宣戦布告


「困りましたね……」


 帰路を一人で辿りながら、雷花は顎に手を当てて悩む。風雅も梅も家まで見送った後で、雷花はぽつんと立っていた。

 時が巻き戻ってから、早くも一年が経とうとしている。このまま行くと、風雅は明日には死んでしまうだろう。そうさせないために時間を巻き戻したというのに、雷花は未だに解決策を導き出せずにいた。

 風雅の身辺はあらかた調べた。交友関係も過去の因縁も何もかも。だがめぼしいものは何も見つからず、風雅が殺されるに至るほどの恨みつらみは出てこなかった。唯一の手がかりは、事件当日の昼休みに風雅が言い争っていたという女子生徒。だがその正体もまだ掴めないままで、雷花は八方塞がりだと感じていた。


「いっそのこと、明日は一日中風雅くんに付き纏う……? いや、明日を乗り越えても、次の日に事件が起きる可能性も……」


 うんうんと頭を悩ませながら、雷花は家路を辿る。警察官である多治見に協力を頼んだはいいものの、彼女は事件が起きない限り大っぴらには動けない。事件を未然に防ぐには、雷花がどうにかするより他になかった。

 そうこうしている間に家が見えてきて、雷花は玄関へと向かう。すると、扉のすぐそばに備え付けられたポストから、何かがはみ出しているのを見つけた。手紙らしきそれを引っ張り出しつつ、雷花は魔法を発動する。モノクロになった視界の中、薄い金色をした魔力がこれでもかと手紙にこびりついているのを見た。


「……まさか」


 犯人が動き出したのか。雷花は目を丸くして、封筒を急いで破る。中から出てきた手紙には、お世辞にも綺麗と言えない文字がびっしりと並べ立てられていた。手紙の中身は、見るに堪えない罵詈雑言の嵐。身に覚えがありすぎるその内容に、雷花はグッと歯噛みした。


「……恨みを買っていたのは、僕でしたか」

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