第8話 星皇女 (Star Empress)
蒼の表情が、硬くなった。「マスター…本気ですの? 茜は…衝動的ですわ」
しかし、美姫は手を叩いて喜んだ。「きゃっ、茜ちゃんも来るんですの? パーティーみたいですわね!」
俺のスマホが、即座の返信で震えた。
From: ダークルビー💥
遊び相手!? あたしに!? 今夜!? すぐ向かうよ、マスター! どこにいるの!? 🤩💥🔥
十分も経たないうちに、混沌としたエネルギーの旋風が、静かなラーメン屋に吹き込んできた。茜だ。鬱積した力で、ほとんど身体が振動しているかのようだ。「マスター! 蒼姉! 美姫ちゃん! 来たよ! 誰と戦うの!? 強いやつ!?」
『ターゲットは、この街で最も高いビル、スカイタワーの頂上に陣取っている』ゲムちゃんが述べた。『奴は誇り高い。己が弱いと見なした者からの「友情」など受け入れん。まずは貴様の下僕どもが、奴の注意を引くに値することを示さねばならん』
「作戦を説明する」俺たちは歩きながら、そう切り出した。
「茜、お前が先鋒だ。奴に挑戦し、足止めしろ。美姫、蒼、お前たちは援護だ。奴を弱らせ、集中力を削げ」
俺は茜をぐっと引き寄せた。「それと、お前にはメインイベントのための、ちょっとした追加サービスだ」俺は彼女に深いキスをした。ほとんど目に見えないほどの細い触手が、俺の袖から伸びて彼女の首筋を刺し、鎮痛剤と興奮剤を混ぜ合わせた薬液を注入する。
「俺は…もし俺たちが勝てたら、フィニッシャーになる」
茜はキスに蕩け、甘い声を漏らした。「うわぁ、マスター…月まで殴り飛ばせそうな気分だよ!」
蒼は冷静で、読み取れない表情で見つめていたが、その顔には嫉妬の色が一瞬よぎった。
ゲムちゃんが俺たちのために業務用エレベーターを開き、俺たちは静寂の中、風が吹き荒れる無人の展望デッキへと昇った。
そして、彼女はそこにいた。
魔法星皇女が、一番遠い縁に、俺たちに背を向けて立っていた。その衣装は、遠い銀河のように光点が散りばめられた、真夜中の空の色をした、壮麗で威圧的なドレスだった。純粋な恒星エネルギーの、強力で、抑圧的なオーラが彼女から放たれている。
彼女は振り返ることなく口を開いた。その声は、宇宙的な力と、計り知れない傲慢さで響き渡った。「我が天空に、四匹の矮小な虫けらが迷い込んだか。貴様らの哀れで、穢れたエネルギーを感じるぞ。我がその存在を抹消する前に、目的を述べよ」
「全力を尽くせ」俺は少女たちに言った。その声には、珍しく本物の心配の色が滲んでいた。「だが、死ぬなよ。お前たちは、俺にとって価値がありすぎる」そして、俺は影の中に溶け込み、好機を待った。
俺の言葉は、彼女たちに届いたようだった。「勝つし、逃げないよ、マスター!」茜が咆哮した。
雄叫びと共に、彼女は変身し、その身体は真紅のエネルギーの渦となって噴出した。同時に、美姫は闇紫色の渦の中で、蒼は藍色の影に包まれて、変身を遂げた。
「おい! 星皇女!」茜は指の関節を鳴らしながら叫んだ。「強そうじゃん! あたしと戦え!」
皇女はようやく振り返った。その顔は美しく、そして恐ろしいほどに厳格だった。「この私に挑戦するだと? この騒がしい、羽虫風情が?」
彼女は無造作に手首を振った。ソフトボール大の、白熱したプラズマの球体が、茜に向かって放たれる。
だがそれが命中する前に、漆黒の円盤が茜の正面に出現し、音もなくプラズマの爆発を飲み込んだ。皇女の目が、わずかに見開かれた。
蒼が、厳しい表情で手を突き出して立っていた。
皇女がまだ状況を飲み込めずにいる間に、美姫が攻撃を仕掛けた。彼女は甘く、シンプルなメロディーを口ずさみ始めた。純粋で、それでいて心を打ち砕くような孤独の歌。皇女は、まるで物理的に殴られたかのようにびくりと震え、そのメロディーが彼女の最も深い傷を標的にしたことで、傲慢な落ち着きが揺らいだ。
