〔Side:Shino〕27. 言いそびれた理由


 やっぱり来る前に行っておくべきだったよね……

 ジュリは「挽回」って言っていたから、きっと少し怒ってるのかも……

 突然「今日はデートです」って出先で伝えられたら、普通に困るものだし……

 何より初対面の人たちと一緒じゃつらいよね……ほんとごめんなさい……


 言い出せなかった……だってこれは……



 ――


 数日前のこと。


「デートに誘うのはどうしたらいい、って普通に誘えばいいじゃん。あーしらと違って一緒に住んでるんだよね? 話す機会なんていっくらでもあるでしょ」


 リオ先輩に相談してみたら、そう言われてしまった。

 リオ先輩はジュリとも歳が同じで、会社務めだし何かしらのヒントが得られるかと思っていたのだった。


「リオ、月岡さんはたぶんそういうことを言ってるんじゃないと思う……」


 笹原さんにはウチが聞きたかったことが伝わってくれていたらしい。


「え~? なんでミウが紫乃の肩持つわけ?」


「リオはそういうこと気にせず誘えるかもしれないけれど、月岡さんも私も、いろいろと気になっちゃうことがあるの……ね?」


 ウチは笹原さんの助け舟に素直に頷く。


「それで……いったん整理しようと思って、月岡さんが聞きたいのは、どうしたら社会人の想い人が喜んでもらえるかってことで、いいの?」


「想っ!? ゴフッえほっんん!?」


 ウチは反射的に頷きかけて、口の中にあったコーヒーを吹き出しかけた。


「え? ごめん、違った??」


 ちが……う、よね?

 だって、ウチはルームシェアを続けていたいっていう不純な動機で、ジュリの好意を利用しているようなもので、本当ならデートとかそういう話ではなかったはず。


 でも、この間ジュリには……



 自分で自分が何を考えているのか、一番わからない。

 ジュリに待っててって言ってしまったけれど、まだ準備はできていない。


「ミウこそわかってなかったんでしょ。要は、相手に一緒に遊びたいって言えばいいだけで、別にそんなに構えることはないんだってば」


「私は誘うなら、いつでも本気の私で会いたいから、事前に知らせてほしかったりしますよ? でも、いつもそんなに時間をくれないのですけれどね」


 ちら、と笹原さんはリオ先輩の方に視線を向ける。

 その視線を正面から見つめ返して、リオ先輩は微笑む。


「ミウはいつでも世界一素敵だから、本当は準備なんていらないとあーしは思ってるけれどね?」


 どうやら、この二人の間で意見が食い違うことがあっても、それが気にならないくらいにお互いに想い合っているからか、何事もなくうまくいっているとわかった。


「2人の意見はすごく参考になりました。ありがとうございます。もっとジュリにとってどんなことが嬉しいのか、自分でも考えてみることにします」


「あ、じゃあさ。前に家を見せてもらった時、一緒にチキン食べる話してたよね? でも、いきなり初対面の人とその家でディナーを囲むのって抵抗感あると思ってて、顔合わせというか、今度その人誘って一緒にダブルデートしない?」


「あ、それはいいですね。私もジュリさんとはまだお会いしたことないから、ご挨拶はしたいなと思っていたところで」


「あの、2人とも? ウチとジュリはルームメイトなだけで、ぜんぜん付き合ったりとかしてないから、ダブルデートってちょっとおかしくないですか?」


「でもキスはしたんでしょ?」


「……」


「そういえば月岡さん、あれから進展あったなら私たちに聞かせてほしいな」


「ぜんぜんそんな進展とか別にないし……」


「あはは、わかりやすく進展ある感じじゃん! これはもう、どんな心境の変化があったのか、詳しく聞くまで帰せないね」


「月岡さん、嘘ついてもわかりますからね? 伊達に1年も見つめ続けてたわけじゃないですからね、私」


「……ミウ、今日は紫乃と別れたら逃がさないから……」


 結局この二人といると、どうしても過去の話が出てしまうし、その都度二人の空気が一瞬不穏になる。

 でも、お互いの今の想いをしっかりと確かめ合っているから、あまり大事にはならないのかもしれないのかな?なんて思った。



 ――



 ウチとしては、この「ダブルデート」は ”デート” としてはノーカウントで、一緒に遊んでいる友人二人をジュリにも紹介したかった。

 そもそもこれはリオ先輩と笹原さんの二人が、いつもどういうデートをしているのかを見せてもらうだけで、本当にデートかというと、デートの前の予行演習みたいなもので、ジュリの反応を確かめる意味でもデートのための情報集めの一環だった。


 ジュリ本人を巻き込んで、他人のデートをのぞき見するような感じで、なんだか悪いことをしているみたいな気持ちがウチの中に居座っていた。


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