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ㅤちょっとだけ疲れてきた。そういえば私受験生だった。何やってんだろ、貴重な夏休みに。あ、ダメだ。正気になったらこの旅終わりなんだった。狂っていようか、もう少し。

 今の時間、多分17時になったくらい? 何キロ歩いたのだろうか。ダイエットになってるかな? 1、2キロ痩せたところでそんなに変わるもんじゃないだろうけど。

ㅤメートルとグラム、キロの後ろの付ける文字だけで意味が全く変わる。なんかちょっと面白い。あーあ、身長欲しい。願わくば160センチメートルになりたい。身長低いのって女子ならステータスに思われがちだけど、普通に不便だから嫌なんだよね。高いところにある物が取りにくいんだよ。

 成長したいのかしたくないのか、私ですらよくわからない。自分の気持ちを整理するために、私は今こうやって歩いている、はず。未だ成果は得られてない。なんならしっちゃかめっちゃかになってるような?

 さっきより少し過ごしやすい気温になった。段々と燦々と空に浮いてた太陽もだいぶ西に傾いてきている。

 ああ、あと1時間。私が未成年でいられるのは、あとそれだけ。1時間っていう言い方は、なんだか60分って言い方よりも短く感じる。60分って、何秒だ? 5分が300秒だから、10分は600秒。ってことは……3600秒? あれ、60分よりもなんか短く感じるぞ。じゃあ、やっぱり未成年でいられるタイムリミットはあと60分っていう言い方にしよう。その方が、長く感じられて少し楽ちん。

 お、隊長!ㅤおよそ30メートル先にコンビニ発見!ㅤ水の残量が残り僅かです。補給しませんか?

 それもそうだな。せっかくだから、アイスも買って糖分も補給しようじゃないか。

ㅤ流石隊長!ㅤ名案です!

 なんて、独り脳内芝居。思考は誰にも見えないから、自由で楽しい。もしいつかどこかの天才が人の脳内丸見え眼鏡なんて作っちゃったら、どうしよう。今の私が考えてるあーだこーだが誰かに見られてるとか、もしそんな事実があったら、死ねる。私の世界は永遠に私だけのものであって欲しいな。

 自動ドアが開く。ただコンビニ内へ入っただけなのに、一瞬で体内の熱が一気に放出された。きもちい。らっしゃーせーって、店員が言った。パツキンの若い女性。多分同い年くらい。きっとバイトだ。勤務態度はあまりよろしいとは言い難いな。でも、働いている時点で充分偉い。私よりも遥かに。

 ストロベリーフレーバーのアイスバーと麦茶をレジに運ぶ。パツキンお姉さんはまぁまぁ乱雑な手付きでバーコードを読み取って、321円です、と無機質に言った。1000円札と1円玉をキャッシュトレーにそっと置いて、アイスと麦茶を受け取った。ありあしたー、と聞こえる発音で言いながら、パツキンお姉さんはお釣りを渡してきた。

 彼女は適当に仕事をしているらしい。彼女の非常につまらなそうな、空虚な瞳を見つめていたら、なんだか今まで考えてたあれこれが馬鹿らしくなってきた。

 コンビニを出る。また熱気が肌に浸透していく。結露まみれの麦茶を取り出した。普段は600ミリリットルなのに、期間限定で650ミリリットルになっているらしい。ちょっとお得な気分。

 デシリットルっていう単位があった気がする。小学校以来、見かけてない。何のために習ったんだろ。1デシリットルは10ミリリットルだっけか。65デシリットルらしいお茶のキャップを捻った。そのまま流し込む。水より断然美味しい。

 お次にアイスを手に取ってみる。包装をゴミ箱に押し込んで、口に含んだ。ヒヤリとしたのを触覚が、いちごの香りを嗅覚が、甘酸っぱいのを味覚が脳に伝えた。美味しい。五感がひとつでも欠けてたら、どうなるんだろ。私は美味しいものが大好きだから、1番味覚が大事だと思う。食べるって生きることなんじゃないかな。わからん。

ㅤ体感ではあるけど、体温が3度ぐらい下がった気がする。実際どうかは知らない。

 私はアイスは齧って食べるタイプ。舐めるなんてまどろっこしい事やってたら溶けちゃうし。ちなみに頭がキーンとしたことはない。

ㅤあっという間にピンク色は消えて、薄茶色の木の棒だけが残ってしまった。とりあえず糖分補給完了。隊長、再び参りましょうか。

 うむ、それでは宝を目指して西に前進!

 宝? 何それ。私、どこを目指してんの?ㅤあ、そうだった。逃げてるんだった。

 日本って、世界の方では年が明けるのが早い。なんでかっていうと、日付変更線の結構近くに位置してるから。だから、西に行けば行くほど時間の進みが遅くなるっていうこと。恐らく。ほぼ誤差? それはそう。悪足掻きにも程がある。

 17歳、未成年の最後の抵抗。多分あと30分くらいでこの旅は終わり。疲れたけど、もう少しだけ西へ。

 メロスは確か、少しずつ沈んでいく太陽の10倍も早く走ったんだっけ。ちゃんと計算した人が、メロスの速度はマッハ11を超えてるとか言ってた。衝撃波が生じて、尽くガラスが割れるとかなんとか。

 私は、少しずつ沈んでいく太陽の何倍早く走れるのかな。やってみようか。

 スニーカーの紐を固く結んで、アスファルトを蹴った。

 

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