第12話
部屋に戻ると、アマリリスは落ち着いた声でフララスに話しかけた。
「フララス、とりあえずタオルとか洗剤とか、必要なものはバスルームに揃ってるから安心して。えっと……パジャマも出すから、このパジャマに着替えて、今からお風呂に行きなさい」
フララスは少し緊張した様子で頷いた。
「はい……」
アマリリスは微笑みながら、ベッド脇に用意してあった柔らかいパジャマをフララスに手渡す。薄紫色の生地に小さな花柄が散りばめられたパジャマは、どこか優しい光をたたえていた。
フララスはそのパジャマを受け取った。部屋の空気は静かで、外の夕暮れの光が窓から柔らかく差し込んでいた。
「じゃあ、お風呂に行こうか」とアマリリスが促すと、フララスはゆっくりと立ち上がり、バスルームへ向かった。
浴室に入ると、アマリリスの両親が準備してくれた温かいお湯が静かに湯気を立てていた。フララスは湯船に手を浸すと、ほっと息を漏らす。冷えた身体が温かさに包まれ、心の奥にたまった緊張が少しずつほぐれていくのを感じた。
髪や肌に優しく湯をかけながら、フララスは頭の中でゆっくりと考える。これまで背負ってきた重さ、光を失った自分の存在、それでも今、誰かにこうして気にかけてもらえていること……その温かさが胸にじんわりと染み込む。
アマリリスはそっと声をかける。
「気持ちいい? 無理に話さなくていいから、ゆっくりしてて」
フララスは少し笑みを浮かべて応える。
「はい……ありがとうございます」
湯船に身を沈め、目を閉じる。水面に映る自分の姿は、まだ光を取り戻せずにいるけれど、この瞬間だけは、誰かに守られているという安心感があった。
湯気の中で、フララスは初めて、静かに心を休めることができた。
湯船から上がると、フララスは柔らかいタオルで髪や身体を拭いた。温かい蒸気と水滴が肌から立ちのぼり、心地よい疲労感が全身を包む。
アマリリスは隣で自分も軽く手を拭きながら、にこやかに声をかけた。
「どう? 少しは落ち着いた?」
フララスはタオルで顔の水滴を拭いながら、静かに頷いた。
「はい……温かくて、気持ちよかったです」
アマリリスは小さく笑いながら、タオルを肩にかけて言った。
「そうでしょ。こうしてお湯に浸かると、嫌なことも少しずつ流れていく気がするんだよね。気分も軽くなるし」
フララスは浴室の窓から差し込む夕陽を眺め、柔らかい光に目を細めた。
「……私、ずっと頭の中が重たくて……でも、今は少しだけ軽くなった気がします」
アマリリスはそっとフララスの肩に手を置き、優しく励ますように言った。
「それでいいんだよ。無理に全部を片付けなくても、少しずつで大丈夫。私がここにいるから、安心していいんだよ」
フララスは小さく微笑み、ゆっくりと息を吐いた。
「ありがとうございます……アマリリスさん」
二人はそのまま少しの間、何も言わずにお互いの存在を感じながら、タオルで身体を拭き、髪を整えた。浴室には穏やかな静寂と、ほんのり残る石鹸の香り、温かい光が漂っていた。
アマリリスは最後に言った。
「さあ、準備できたら部屋に戻ろうか。今日の夜はゆっくり過ごそう。心配しなくていいよ、フララス」
フララスはタオルを肩に掛け、静かに頷いた。
「はい……そうします」
浴室を出る二人の後ろ姿には、ほんの少しだけ、互いに信頼を寄せ合う柔らかな光が差し込んでいた。
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