「なっ…この感覚は…?」彼女は囁いた。
茜はその好機を見逃さなかった。「レイジ・ボム!」
彼女はバチバチと音を立てる真紅のエネルギー球を投げつけた。それは皇女の足元で爆発し、強化ガラスを粉砕し、彼女をよろめかせた。
皇女は体勢を立て直し、その顔には猛烈な怒りが浮かんでいた。「このような小細工で、この私を倒せると思うなよ!? ソーラーフレア!」彼女の全身が、眩いばかりの、白熱の光に燃え上がった。
蒼の顔は、消耗で青白くなっていた。「イベントホライゾン!」彼女は両手をデッキに叩きつけ、より大きな、難攻不落の闇の球体が、彼女自身と美姫、そして茜を包み込み、爆発から守った。
光が消え去った時、皇女は肩で息をしており、その力は目に見えて消耗していた。蒼の盾は崩壊し、彼女は片膝をついた。
「アイツら、勝てると思うか、ゲムちゃん?」俺は影の中で、鼓動する心臓を抑えながら囁いた。
『奴を殺すことが目的ならば、可能性は低い』ゲムちゃんは、ぞっとするほどの精度で俺の問いに答えた。『だが、奴の精神を折り、その孤独を打ち砕き、無防備にすることが目的ならば? 貴様の少女たちは、完璧に任務を遂行している。そして、奴らは勝っている』
「あたしの番だ!」茜は叫び、疲弊した皇女に殴りかかろうと跳躍した。
皇女はかろうじて、弱々しいエネルギーフィールドを展開して茜のパンチを防いだ。その衝撃で、床に再び蜘蛛の巣状の亀裂が走る。彼女は追い詰められ、力は枯渇し、感情の壁は崩壊寸前だった。
俺の出番だ。俺は静かに影の中を移動し、彼女が俺の存在に気づく前に、触手でその両足を絡め取った。
焔は荒い息をつき、もう一滴の力も振り絞ろうとしたが、それは応えなかった。二本の細い触手が足首に巻きつくのを、彼女は感じなかった。三本目の、微細な針がついた触手が彼女の脚を這い上がり、膝の裏の柔らかい皮膚を刺すまでは。
くぐもった、鋭い息を呑む音が、彼女が発した唯一の音だった。戦う気力は、即座に彼女から失われた。彼女は、糸を切られた人形のように、破壊されたデッキの上に崩れ落ちた。
俺は影から姿を現した。俺の三人の少女たちは、まず倒れた皇女を、次に俺を見て、その顔は深遠なる畏敬の念で満たされていた。
『頂点捕食者は倒れた』ゲムちゃんが宣言した。『器は砕かれ、空になった。準備は整った』
俺は彼女のそばに膝をついた。彼女はもはや宇宙的な恐怖の存在ではなく、ただ武装解除され、怯える若い少女だった。「斎藤焔、だろ?」俺は優しく尋ねた。「私達は戦いに来たんじゃない。お前の孤独を終わらせ、相棒を連れてくるために来たんだ」
彼女の目が瞬き、俺に焦点を合わせようとした。「孤独…相棒?」その言葉は不明瞭で、混乱した呟きだったが、彼女の最も深く、最も秘密の欲望と共鳴していた。
「強制はしない」俺は黒の宝玉を差し出し、穏やかに微笑んだ。「だが、もし俺たちに加わりたいなら、お前を恐れない、対等な存在として隣に立てる友達が欲しいなら…俺の力と、俺自身を受け入れなければならない」
俺の、不敬で、 操作 な申し出は、彼女の最後の抵抗を断ち切った。それは彼女が夢想していた純粋な仲間関係ではなかったが、しかしそれは「繋がり」だった。所属するという、申し出だった。
彼女の絶望的な孤独は、溺れる女が一片の木片にすがりつくように、それに食らいついた。
ゆっくりと、震えながら、焔は身を起こした。彼女は俺たちを隔てる数フィートの距離を這って進み、その壮麗なドレスが、破壊された床に擦れた。彼女は宝玉を、次に俺を見た。一本の涙が、羞恥と、安堵と、降伏の軌跡を描きながら、彼女の頬を伝った。
