第5話 #諸説あり

◇◆◇


蓮は、背筋の冷気が抜けないまま

図書館を後にした。

ピロン――


ポケットの中のスマホは、

時折小刻みに震えている。


新しい通知が届くたび、

心臓が押し潰されそうになる。


意を決して画面を開く。


そこには、

また新たなスレッドが立っていた。


「■■間蓮、■書館を出る」


まるで監視カメラの実況中継だ。


投稿時刻は数十秒前。


誰かが確実に、自分の行動を見ている。


しかも、その書き込みの最後には必ず――


#諸説あり


蓮はアパートに戻ると、

カーテンを閉め切り、

玄関のチェーンを掛けた。


だが安全なはずの部屋でさえ、

どこかに“視線”が潜んでいる気がする。


恐怖と苛立ちが入り混じり、

蓮はパソコンを立ち上げた。


あの小説の情報源を

さらに掘り下げようとしたのだ。


検索を繰り返すうちに、

一つの怪談系Wikiに辿り着く。


そこにはこう書かれていた。


> 「この小説■■跡する者は

  必ず“書■■る側”に回る。」

> 「行動の記録は匿■■示板に流れ、

  やがて■踪者リス■■追加される。」

> 「記録が完結したとき、

  その人間は存■■■り替えられる。

  ただし――#諸説あり」


震える指でスクロールする。


ページの最後に、

見覚えのある文章があった。


> 「最新■■象者:佐久■蓮」


心臓が止まりそうになった。

まるでWikipediaの記事が編集中のように、蓮の名前が現れたり

消えたりを繰り返している。


すると突然、画面が暗転した。


モニターいっぱいに、

血のように赤い文字が浮かび上がる。


――「鏡の■屋に来■」

――「真■を知り■■れば」


その瞬間、背後の姿見に視線を感じた。


振り向くと、自分が映っている。


……いや、それは“笑っている自分”だった。


「ハハハハハ■■えは■■■ぐし■!!」




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