異世界転生×ユニークスキル 【リサイクルマスター】で無双する!?

月神世一

EP 1

史上最も不条理な死因

片山 誠(かたやま まこと)、25歳、外科医。

36時間に及ぶ当直勤務を終えた彼の身体は、鉛のように重かった。朦朧とする意識の中、唯一の慰めは愛車である大型バイクのエンジン音と、風が肌を撫でる感覚だけだった。

「腹が減ったな……。仕方ない、ファミレスで飯でも食うか」

乾いた喉で呟き、慣れた手つきでスロットルを捻る。見慣れた国道沿いの看板に目を向け、ウインカーを点滅させた、その瞬間だった。

空が、黄色く染まった。

ポツ、ポツ、と何かがヘルメットに当たる。雨か? いや、違う。それは、見慣れた果物の、皮だった。

「な、何だとぉぉぉ!?」

誠が叫んだときには、もう遅い。天から降り注ぐのは、空を埋め尽くさんばかりの無数のバナナの皮。まるで黄色い絨毯爆撃だ。世界一粘着質な雨が、アスファルトを瞬く間に死のスケートリンクへと変えていく。

抗う術など、ありはしない。

愛車の後輪が、まるで生き物のように横へと跳ねた。強烈な横Gが誠の身体を襲い、視界がぐるりと回転する。ガードレールに叩きつけられる衝撃。砕ける骨の感触。薄れゆく意識の向こうで、彼はアスファルトに散らばる黄色い皮を、ただ呆然と見つめていた。

「ん……ここは?」

次に誠が目を開けた時、彼はクイズ番組で見るような派手な解答者席に座っていた。目の前には巨大なスクリーン。頭上からはスポットライトが降り注ぎ、どこからか陽気なBGMと観客の笑い声のようなSE(サウンドエフェクト)が聞こえてくる。

《ピカピカピカーン!》

けたたましいファンファーレと共に、ステージの中央に一人の女性がせり上がってきた。青い髪をなびかせ、女神と見紛うばかりの美貌を持つ彼女は、満面の笑みでマイクを握っている。

「はい! 今日の挑戦者は、日本の激務を生き抜いた若き外科医、片山誠さんでーす! 皆様、盛大な拍手を!」

パチパチパチ、とわざとらしい拍手のSEが鳴り響く。

「は? な、なんだお前は!?」

あまりに非現実的な光景に、誠は混乱しながら叫んだ。

「おっと! オーディエンスへのサービスかな!? 良いでしょう! 私は当番組の司会進行兼、天界の女神! アクアです!」

女神アクアと名乗った女は、カメラに向かってウインクしてみせる。

「俺は……バイクで……そうだ、バナナの皮に滑って……し、死んだのか!? 俺は!」

記憶がフラッシュバックし、誠の顔から血の気が引いた。

《ピンポンピンポンピンポーン!》

「大正解! 不慮の事故でしたね! いやぁ、残念無念! 若き才能がまた一つ、この世から失われてしまいました!」

アクアが大げさに嘆いてみせると、スタジオには悲しげなBGMが流れ始める。

「違うだろ! 天から大量のバナナが降ってくるなんて、不慮の事故とは言わねぇだろ!? き、貴様の仕業か!?」

誠は怒りに任せて席から立ち上がった。こいつのせいで、俺の人生は終わったのか?

《ピカピカピカーン!ファンファーレ!》

「またまた大正解! さすが誠さん、冴えてますねぇ! 見事、連続正解を達成した誠さんには、豪華賞品として! 異世界転生の権利と、スペシャルスキル『言語理解』、そしてユニークスキル『リサイクルマスター』を捧げましょう!」

紙吹雪が舞い、アクアが満面の笑みで高らかに宣言する。

「はああああ!? お前、何を言ってるんだよ! 賞品じゃねぇだろ、これは殺人だ! 俺の人生を返せ!」

「おぉっと!? ここで挑戦者がキレたあぁ! 番組の進行を妨げる暴挙に出た! 非情に残念ですが、誠さんの挑戦はこれにて終了でーす!」

アクアが打ち切るように言うと、誠の足元に魔法陣のようなものが光り輝いた。

「おい! 人殺し! ふざけるな! 勝手に終わるなよ!」

誠の最後の叫びは、虚しくスタジオに響き渡る。彼の身体は光の粒子となって分解され、意識は急速に遠のいていった。

次に意識が浮上した時、聞こえてきたのは知らない言語だった。

温かい何かに包まれ、心地よい揺れを感じる。

重い瞼をゆっくりとこじ開けると、視界に映ったのは―――自分を優しく覗き込む、巨大な二人の男女の顔だった。

「まあ、あなた。マコトが目を開けましたわ」

「おお、本当だ。私の顔がわかるか、マコト」

(マコト……? 俺のことか?それに、この人たちは……)

混乱する誠の脳裏に、あのふざけた女神の顔が浮かぶ。

(あのクソ女神……! 本当に、転生させやがったな……!)

片山 誠、享年25歳。

その第二の人生は、理不尽な死への怒りと、ふざけた女神への抗議の念を胸に、マコト・マンティアとして幕を開けた。

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