7 戦闘、してみた
転生特典、しゅごい!
実は、こういうたぐいのゲームもそんなにしたことないので、イキったところでちゃんと戦闘できるか心配だったが、転生したわたしに憂慮など寸毫たりとも必要なかった。
からだが、軽い。怖いほど、軽い。身体性能、おかしい。
本当、ゲームのキャラをたたかわせているみたいなこの感覚。
当然、ちからを発動しているのはわたしの筋肉ではなかった。これこそ、魔力。動こうと思ったら魔力が体内にみなぎるのがわかった。
自動的に、みなぎる。望むまま、活かせる。
まったく。特典、ばかりだ。
転生、しゅごい!
為に、どろどろヘドロを討伐するのも大変ではなかった。何となく強そうな暗黒の魔術をつぎつぎ見舞って、泥の飛び散る攻撃躱しつづけて杖で殴り仕留めた。
転がったいのちはひかりに包まれて霧消していく。
のち、そこには餞別めかした蓮の花が一つだけ残された。
泥に、蓮か。
なんだか、粋である。
「次ね――なむさん」
また、付与した。いのちが、泥になる。
たしかに、惨い。なるほど、人でなし。
だが、ただしい聖女ではないならなんでもやるしかないのだ。勿論、うろつく魔獣に迷惑している国民のためなどではなく、清らかな勤労へと返される国民の税金が本命だったが。
清らかさ、どこ?
……ともかく!
聖女つづけていくならパワーアップするしかないのだ。
「とう!」
杖を、ぶつける。一匹、また、仕留めた。
つぎつぎ付与してつぎつぎいのちを殴り斃しつづける。
まさしく、邪悪。
しばらく、つづけて――気付くと一帯にはきれいな蓮の花がワサワサしていた。
「おお。蓮が、いっぱい……。これなら、どうかな?」
経験値は、貯まった……気がする。バトルにおいてもどこにも特に何も表示されないので、レベルアップだなんてあるのかどうかもわからないが、果たして多少だったらパワーアップしている気がする。
おそらく、よかろう。うん、うん。
一方、ポンコツ同行者はびっくりするほど悪戦しているよう。
「うおわぁ!」
べシャッ! たびたび、転倒した。
もう、泥塗れだ。泥塗れの、イケメン。つるぎを振ってもほとんど当たってないので、パンチを繰り出すヘドロが活き活きしている。おいこら。
マジ、使えない……いやいや。
「おい、ポンコツ! 王国きってのチートな王族パワーはどうした!?」
絶対、あるはず。王族だし。そういうちからがあるから王族しているはず。
でないと、あたりに魔獣うろつく王国では君臨できまい。愛らしいもふもふしばいて建国した国だろう。
つまりは、絶対、彼の父はまさしくラスボスみたいなおとこだ。(確信)
ところが、彼は叫ぶ。
「何だ、それ!? 知らんぞ! というか、口調……!」
あら、どうでもいいこと注意する余力あるじゃない。敵前逃亡しているすがたはいただけませんが。
「ぎゃあっ!」
また、転倒した。わたしに、叫ぶ。
「下衆! なんとか、しろ!!」
……真実、ないのか? チートは? 血統、どうした?
「…………、…………。…………、……ふむ」
杖を、振るった。
「凍れ」
ヘドロを、凍らせる。
それから、泥の中ですっかり腰を抜かした彼を立たせた。何がなにやら的な顔で彼はぱちくりしている。腕を、引っ張る。
「……紫月殿下。ひとまず、撤退です」
「はあ? てっ、撤退……?」
蓮の中に、踏み出す。清らかな、白の中に。
「おのれにちからがあるのはわかっているはず。……ですよね? 雑魚とはいえ王族にはちゃんとありますよね? というか、あれ! ところが、どういうわけだか出力するのに失敗している。ですので、ちょっと訓練して無理やり引き出しましょう!」
「へっ? ひっ、引き出す……?」
「わたしが、教えます」
脳の中の、抽斗。何か、あるはず。なら――
彼が、つぶやく。
「おまえが……。おまえが、手ずから?」
「ふう。やれやれ、どこまでいってもしょうがないひとですねえ」
ふへっと、笑う。
我ながら、悪っぽく。
「うわ。何だろう、イラつく……」
気持ちは、わかった。
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