14 偽物とは、暇だった

 転生から、ひとつき。

 最近、くだんのアニメで見たたぐいの図書館を見つけたので、もふもふ問題へと関係する何かないかと通いはじめた。利用者は、数少ない。めったに、会わない。為に、わたしがウロウロしたところで問題にもならなかった。


 ただ、転生する前のわたしは図書館にほとんど縁がなかった。

 ので、あたまがクラクラしてしまってはかどらないのが問題。


 おバカは、いけない。王国の文字がわかって感動して読書しまくるところを、どういう書物でもうっかりウトウトしまくるばかりだ。アニメの主人公はたいした教養人であったと感心した。

 では、おやすみ。


「……おい。本格的に、寝るなよ。おまえは、大概だな」


 声がした。そこには同行してなかった赤い髪のおとこのすがたが。


「ああ、紫月殿下。なんです? あなたも、読書です?」

「さも真面目に読書していましたみたいな発言すごいな……。少し、はなしが」


 王太子は物静かな図書館でそのままはなしをはじめる。


「よろこべ。日取りが、決まった」


 ?

「はい? 何の……?」

 何の、はなしだ。


 プリンスへと一任していた供養塔のことではあるまい。

 青い顔でガクブルしながら掛け合いしてみたそうだが、イケおじ黒幕はがめつい懇願をあっさり了承したから。賢者にはすぐさまわたしの発案だとわかったみたいで、あくまで聖女へと恩と媚を売り付けたかったのだろう。

 さすがだ。後が怖い……!


 為に、供養塔のことならとっくにあれこれスタートしている。


 勿論、無教養なわたしに呆れ顔の彼がしたのは別のはなしで。


「おまえの、御披露目おひろめ。あと、向こうの……」


 向こうの、国守さん。そういや、第二王子ふくめてはてさてあっちはどうしているのか。わたしたちをすっかり無視しているのは確実だったが……。


「御披露目、いつです?」


 国民への、御披露目。主に、上級への。国王さまみずから主催する大々的なもよおしだという。フォース王国には聖女とはそれほど大切だということ。

 では、いつ?


「丁度、半月後だ」

 半月、あるのか。まだ。


「みなさんわりかしのんびりしていらっしゃいますねえ」


 そういう、国民性か? 

 彼が、嘆息した。


「おまえの、せいだな。おまえをどうしていいやらお偉方で喧々諤々していた。ともかく御披露目してみるべきだと結論したようだが……。……美雨、大丈夫か? おまえを本物だとしているのは下衆司教一党だけだぞ? 俺は、心配だぞ……」


 マジかよ。

 いや、わかっていたから震撼することでもなんでもなかった。寧ろ、王国の人々がバカではなかったのに感心したまである。よかった、まともで……!


 故に、いい。日取りは、わかった。ので、いい。

 それより、


「……ところで、聖女さんご一行はこのいまどうしております? 実は、そろそろ討伐へと出掛けていらっしゃいます?」


 最近、見てない。どこかでとっくに活動していらっしゃるのか。


「馬鹿、言え。あっちも蛮勇だったら王国の危機の到来だぞ? ……まだ、訓練中だ。弟たちと庭園で然るべき魔術の訓練している……みたいだ」


 訓練。なるほど、訓練――。ちょっと、興味湧く。実戦飛び出たわたしは訓練してなかったから。

 どういう、もの?


「紫月殿下」

 にっこり、見上げる。彼は、見下ろす。


「では、わたしとあなたでデートにいくのはどうです?」


「ぅえ……!?」

 その反応、いらねえ。学べ。

「庭園って、どこです?」


「っ……! あー……。……だよなあ」

 さいです。

 

 かくして、出掛けた。


 城の中の、庭園。

 但し、ヴェルサイユ仕立ての人工的な庭園ではなかった。


 ともかく、広い。開かれた、空間。一面に名なんて知れないきれいな下草はあったが、整列した樹木どころか風に戦ぐ花々さえない空間。

 何もない空間こそ贅沢とかいう道楽かと思ったが、どうやら聖女の育成に寄与している空間みたいだ。


 いま、本物の聖女が魔術の適切な訓練しているみたいに。


 おそらく、模擬戦闘。

 本物ではない幻影もふもふへと攻撃している聖女。幻影とはいえふわふわもこもこきゃわわだったが、攻撃するのにいうほど気に病むふうではない彼女。

 強い。己がこころを鬼にするほど真剣だというのだろう。


 さすがは、聖女。とうとい。


 なにより、まわりの男性たちふくめて絶賛キラキラしている。

 特に、失敗した彼女にも激励している弟くんが爽やかで。きれいな女性ときれいな男性がキラキラしている。


 何て、理想的だ。わたしたちがヘドロと戦闘する光景とは大違いだ。


 容貌だけいいとなりの王太子にあやまりたくなる。あっちに参戦できたらキラキラできたというのに。どうしてこうまでハズレを選択してしまったのか……。


 ところが、邪悪きわまるハズレに取り憑かれているおとこは、


「……なあ。これ、デートか?」


 そっちを、気にした。なんでだ。

「偵察、ですねえ」


 正確には、見物。偵察するほど聖女ご一行を敵に回すつもりはないので、わたしが経験できない訓練なるもの見たくて来ただけ。満足した。


「……じゃ、デートは?」


 しつこい。


 とはいえ……。

 彼を、うかがう。ああいうキラキラには興味なさそうだったが、格好つけなくともキラキラしているそのひと。

 となると、キラキラしてないのは勿体ないかもしれない。


 いや、邪悪とのデートでキラキラするかはともかく、このまま放ったら露ほどもキラキラできまい。キラキライケメンだったらキラキラしないと。


「あなたがそんなにしたいというなら付き合いますけど……?」


 めっちゃ、暇もある。

 地下迷窟にはちょくちょく出向いているとはいえ、本物じゃない聖女にはそうそうやることないのだ。


 一応、御披露目にも種類さまざま準備あるそうだったが、別に、伝統ともなう社交界へデビューするわけでもなく、なにより、暗黒の魔術についてもちょっと対策してあるから、わたしがいまから忙しなく何かする必要ないのだ。


 ともかく、ご壮健に――そう、言われた。かの、美青年に。


 故に、暇である。

 デートも、アリ。


 好適な発言につかのまびっくり顔をしていた彼は、


「ああ、うん。その……頼む」


 目を、逸らした。少し、頬が赤い。

 おい。それ、やめろや。


 だが、うつむくひとみは星屑みたいにキラキラしていた。ううーん。


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