第6話 薬作りは素材集めから
十二歳の誕生日を迎えた。
八歳の頃と違い身体も大分成長したがまだまだ大人ではない。
四年たったが変わらず実力を隠し地味に過ごしている。
ただこの四年の間に少しだけ状況が変わった。
まず、次期当主が決まった。
勝ったのは長男のジラフ兄さんだ。
まあ、トナン兄さんと能力的にはあまり変わらなかったが年齢の差は大きかったのだろう。
当主争いに敗れたトナン兄さんは別の貴族家へ婿に入った。
向こうはあのトットベル家と縁が出来るならと喜んでいた。
続けて父親のレブ・フォン・トットベルだが。
前より俺に優しくなった。
当主争いに決着がついてずっとぴりついていた気持ちがほっとしたのもそうだろうし、最近身体の調子が悪いのもそうだろう。
だが、そんなことで生まれた時から無能と言われていた俺に急に優しくなるわけはない。
一番の理由はあれだろう。
とんとん……とノック音が聞こえた。
見ると執事のルファサが手紙を渡してきた。
「誰から?」
「メイシュ様からです」
そう、あれ以来メイシュから何かと手紙が届くようになった。
レブでもジラフでもトナン宛でもない。俺宛にである。
内容は近況報告が多いが、何となく好意を抱かれてるんだろうなと気づいているので、俺は毎回ではないが出来る限り返事を返すようにしている。
それもあってかレブは俺に優しくなったのだ。
きっとメイシュも割と有力な貴族の息が掛かっているだろうから、レブは損得を考えているのだ。
大人は汚いぜ。
ともかく、当主も決まり、ジラフ兄さんもレブも俺への敵意の目が薄くなってきたということで、俺もそろそろ自由に動き出すことにした。
トットベル家の領地内には様々な種類の草木が生えている。
本を頼りに薬の元になりそうなものは十じゃきかない。
薬師や商人を目指す俺としては非常に魅力的な場所である。
というわけで、背中に小さな籠を背負って森に来たのだが。
「イクス様一体何をしているのですか?」
後ろから突然声がして驚いたが、見ればメイドが首を傾げて立っていた。
淡いピンク色の髪、長いまつ毛に気の強そうな瞳、顔は小さくそれでいて整っている。
身長はあまり高くないが華奢で肌が白い。
彼女は去年から俺直属のメイドとしてつけられた少女だ。
名前はシャミと言い、年齢は俺より二つ上、そしてルファサの姪である。
本当は見目美しい事から、今後の妾候補としてジラフ兄の専属メイドになる予定だったのだが、ルファサがどうしてもとごねて俺の専属になった。
別に専属メイドとか良かったのに……。
まあ、てきぱき動くしベッドメイキングに雑用にと仕事も早いからいいけど。
「んーと、薬を作ろうかと思って」
「薬ですか? そんな大変な事をどうしてまた」
「ほら、俺って15になったら家を出て兵士になるでしょ? でも俺は兵士の後商人か薬師になる予定だから今のうちに覚えておこうと思って」
「ええ……」
言ったとたん、シャミは嫌そうな顔をした。
「な、何?」
「イクス様当主にならないんですか?」
「いやいや、もうジラフ兄さんが当主に決まったじゃん、もう無理だよ」
「そうなんですか? てっきり15になったらイクス様が当主になると思っていました」
「どうしてさ、俺は無能で名が通ってるよ?」
「それを言ったらジラフ様ですよ。この前なんて執事やメイドの前で頼まれた仕事には誇りを持て……なんてビシッと決めた後にレブ様から言われていた用事を忘れていたらしくこっぴどく怒られていましたよ」
フラグを立ててからの回収が酷い!
「……やめてあげなよ、ジラフ兄だって頑張ってるんだよ。あれでも」
兄の情けない話を聞いたところで俺は再び薬の素材探しに森の奥へ入っていく。
すると後ろからシャミもついてきた。
「どうしたの?」
「イクス様が森に入るのでしたらご一緒させてください」
ま、もう有能ってばれても問題ないか。
「良いよ、じゃあついてきて」
俺は次々と目当ての物を集めていくとシャミは、不思議そうに草を見る。
「イクス様はどんどん進んで籠に入れてますけど薬の元になる薬草をちゃんとわかってるんですか? もうここフォリッシュ川ですよ。川でも薬草を取る気ですか?」
「流石に川では取らないよ。でもそうだね、前から森にはよく来てたしね」
「へえ……じゃあこれは何ですか? 草じゃないですけど」
「それはコウゴンだね、もとはコガネバナっていう花の根なんだけど、乾燥させれば薬の元になるんだ。解熱と消炎作用があるから炎症を抑える系の薬草として使おうと思ってさ」
「へ、へえ……じゃあそれは何ですか? 樹から取った皮じゃないですか」
「カイヒだね。見て、外見は暗赤褐色で中は鮮やかな赤褐色でしょう? これも乾燥させれば薬草になるんだ。これには鎮痛作用と消炎作用があるからね」
「……じゃあ今持ってるそれは何ですか? 黄色と灰色が混じってるそれです」
「ルッコンだね。これも乾燥させれば薬の元になるよ。まあこれは熱と痛みを取るんだけど何よりさっきの二つの薬草の力を促進させる便利な物だね。本当は切って小さくした方が良いんだけど今は良いかな。はい」
しっかり土などを払い布で拭いた細長いそれをシャミの方へ向けた。
「え、なんですか?」
「口に入れてみて、きっと甘いよ」
「ほ……本当ですか? というか口に含んでも大丈夫な物なんですか?」
「もちろんだよ、俺が信じられない?」
シャミは俺とルッコンの根を交互に見て逡巡していたが、ようやく決心がついたのか細いそれをゆっくりと口に含んだ。
「あ、甘い」
「でしょ?」
しばらくシャミは口をもにゅもにゅ揺らしていたが急にそれを吐き出した!
「どうしたの?」
「なんか、急に辛くなって」
「ええ! 渋みはなかったかい!?」
大げさに驚いた振りをしてわざとらしく聞くと、
「は、はい! 渋みはそうでもなかったです! 毒とかじゃないですよね!?」
俺の態度に釣られてシャミは慌てて言うが、それを聞いて冷静にシャミが吐き出したルッコンを拭いてから籠に入れた。
「甘さと辛さがあって渋みが少ないのは良いね。いい薬の素材になりそうだ」
「え、あれ? イクス様妙に落ち着いてますね。ていうか私の質問の答えは……」
「ん、ああ。大丈夫だよ。ルッコンはそういうものなんだ。最初は甘くて後から辛さが出てくるんだ。薬草は基本的に甘さと辛さが強くて渋みがなければ良いものなんだ。覚えといて。ちなみに毒とかはないから大丈夫だよ」
急に落ち着いた態度に変わるとシャミがぽかんとしてたから、俺は安心させるように微笑んであげた。
その後、騙されたと気づいた瞬間、殴りかかってきた。
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