〔Side:Shino〕17. ルームツアー


「エントランスだけじゃなくて、各階にもオートロックがあるなんてすごい厳重……」


「そうそう、カメラもエントランスに何ヶ所かと、エレベーターとか階段室にも付いてるよ」


「そうなんだ……」


 笹原さんは先程から小声で、緊張しているようだった。

 リオ先輩が近くにいないからなのかもしれない。

 触れないまでも結構近くで立ち尽くしている。

 こういう時、ウチはどうしたらいいのかな……?


「あは、広かった〜! 洗面台も明るいし鏡も広くて見やすい。メイク捗りそ。って、ミウー? 紫乃とはもっと離れてよ」


 御手洗から出てきてそう声をかけてきたリオ先輩に、笹原さんがパタパタとスリッパの音を鳴らしながら駆け寄って行く。


「リオ、ちょっと広すぎてビックリしちゃって」


「そっか、ごめんごめん。ミウ、初めての場所とか慣れるまで時間かかる方だもんね。あーしと一緒に見て回ろっか」


「うん、リオと一緒なら大丈夫」


「ところで紫乃、業者の人とか呼ぶ時は大変とか聞くけど、ここもそうなの?」


「いえ、それほど大変とは思ったことはありませんね。コンシェルジュサービスに手配を依頼したら、その契約のところが来てくれるみたいなので」


「あーね、それはあーしも同僚から聞いた事あるわ。ここもそうなんだ、いいね」


「わぁリオ見て、広いキッチン。コンロが横並びなのもいいなぁ。奥のコンロって届かなくて」


「ミウ、このキッチンなら料理とかしたくなったりするんじゃないの?」


「そういえば、リオも月岡さんも普通に届いちゃうんだよね……私平均的な身長のはずなのに、わかってくれる人がここにはいないなんておかしいな……でも、このシンクも使いやすそう。あら? これは、なにかしら、月岡さん?」


「あー、それはコンベクションオーブンっていうらしくて。大きいよね。なんでも入るけど、ウチはまだ使い方がイマイチわかってなくて、活躍してないかな」


「へぇ〜、オーブン料理に使うんだぁ。ちょっと使ってみたいかも。クリスマスのチキン料理とか作れそう」


「ロティサリーチキンとかローストチキン? あれってオーブンで焼くんだったよね? たしかに作れそうかも。今度チャレンジしてみようかな。レシピさがしとこ」


「お、いいねぇ。作る時はあーしらも呼んでよ。みんなで食べないと無くならないでしょ」


「あー……うーん、それもそうですね。2人ではなかなか食べきれないですから、ルームメイトにも相談してみます」


「お〜、楽しみにしてる」


「月岡さんって料理上手そう。勝手に開けちゃったけど、コーヒーの器具とかもいっぱい仕舞ってあって、キッチンも綺麗に手入れされててすごいね」


「そうかな? 大学も辞めちゃったから、他にすることもないし……勉強とか仕事とか、色々してる笹原さんやリオ先輩より、ウチは暇人だからこれくらい……」


「そんなことないよ、月岡さん。私みたいにバイトもしてない大学生なんて時間は沢山あるけど、お部屋はこんなにきれいじゃないもの。さっきの話なら、ここの家事は全部一人でしてるんでしょ? 2人分もやってこんなにキレイにできてるのってすごいことよ?」


