君と会うまで、世界は無音だった
わる
第1章「なんで照れないの?」第一部
朝のガヤガヤとした騒がしさが、外で鳴り響く蝉のミーンミーンという鳴き声に徐々にその座を譲っていく中、教室はまるで初夏前の気怠い空気に包まれているようだった。一年生としての生活ももう半分が過ぎ去ろうとしているが、その少年…彼にとって、毎日は義務的な朝の儀式のように、同じつまらない予測可能な繰り返しだった。
皮肉なことに、蝉のジージーという絶え間ない鳴き声には、どこか心を落ち着かせるような響きがあった。耳障りな騒音でもなければ、喜びを呼び覚ますようなメロディーでもない。それはただ…どこにでもあって…ありふれていた…まるで自分のように。
彼の視線が教室を走った。クラスメイトたちは小さな輪になって集まり、楽しそうな笑い声や会話で盛り上がっている。しかし、彼は後ろから二番目の席に、まるで錨で繋がれたかのように座り続け、自分だけの孤立の泡に浸っていた。人付き合いが嫌いなわけじゃない。ただ…匿名でいることを好むだけだ。彼に向けられる視線がない状態を。――自分は…存在しない。そして、その不存在が、彼に奇妙な安らぎを与えてくれていた。
前の席の男子たちに視線を移す。彼らは新作ゲームの発売についてワイワイと熱く語り合っていた。他の連中はテストが近いと嘆いている。何人かは放課後の約束を取り付けていた。サッカー部の部員の一人が、ほとんど子供じみた自信に満ちた声で、全国大会に出場するという野望を語ると、地方予選すら突破できないだろうとゲラゲラと笑いながらからかわれていた。だが、その明るい茶髪の少年は、信じれば何でも可能だと、頑固な輝きを目に宿して言い張る。笑い声はさらに大きくなった。腕を組んで机に突っ伏し、その光景を横目で見ていた彼の目は、わずかに見開かれた。(あいつ、カッコイイな…僕も…あんな風になれたら…顔を上げることを恐れる、この見えない壁がなければ)
彼の細い思考の線は、ガタンッ!という音と共に突然断ち切られた。机が乱暴に押され、その衝撃でノートと筆箱がドサッと床に落ちた。彼は椅子に座り直したが、目に見える反応は一切示さなかった。苛立ちも、驚きもない。ただ、持ち物を拾うために、ゆっくりと、機械的に屈むだけだった。
「ごめーん!」
女性の声が彼の方に響いた。まだ屈んだまま、床に目を固定していると、一組の曲がった膝が視界に入った。ゆっくり、本当にゆっくりと顔を上げ、見慣れた女子のシルエットを捉える。ワインレッドのカーディガンが下の明るいシャツと対照的で、暑さが増す中で一枚多く着込んでいる。首には鮮やかな赤いスカーフ。そして、髪。明るい茶色だが、染めていることがわかる、紛れもない赤みがかった輝きがあった。この女子は…
「……大丈夫…僕、気にしないから…」
散らばったペンや鉛筆を拾いながら、彼の声はほとんど囁きのように低く出た。だが、ノートに手を伸ばそうとした瞬間、別の、もっと素早い手が先にそれを掴んだ。
彼女はサッと立ち上がり、ノートを机の上に置き、思いがけない丁寧さで机の位置を直した。彼は彼女の活発さとは対照的な、ゆっくりとした動作で立ち上がり、筆箱を木の天板の上に戻した。
「…どうも…」
「いーってことよ!三浦くん!」彼女は屈託のない笑顔でそう答えると、すぐに友人たちとの賑やかな会話に戻っていった。
三浦は再び椅子にズルズルと沈み込んだ。普通の状況なら、彼のような男が、彼女のような誰もが認める美少女に名前を知られていたら、少しは胸がドキッとするのかもしれない。でも、まあ…普通というのは、彼の現実からは程遠い概念のようだった。だって…
「なんだよ、三浦!ワハハ!」
教室の前方から聞こえてきた笑いの波が、彼の傍観者としての立場を絶えず思い出させるように突き刺さる。その冗談は、きっとサッカー部の…自分と同じ苗字を持つあの男子が言ったのだろう。クラスで一番人気のある男子。その偶然が発覚した日のことを、彼は思い出していた。
「君たち、親戚なのかい?」先生が何気ない好奇心で尋ねた。
「いえ、俺は会ったこともないです」もう一人の男子の返事は即座で、自信ありげな笑みを伴っていた。
「…違います…」彼自身は、ほとんど聞こえない声でそう呟いた。
入学式の日…永遠のようで、一瞬前の出来事だった。
