無駄足になるからな。
「誰だお前」
「ちょっと女の子相手に大事な物奪って脅迫した上に多勢に無勢は良くないと思いまして」
男は俺を見定めるように視線を動かす。
「てめえに関係ねえだろ、邪魔すんな」
そして首で襲えと合図した。
護衛の数人が俺に向かってくるが、はっきり言おう、弱い。
俺はよけながら木の棒で身体をしたたかに打ち、次々に戦闘不能にしていく。
その姿を見て男は顔を目を見開く。
「おいおいおいおい、手加減でもしたか? いや、肉体強化の魔術はかかってたはず」
男の言う通り普通の人よりは幾分か動く速度は速かったし、恐らく力も大きかっただろう。
問題は動作である。
緩慢さはないが、その軌道は変に直線的で、それでいて工夫など一切ない。
身体能力任せの完全に素人の動き方だ。
攻撃を避けてカウンターで倒すのは非常に楽で、ケンジ君の爪の垢でも煎じて飲んで欲しい。
まあ、ケンジ君機械だったから爪も垢もなかったんだけどね。
「お、おお、お前俺が誰か知ってるのか!?」
「あー……キッシュ家の?」
「そうだ、貴族キッシュ家のドーラン・キッシュ様だ」
堂々と宣言されてなんだが正直知らない。
「悪名高い?」
「ぶ、無礼だぞ」
無礼と言われても……。
直後、倒れる音がした。
見れば少女が護衛を倒していた。
意外にもこの少女はなかなか強いみたいだ。
「よくも私の物を」
「ひっ! そ、そいつが持ってる! もう俺は知らない、知らないぞ!」
男は自分に魔術を使って一目散に逃げていった。
この場には俺と少女と伸びている護衛達が残された。
「どうぞ」
ペンダントを投げると少女はそれを服の中に入れた。
そして俺を睨んでくる。
助けたつもりだったけどもしかして余計なお世話だったかな。
ちょっと不安になっていたのだが。
「ねえ」
「はい」
「良かったらご飯でもどう?」
とりあえずご飯を奢ってくれるというので場所を変えて食事の店に来ていた。
どうやら目つきが悪いだけで怒っていたわけではないようだ。
少女は普通にご飯を食べ、俺は果実ジュースを飲んでいる。
「ご飯食べないの?」
「俺さっき食べたばっかなんだよね」
「ふーん」
俺の前でどんどんご飯を食べていき、みるみる積みあがっていく皿。
ていうかこの子食べすぎじゃない? その体の一体どこに入ってるの?
ちょっと引きながら見ているとようやく食べ終わった。
「さっきはありがとう、助かったわ」
「いえいえ、俺要らなかったような気もしたけどね」
「ペンダントを取り返してくれただけでもありがとうっていう価値はあるわ。あなたも強いのね」
「それを言ったら君もじゃない? 槍使いなんだね」
指さすと誇らしげに槍に触れた。
「そそ、槍使いのクノリ、隣国じゃちょっと名前が知れてるんだけどね」
「え、別の国から来たの?」
「そうよ、今回の兵士選抜試験に出るためにね」
「へ、へえ……」
隣の国からも来るんだ、凄いな。
「あなたもそうじゃないの?」
「うん、そのつもりだったけど……そういえばクノリさんは」
「クノリで良いよ」
「じゃあ、クノリはどうして選抜試験なんて行われるか知ってる? 俺が聞いてた話だと兵士は常に募集してるって事だったからいきなり試験があるって聞かされて驚いたんだよね」
「ええ、これ見て来たんじゃなかったの?」
クノリは一枚の紙を見せてきた。
「なにこれ」
見ると紙には兵士選抜試験の話が書かれており、優秀者は王女の親衛隊になれるって書いてある。
「ええ! 知らなかった」
「これ凄く有名よ、だから応募者が殺到してるから試験なんてやるんだと思ってたけど」
メイシュとか王都にいるんだから手紙で教えてくれても良くない?
一応俺兵士志望だって知ってたよね、あの子。
「ふふ……とりあえずお互い頑張りましょう。ところであなた名前は?」
「イクス、イクス・トットベル」
「トットベル? 下に家名……もしかしてあなた貴族?」
「一応ね」
「……そう」
それまで和やかに話していたはずなのに、空気が急に冷たくなった。
「え、あれ……」
「じゃあ、私行くわ。飲み物代は払っておいてあげるからこれでさっきの分は帳消しね。別に助けてもらわなくても良かったし」
「え、ええ……」
状況がつかめず困惑しているとクノリは槍を片手にこちらに振り返る。
「さっきはありがとう、けど悪いわね。私貴族って嫌いなの。試験当日は話しかけないでね」
それだけ言い、クノリは歩いて行った。
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