第9話 知らない人だが、とにかく知り合い
誰だろう。優月の知り合いか?
一旦俺は知らない人たちだった。初めて見る人たちだった。
さっき優月と挨拶を交わした女子だけじゃなく、男子もこっちを見てるみたい。なんか俺を見ているみたいだが、気のせいだろう。俺が知り合いの中、あんな陽キャっポイなやついないから。
じゃ、あいつも優月の知り合いか。顔が広いね、優月は。
そう思っていた刹那、男子側が親しい友達にでも会ったように大きく手を振った。
「え、細川じゃん。おはいよー」
「・・・?!」
あいつ今、俺の名前呼んだ? え、だれ? 見覚えがないんだが。まさか、あいつ俺のこと知ってるのか。
遠いからよくは見えなかったが、もしごく低い確率で俺の知り合いである可能性もあるから、俺は目を細めて改めて彼を見た。
・・・マジで誰?
もしやどこかで見たことある顔なのか、記憶を辿ってみた。しかし思い当たらなかった。
俺がそういている間に、彼らはこっちへ近寄ってきた。
「優月ちゃんこんなところで会うなんてすごい偶然だね」
「マジで。まさかこんなところで鈴ちゃんに会うなんて、想像もしなかったよ」
「だよね」
優月が鈴ちゃんと呼ぶ少女が喋りながら、俺と優月が手を繋いでいるのをチラッと見た。
「優月ちゃんは今、彼氏とデート中なの?」
「うん」
優月が恋人繋ぎをしている手を上げて彼らに見せた。
「えっ、なになに。もう手繋ぐの? 早いね」
「そうなの?」
「うちは手繋ぐまで一ヶ月かかったから」
はあ!? 一ヶ月?!
俺は優月に顔を向け、睨みつけた。
普通の恋人同士が手繋ぐまで一ヶ月かかるのなら、俺たち今日手繋ぐ必要なかったんじゃないか。
と恨めしそうな視線を優月に注いだ。
「えぇ・・・そうなんだ」
優月は視線を逸らした。そんな俺たちをきょとんとした顔で見ていた鈴という少女が言った。
「で、彼があの噂の細川くんだよね??」
「あ、うん。そうだよ」
「ええええ、そうなんだ。実際に会うのは初めて」
鈴という少女が穴が開くほど俺を見つめてきた。俺は彼女の視線を避けて優月に顔を向けた。優月はきょとんとした顔で俺を見て、やうやく気づいたように「あ!」と声を上げ、彼女を紹介してくれた。
「こっちは小森
「初めまして。小森鈴です。細川くんのこと昨日友達からたくさん聞いたわ」
昨日なら・・・あ、昨日の昼休みのあの子たちか。
「蓮太郎あんたも挨拶して。あんただって初対面でしょ」
「違う。俺、細川と前から知り合ったぜ」
「「ええええ!?!?」」
小森さんと優月が驚いて大声を上げた。
「なんだ、周。鈴ちゃんの彼氏と知りあ・・・何、その顔は」
「・・・俺と知り合いだって?」
優月みたいに大声を上げるほどまではなかったが、少なからず戸惑った。
どう考えても見覚えのない顔なのに、俺と知り合いなんて。冗談かな。いや、どう見ても冗談している顔ではないんだが、本当に俺を知ってるのか。
思い出そうとしても、何も浮かんでなかった。こういう時は、一人で悩むよりも直接聞く方が早い。
「あの・・・その、どっかで会ったことあったっけ」
「え、細川。俺の名前も知らない?」
「ごめん」
「蓮太郎。田中蓮太郎。蓮太郎って呼んで」
察しがいいのか、蓮太郎はすぐに自分の名前を教えてくれた。
「その蓮太郎。俺たちどっかで会ったことあったっけ」
「え、なに。知らんフリ、それともマジ? 俺たち同じクラスじゃん。一年三組」
「・・・あ、そういえば昨日」
思い出した。そういえば昨日クラスで俺に「優月と付き合ってんの」と聞いたのやつがこいつだった。完全に忘れていた。
「なになに、細川くんうちの蓮太郎と同じクラスだったの?」
「そう、みたい」
「やべっ、こんな偶然もあるんだね。今、私、鳥肌立った」
だね? 俺も。
さっき俺に手を振って誰かなと思ってたが、まさか同じクラスだったなんて。
「ごめん。忘れちゃって」