三浦は机にぶつかった少女に視線を戻した。彼女が他の女子たちと身振り手振りを交え、笑いながら話しているのを眺める。彼女はとても遠い存在に見えた。無頓着さと活気に満ちたオーラに包まれて。まあ…別に近付きたいと望んでいるわけでもない。それに、たとえ望んだとしても…
「はい、全員席に着け」
先生の声が教室に響き渡り、授業の正式な開始を告げた。
たとえ望んだとしても…自分なんて、誰でもないのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あーっ!教科書忘れたーっ!!」
教室に広がり始めていた静寂を、少女の甲高い叫び声が切り裂いた。
「秋山さん、またかね?」先生は呆れと親しみが入り混じった声でため息をついた。
「てへっ、ごめんなさい、先生!」彼女は胸の前で両手を合わせ、芝居がかった謝罪のポーズをとった。
「誰かと一緒に見なさい」先生の指示は、まるで判決のように聞こえた。
秋山は躊躇なく、友人の一人に向かって机をガラガラと引きずり始めたが…「いや!秋山さん、三浦くんとやりなさい!」先生の声が、固く、そして不意に再び響いた。
「えぇーっ?」少女の顔に浮かんだ驚きは、手に取るように分かった。
「…僕、ですか?」三浦も、彼女と同じくらいはっきりとした困惑の声で尋ねた。
秋山は不満げに口をプクッと膨らませながら、彼の隣まで机をゴゴゴゴと引きずってきた。床と金属の脚が擦れる音が、短い沈黙に響く。彼女は**はぁ…**とため息をつきながら隣に座った。三浦は一瞬ためらった後、開いた教科書を机の上に置き、二人の間に位置させた。気まずい空気が漂っていたが、彼の表情は変わらない。「なんで?」彼女は、最初の苛立ちに好奇心が打ち勝ったように尋ねた。
「…何が?」彼は、まるで逃げるかのように問い返した。
「…別に…」彼女は視線を逸らし、まだ顔をしかめたまま教科書に目をやった。三浦はただ彼女を無視し、印刷されたページに注意を戻した。先生が授業内容を説明する言葉が、宙を舞っている。
彼がノートに何かをカリカリと書き込んでいると、秋山は些細なことに気づいた。彼が教科書を、自分の方よりもわずかに彼女の方へ寄せて置いていたこと。そして、彼女が前に身を乗り出すたびに、彼は気づかれないように**ス…**と後ずさり、安全な距離を保っていた。しかし、彼の顔には当惑の色は一切浮かんでいない。いつもの、冷たく無感動な仮面。熱意も意志も感じられない三浦くんの顔。
その壁を壊そうとする、ほとんど子供じみた試みで、彼女は椅子ごとじりっ、じりっと、センチメートル単位で彼に近づいていった。その動きに合わせて、三浦も同じだけ後ずさる。ついに彼の椅子の背が壁にゴンッと当たり、退路は断たれた。彼がとうとう顔を彼女の方へ向けようとした瞬間、彼女の顔がぐいっと彼のすぐそばまで迫っていた。
「…何か、ご用ですか?」
彼の声は、二人の間の張り詰めた沈黙を破る、ためらいがちな囁きだった。
「なんで?」彼女の感情の乗らない問いは、どこか咎めるように聞こえた。
「何が…?」彼は繰り返し、再び困惑がその顔を曇らせた。
「なんで照れないの?」その問いはついに、純粋な好奇心を乗せて爆発した。
「いや、それは…」彼が低い、ためらいがちな声で答え始めた、その時。
「秋山さん、三浦くん!」
先生の厳しい声が空気を切り、奇妙な接近と後退のダンスを踊っていた二人を捕らえた。
「ごめんなさい!」彼女は顔をカッと赤らめて叫んだ。
「…すみません…」三浦はほとんど聞こえない囁きで繰り返し、視線を机の上に落とした。
クスクスと、教室中に笑いが広がった。秋山の友人たちは肩を揺らし、楽しそうに囁き合いながらあからさまに笑っている。一方、男子たちは、嫉妬と怒りが入り混じった険しい顔つきで二人をギロリと睨みつけていた。彼らは今、三浦の場所にいたいのだ、と彼は分かっていた。まさにそれだからこそ、彼は後ずさっていたのだ。
(こんなことしてたら、面倒なことになる…)
その冷たい実感が、彼の思考を駆け巡った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