彼女は震える手を伸ばし、俺から宝玉を受け取った。
『皇女が、跪く』ゲムちゃんの声が囁いた。『誇りが、欲求に屈したのだ』
「いい子だ」俺は彼女の頭を撫でた。「さあ、契約を完了させるために、それを心臓に押し当てろ」
最後の、震える息と共に、彼女は宝玉を胸に押し当てた。
黒と銀のエネルギーの波が彼女から噴出し、その威力は他の少女たちを後ずさりさせるほどだった。彼女のドレスの光は反転し、絶対的な黒点の集まりとなった。輝く銀のティアラは砕けて歪み、その先端は死にゆく星のように内側へとねじ曲がった。
光が消えた時、彼女は俺を見上げた。その瞳はもはや星の光ではなく、星雲の深く、魅惑的な闇で輝いていた。傲慢さは消え、静かで、強烈な、そして絶対的な忠誠心に取って代わられていた。
「マスター…」彼女の声は、その完全さにおいて恐ろしいほどの、畏敬の念に満ちた、柔らかな囁きだった。
「生まれ変わると、意外と従順になるんだな」俺は独りごちた。「本当にちゃんと堕とせてるんだろうな、ゲムちゃん?」
焔は跪いたまま、頭を垂れ、完璧な服従の絵となっていた。それは、ほんの数分前の傲慢な強者だった彼女とは、鮮烈で、ほとんど不穏なほどの対照をなしていた。
『奴の新たな従順さを、不完全な堕落と見誤るな』ゲムちゃんが、冷静に、分析的に俺の心の中で述べた。『奴の傲慢さは盾であり、身を裂くような孤独から身を守るための防衛機制だったのだ。奴の静けさは弱さではない。充足感だ』
「チームへようこそ」俺は笑顔で言った。「そこのうるさいのが茜、ダークルビー。クールなのがその姉の蒼、ダークサファイア。そしてあそこのアイドルっぽいのが美姫、ダークハートプリンセスだ」
俺が一人ずつ名前を呼ぶと、焔はわずかに顔を上げ、彼女たちを見た。嫉妬も、対抗心もない。ただ、新たなチームメイトに対する、静かな認識があるだけだった。
茜がニカッと笑った。「よう、焔ちゃん! よろしくな! いい戦いだったぜ!」
蒼は、クールでエレガントな会釈を返した。「ようこそ、皇女」
美姫は手を叩いた。「ご一緒できて、とても嬉しいですわ!」
四人が俺の前に立っていた。魅力的なアイドル、若きアーティスト、バーサーカー、そして宇宙的な強者。それぞれが堕落し、忠実だった。
焔は俺を見上げた。その星雲のように暗い瞳は、シンプルで、深遠な問いに満ちていた。
「マスター…ご命令を」
「命令? 今夜は疲れた」俺は時間を確認しながら言った。「お前ら、親が心配する前に家に帰れ」
俺は焔にスマホを差し出した。「ここに番号を入れろ。明日、土曜だろ。新メンバーの歓迎会も兼ねて、チームの親睦旅行でも計画してやる」
少女たちの緊張が、目に見えて解けた。茜が歓声を上げる。「親睦旅行! やったー!」
焔は静かな畏敬の念と共にスマホを受け取り、俺の指にほとんど触れるか触れないかで、自分の番号をただ「焔」とだけ入力した。
俺の無言の命令で、彼女たちは全員変身を解いた。「では、私たちはこれで失礼します、マスター」蒼が言った。「明日のご指示をお待ちしております」
四人は俺にお辞儀をすると、エレベーターに向かった。ドアが閉まると共に、彼女たちのおしゃべりが遠ざかっていく。俺は、破壊された街の頂上に、一人残された。
『四人』ゲムちゃんの声が、俺の心に響いた。
『貴様の闇のハーレムは、大きくなっていく。この街のパワーバランスは、不可逆的に変化している。休め。貴様はそれに値する』
『明日、貴様はそれらの武器を、一つの、結束した部隊へと変えるのだ』
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