「そうだよ紫乃、もっと自信持ちな! あーしが見てきた部屋の中でダントツ綺麗だから」


 ニカッと笑ってみせるリオ先輩と真剣に褒めてくれる笹原さん。

 リオ先輩は付き合っていた人の数は両手でも収まらないし、顔も広い。きっとたくさんの部屋を見てきたのかもしれない。

 笹原さんも真面目で嘘をつくような人じゃない。

 今日は2人に来てもらって良かったかも。


「ありがとうございます。お酒も買ってきてますし、そろそろ三次会にしませんか?」


「おけ、したらあーしはグラス持ってくね。どれ使っていい?」


「ありがとうございます。同じ大きさのはないんですけど、お好きなグラス持って行って大丈夫です」


「これとこれとー……はいミウはこれね」


「わぁ猫のコップ可愛い。月岡さん、私これ使っても大丈夫?」


「ああ、うん。ありがとう気にしてくれて、使って大丈夫だよ」


「ううん、友達の家だもん、ちゃんと聞いておかなきゃって思って」


「うん、ありがとう」


 友達……笹原さんがちゃんと言葉にしてくれるのはありがたかった。

 いつまでも元カノと思ってしまうのも失礼で、笹原さんにはもう好きな人もいるんだもの。


「こらこらこらこら、二人で見つめ合うの禁止だってば!」


「リオ先輩、大丈夫です。ウチら友達なので」


「うん。そだよリオ、妬いてくれるのは嬉しいけど、私はリオしか見えてないって事も、ちゃんとわかってほしいな」


「それなら、まあ……ミウはあーしだけの大切な彼女だから、離したくないって思ってるだけ」


「ありがと、リオ大好き」


「あーしもだよ、ミウ」


「アハハ……ごめんねお二人共、邪魔したいわけじゃないんだけれど、ちょっと通してほしいかなーなんて……お菓子盛り付けようかと思ってて袋が、そこに」


 買ってきたコンビニ袋に指をさす。


「ごめ、紫乃、はい袋」


「ありがとうございます、2人ともソファーに座っててください」


「おけ、任せた」「はーい」



 ――


 三次会が始まって、ウチは意外に思っていたことを口にした。


「リオ先輩って、意外と束縛系だったんですね。もっとさっぱりとしたお付き合いをする方だと思ってました」


「はあ? 違う違う、あーしは別にそういうんじゃ……全然、元彼とかも全員全くそういうことなかったし!」


「じゃあ、笹原さんは特別に、なんですか?」


「ま、まあね。今まで付き合った男どもは、別に嫉妬とかしたことも無かったし、あーしが冷めても向こうが冷めてもそれはそれで別に次に行けばいいかなって感じだったから。でも、この子は可愛いし取られたくない。あーしのとこにずっといてほしい」


「ふふん」


「笹原さん、やっぱそういうのって嬉しいものなの?」


「うん、嬉しいよ。それにリオがすっごく可愛くて」


「あ、それちょっとわかるかも。リオ先輩普段あんなにサバサバしてる人なのに、笹原さんのこととなるとちょっと幼く見えたかも」


「でしょ? 私の彼女、可愛いんだぁ♡」


「2人ともうるさーい! 年下のくせにからかうんじゃないの!」


「その年下2人に、さっきは負け宣言したのはどこのリオちゃんだったかなぁ?」


「う、うるしゃいっ……ー〜……!」


「ふふふ。でも意外だったなぁ。2人が付き合ってるなんて」


「私もね、リオに告られた時すごくびっくりしたの!」


「ほっとけなくなった。だっけ? かっこいいリオ先輩らしい言葉だよね」


「そう、でも、リオも泣いてて涙でパンダ目になっててね?」


「こらもうやめて……あーしもさすがに恥ずかしいから……」


「だってずっと、こんな話ができる人いなかったから……もう少しだけ、お願い……リオー」


「……しょうがないなぁ……もう、少しだけだよ?」


「ふふ、優しいリオ好き」


 なんかリオ先輩、笹原さんに手玉に取られてる。

 てっきり年上でしっかり者のリオ先輩が主導権を握ってるのかとも思ったけれど、意外と笹原さんの方が主導権を握っているんだなぁ。


「その時もね? 私が月岡さんのことずっと忘れられないでいたから、リオは嫉妬全開できてくれて」


「その話、本人にする? ふふ」


「私たちはもう終わったんだから、別にいいでしょ? 嫌だった?」


「ううん、大丈夫。それより、リオ先輩ってもしかして最初からウチと笹原さんのこと嫉妬するとこから?」


「あー……その辺はー。聞いたこと無かったけど、もしかして」


「な、なに?」


「月岡さん」


「うん、笹原さん」


「ちょっと一旦落ち着こ、2人とも? ごめん、実はあんまり聞こえてなかったんだよね、お菓子美味しいからさ。ねぇ2人も食べな、いっぱい余したら紫乃も困るよね? ね、聞いて? 紫乃、今度は助けてくれるんだよね? ね?」


「次はリオ先輩がウチを帰してくれた時に持たせてくれたのですね。あの時は本当にお世話になりました。ウチ、リオ先輩にものすごく感謝してるんですよ?」


「うん、なら今すぐその感謝を行動に移して、腕離してもらってもいいかな?」


「そうですね、あ、でも、笹原さんにもウチはすごく感謝してて、大学では1人にならなくて済んだのは笹原さんがいてくれたからなので、今はちょっと先輩への恩をお返しすることができないみたいです。ごめんなさい」


「う、嘘つくなっ、昨日まで赤の他人だったでしょ」


「ウチの感謝の気持ちが嘘だなんて酷いなぁ先輩……でも、たぶん大丈夫ですよ。笹原さんですから」


「ちょ、ごめん見捨てないで、紫乃? 今日ミウがいつもよりちょっと怖くて」


「笹原さん、ここなら人目も気にしなくていいし、壁も厚いから音とかも大丈夫」


「月岡さん、わかりました。ではまた、お願いね」


「OK、笹原さん」


「リオ、いただきます」


「んんんー〜……!」


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