解放を告げる甲高いチャイムの音がキーンコーンカーンコーンと廊下に響き渡り、ようやく授業が終わった。教師は、同じく休み時間を待ち望んでいたかのような素早さで教材をまとめ、教室を後にする。途端に、教室は新たな種類のエネルギーで満たされた。弁当箱の留め具がパチンと鳴る音、包装がガサガサと擦れる音、そして次第に大きくなる会話のざわめきが、昼食の儀式の始まりを告げた。三浦は静かに、温かいご飯、唐揚げ、野菜の匂いが混じり合うのを観察していた。その香りの不協和音は、一瞬、彼を自分の殻から引きずり出しそうになるほどだった。
「三浦、購買行くのか?」声をかけたのは、人気者の三浦の友人だった。
「ああ。今日、弁当忘れてさ…」と、人気者の三浦が答える。
「馬鹿だな、お前!」
「あぁ、うるせーよ!」
少年たちの笑い声が、気安く自然な仲間意識と共に、教室を出ていく彼らの後から響いた。三浦の視線は、彼らが廊下に消えるまで追いかける。彼は、もう一人の三浦に感心していた。その人気ぶりではなく、彼の単純さに。三浦くんは、やるべきことをやり、考えすぎるという重荷なしに生きているタイプだ。それに比べて僕は…ためらいの塊だ。僕…「僕は…」
「僕…?」
「えっ?」三浦の声は、抑えた悲鳴に近い驚きと共に飛び出した。彼はバッと首を振り、心臓が肋骨にドクドクと打ち付けるのを感じた。秋山さんがまだそこにいた。自分の席の隣に突っ立っている。彼女の机は、元の場所から微動だにしていない。彼女が教室を出ていなかったことに、彼は全く気付かなかった。「知らないわよ、あんたが一人でブツブツ言ってるんじゃない!」彼女は楽しむような口調で言い返した。
「ごめん…」
「なんであんたはいつも謝るの?」彼女は首を傾げ、好奇心に満たた目で彼を分析した。
彼が答えを考える前に、ドアからの声がその瞬間を遮った。「真琴ちゃん、いつまでそこにいるの?午後の授業の教科書も忘れたわけ?」秋山の友人の一人が、廊下で彼女を待っていた。
「今行くってば!」秋山は答えた。彼女は三浦に最後の、読み解けない一瞥を投げかけると、ギーッとけたたましい音を立てて自分の机を元の場所に戻し、急いで出て行った。三浦はそこに立ち尽くし、空っぽの出入り口を眺めていた。少し混乱したが、その感覚はすぐにかき消され、いつもの無関心に取って代わられた。彼はリュックを肩にかけ、教室を出た。
彼の避難所は、校舎の外にある使い古された木製のベンチだった。遠くの山々に向かってそびえる深い森に面した、戦略的な位置にある。決まった場所。年度の初めから、毎日、同じ場所。教室はうるさいし、食堂は声とトレーの混沌だ。でも、ここは…ここは静かだった。誰かが彼の存在に気づく可能性が、ほぼゼロに近い場所。(まあ、どっちみち誰も僕に気づきやしないだろうけど)
「三浦?」
(どっちみち…僕の平穏はここまでか…)三浦はゆっくりと声の主の方へ顔を向けた。クラスメイトの一人、明るい髪色の少年だったが、人気者の三浦ではない。授業中、軽蔑したような目で彼を見ていた一人だ。
「なんで秋山さんにあんな馴れ馴れしくしてたんだよ?」その問いには、隠しきれない敵意が込められていた。
「彼女が教科書を欲しがっただけで、別に馴れ馴れしくなんて―」
彼の言葉は、少年がグイッと前に出てシャツの襟を掴み、力任せに引き寄せたことで遮られた。クラスメイトの顔は、苦々しい表情に歪んでいる。その攻撃的な仕草にも、首に食い込む布の感触にも、三浦は反応を示さなかった。驚きも、恐怖もない。彼の目はただ、熱意も意志も欠いたまま、相手の目を空虚に見つめ返した。「…ごめん」
「チッ!」少年は彼をドンと突き放し、その表情には明らかな嫌悪が浮かんでいた。「なんでお前は、いっつも何でもかんでも謝るんだよ?」彼は踵を返し、苛立ちで肩を怒らせながらザッザッと大股で去っていった。
三浦は彼が去っていくのを見ていたが、彼の注意は長くは続かなかった。少年が廊下の角を曲がった瞬間、彼は何事もなかったかのように箸を再び手に取り、弁当を食べ始めた。(時々、こういうことがある。何かの理由で、僕が背景から、一言二言セリフのあるモブキャラになるときが。珍しいけど、起こるんだ。年度の初めにもあったな、女の子に三浦くんの弟か聞かれたとき。面白かった。いや、彼女にとっては。僕にとっては、そうでもない。でも、どうでもいいか)
彼は空になった弁当箱の蓋を閉め、カチッと小さな音を立ててその上に箸を置いた。彼の視線は、森の広大な緑の中に吸い込まれていった。
(また、いつもと同じ一日だ…)
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