「別にいいぜ。クラスであんまり話してなかったし」
普通人のこと忘れてたと言われたら気分を害してもおかしくないのに、蓮太郎はなんともなさそうに笑い流した。
器が大きい人だ。
今知り合ったばかりの人だが、それだけははっきりわかった。
「で鈴ちゃんたちもデート中?」
横でじっと俺を見ていた優月が、小森さんに目を移した。
「うん。見てる通り」
小森さんがさらに強く蓮太郎の腕を組んだ。
「やっぱり学校一のイチャイチャカップルだね。仲いいね」
「いや、そんな大げさだよ」
小森さんが照れて鼻の下を掻いた。あと蓮太郎が聞いた。
「俺たちこれからあの映画を観るつもりなんだが、一緒に見ない?」
蓮太郎が窓口の上の大きい映画のポスタを指で示した。俺と優月は同時にそこに視線を移した。
宇宙を背景に大きい宇宙船と男優が銃を持っているポスターだった。
SF映画か。
どんな内容かは知らないが、さっき俺たちが見たあのロマンス映画とは全く違うジャンルみたい。しかもさっきのあの映画よりずっと面白そうだった。
もし最初映画を選ぶ際に戻ると、俺はあの映画を選ぶだろう。
でもあの映画は優月が見たがっていたようだったから。
もちろん優月は上映中ずっと寝ていたけど、あれは疲れていたから仕方なかったんだろう。
そう考えながら優月に顔を向けた。優月が口を少し開いたまま固まって映画のポスターをじっと見つめていた。
「・・・面白そう」
優月が独り言で静かに呟くのが耳に入ってきた
え、まさかこの映画が見たいのか。
なんかさっきロマンス映画の時とは反応が違った。
「どう? 一緒に見る?」
「蓮太郎、もー、優月ちゃんがこんな映画見るはずないでしょ。っていうか優月ちゃんに失礼だよ。だよね優月?」
「えっ?」
ぼっとしていた優月が慌てて答えた。
「優月はあんな映画あんまり好みじゃないでしょ。あんな映画よりああいうのが好きでしょ?」
小森さんがさっき俺たちが見た映画を指さした。
「優月ちゃんはロマンスみたいな映画が好きだよ。あんな乱暴な映画は嫌いだよ」
「そう? ごめんな、知らなかった」
「うん? いやいや、いいよ。あと私たちもう映画を見終わって出てくるところだから」
「そっか。一緒に見ればよかったのに」
「今度一緒に観ればいいじゃん。あ、もう時間が。蓮太郎、もうすぐ映画始まるよ
小森さんが蓮太郎の腕を引っ張りながら言った。
「わかった」
蓮太郎が微笑んで小森さんに言った。
彼女を見る蓮太郎の目から蜜が落ちてるみたいだった。彼女のことが可愛すぎてどうしようもない目だった。
「じゃ俺たちはもう行く。学校で会おうぜ」
「あ、うん」
蓮太郎が俺に手を振った。
「優月ちゃん、またね」
「うん、またね」
こうして蓮太郎たちは映画を観に上の階に上がった。やがて彼らの姿が完全に視野から見えなくなった。
「・・・プッハア、緊張した」
優月がしゃがんで深く息を吐いた。
「まさかここで鈴ちゃんと会うなんて、マジで思わなかった。危うく疑われるところだったわ。ほら、やっぱ手を繋いてる方が正解だったわね」
優月が顔を上げて俺を見つめた。
今度は俺が先に手を繋いでたんじゃない?
と思ったが、あえて口に出さないことにした。
「で、これから何するんだ」
「このあと? この後、私たち・・・ああ知らん!」
優月がスクッと立ち上がった。
「もー疲れたわ。この後は次のデートにやることにして、今日はもうカフェとかで休もう」
優月が俺に手を差し出した。俺は空っぽの彼女の手のひらをじっと見つめた。
まさか
「何じっとしてんの。早く手繋いで」
やっぱり。
今更嫌って言うのはちょっとあれか、と思って俺はすぐ手を伸ばし、彼女と手を繋いだ。
「じゃ行こう。私、いい場所知ってるから」
優月が先頭に立って歩き出した。俺は彼女の後についていった。
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