モブNPCの俺が【思い出】スキルで最強になり、不遇職の美少女を幸せにするまで
境界セン
第1話 モブNPCの憂鬱
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
また、このセリフだ。俺、アレンはこの街の道具屋のNPCとして、もう何度この言葉を繰り返しただろうか。前世の記憶が蘇ってから、体感で三年。ゲーム内の時間経過は分からないが、とにかく俺はこの単調な毎日にうんざりしていた。
「見てるだけだ。話しかけるな」
鎧姿の冒険者が、いかにも面倒くさそうに手を振る。はいはい、分かってますよ。俺も社畜だったからね、その気持ちは痛いほど分かる。話しかけられたくない時ってのは、確かにある。
(それにしても、だ)
心の中でため息をつく。俺の人生、いや、NPC生はこれでいいのか?ブラック企業で馬車馬のように働き、最後はあっけなく過労死。女神様的な存在に「お疲れ様です。第二の人生は、少しゆっくりできる世界にしましたから」なんて言われて転生した先が、これだ。
確かに、命の危険はない。毎日同じ時間に起きて、同じ場所に立ち、同じセリフを言うだけ。ノルマもなければ残業もない。究極のスローライフと言えなくもないが、あまりにも刺激がなさすぎる。
「あの、すみません。これ、買い取ってもらえますか?」
ふと、か細い声が聞こえた。カウンターの前に立っていたのは、ボロボロのローブを纏った少女だった。顔は煤で汚れ、フードの奥から覗く瞳は、怯えたように揺れている。
「買取ですね。拝見します」
俺はいつもの営業スマイルを貼り付け、彼女が差し出した小さな布袋を受け取った。中から出てきたのは、奇妙な形をした木彫りの人形。呪われているのかと思うほど、禍々しいオーラを放っている。
「これは…『呪いの人形』ですね。すみませんが、当店では扱えません」
「そ、そんな…。どこへ行っても同じことを言われて…」
少女の瞳に絶望の色が浮かぶ。彼女の持つ雰囲気からして、おそらく職業は『呪物使い』。パーティーメンバーの能力を少しだけ上げる代わりに、常に不運を呼び寄せるという、誰もが避ける不遇職だ。
「これしか、売れるものがなくて…。今日の宿代も…」
俯く彼女の姿に、前世の記憶が重なる。金がなくて、昼飯を抜いた日。疲労困憊で、駅のホームで倒れそうになった日。誰も助けてはくれなかった。
「……」
俺は無言で懐から銅貨を数枚取り出し、カウンターに置いた。
「えっ…?」
「人形は買い取れませんが、個人としてなら話は別です。俺が買いましょう」
「で、でも…こんなものに価値は…」
「価値があるかどうかは俺が決めることです。ほら、早くしないと日が暮れますよ」
少女は戸惑いながらも、何度も頭を下げて銅貨を受け取り、店を飛び出していった。一人残された店内で、俺は手の中の人形を見つめる。
その時だった。俺のユニークスキル【思い出】が発動したのは。
【呪いの人形】
作成者:リリア
思い出:初めてパーティーに入れてもらえた記念に、徹夜して作ったお守り。でも、不気味だって笑われて、捨てられた。悲しかった。悔しかった。
脳内に、少女の悲痛な感情が流れ込んでくる。これが俺のスキル、【思い出】の力。触れたモノやヒトの記憶を読み取る。ただ、それだけだと思っていた。
(ん…?なんだ、これ…)
しかし、その日は何かが違った。人形から流れ込んできた少女の『悔しい』という強い感情が、俺の体の中で渦を巻き、力に変わっていくのを感じる。
【スキル:呪い耐性(小)を獲得しました】
【スキル:手先の器用さ(小)を獲得しました】
「……は?」
目の前に浮かび上がったウィンドウに、俺は思わず声を漏らした。今までただ記憶を覗くだけだったスキルが、経験を力に変えた…?
「おい、アレン!いつまで突っ立ってるんだ!店番をサボるな!」
店の奥から、店主の親父さんの怒鳴り声が飛んでくる。俺は慌てて人形を懐にしまい、いつもの定位置に戻った。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
いつもと同じセリフ。いつもと同じ日常。でも、何かが変わろうとしていた。俺のこの、退屈なNPC生が。
(リリア、か…)
さっきの少女の名前を、心の中で呟く。明日も彼女は、この街のどこかで、たった一人で戦っているのだろう。
俺は、少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。退屈な日々に差し込んだ、一筋の光。それは、不遇な美少女との出会いと、俺のスキルの覚醒だった。
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