せっかく転生ボーナスで最強の剣使いとして技とか覚えたのに魔術重視の世界に来ちゃいました。魔力ないから貴族家から出ていくけど薬師目指すし別に良いよね?

白雪ななか

第一部

第1話 プロローグ



 目を覚まし広間に向かうとすでに家族が席についていた。



「おはようございます」


「おいおい、イクス寝坊だぞ」


「すいません、眠れなくて」



「これで何回目だ」


「まあまあ、ジラフ兄さん。イクスだってまだ六歳。僕らが六歳の頃を思い出しなよ。仕方ないと思うな。もっともイクスはもうすぐ七歳だし、僕はその頃寝坊なんてしなかったけどね」


「トナン兄さん……」



 ゴホ……と奥の席からわざとらしい咳払いが聞こえた。



「もういい、イクス、早く座れ」


「はい、すいませんお父様」



 しょぼくれた顔をして俺は自分の席に座った。


 イクス・トットベル。


 それがここでの俺の名だ。



 魔術の名門トットベル家で最も立場が弱い三男。


 スープを飲みながら俺はちらっと席についている俺以外の三人を見る。



 一番奥に座っているのは俺の父親にして当主のレブ・フォン・トットベル。



 続けて七歳上の長男ジラフ・トットベル、次期当主に最も近い男。



 次に五歳上の次男トナン・トットベル。



 それぞれが魔力を持っており、魔術の名門トットベル家の名にふさわしい実力を持っている。


 ちなみに俺は唯一魔力を持っていない。魔術の名門から言わせれば落ちこぼれだ。


 兄弟は何かと父親に目をかけられている中、俺は一切そういった事はない。



「イクス、執事のルファサが呼んでいた、食事を終えたら行け」


「はい、わかりました」


「イクスはルファサに好かれてるな、将来は執事になるのかな?」


「トナン」


「はいはい」



 小馬鹿にしたように笑った。


 トナン兄さんは言い方こそ優しいが平気で皮肉を言う、もう慣れたけどね。




 魔術の名門家で魔力がないのは致命的だ。


 それに寝坊はするし言われたことはよく忘れる、更に言えば何にも才能がない。


 落ちこぼれ……完全に俺はそう思われているのだ。


 否定する気はないけど。



 俺は食事を済ませた後、執事長のルファサの元へ向かった。



「イクス様、わざわざお手を煩わせて申し訳ありません、しばらく開いていなかったので蔵に埃が溜まってしまいまして」


「風を送ればいいんでしょ? いいよそのくらい、その代わりご飯をもう少し貰える? 扱いが酷いからスープもお代わり出来ないしパンも僕だけ一枚足りないんだ」


「はい、いつも通りということですね。かしこまりました、ではこちらを……」


「うん」



 俺はルファサから一本の木の棒を受け取った。



「本当ならイクス様にお願いするほどではないのですが……」


「良いよ、何もしないで追加でご飯を貰うのは落ち着かないからね。じゃあその小窓を開けてくれる?」


「はっ」



 ルファサが小窓を開けたところで、俺は木の棒を横に薙いだ。


 瞬間、風が起こり埃が風に乗って舞う。



 更にそれは流れに乗って蔵中を行き渡り、最後に小窓を通って全て外へと出て行ってしまった。



「イクス様お見事です、そんな木の棒で風を自由自在に操る方は私三十年以上執事をしていますが見たことがありません。魔力を持っていないとは思えませんな」


「ありがとう、でも秘密だよ」


「ふふ……はい、口外いたしません。ですが称賛はさせてください。イクス様は天才です」



 ――そう、今日も俺は家族に嘘をついている。

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