正解

αβーアルファベーター

正解



第一章 勇者の誓い


◇◆◇


辺境の村に生まれた少年アレンは、

幼い日に魔族の襲撃で両親を失った。

瓦礫の中、炎に包まれた家を見つめるしかなかった少年の胸に刻まれたのは――魔族への憎しみと「正義」への渇望。


十年後、神託によって「勇者」と選ばれた彼は、人類の希望となった。

 「勇者アレンよ。魔族を滅ぼし、

 この大地に平和をもたらせ。

 それが正義だ」

 王の言葉に、アレンはうなずいた。


仲間は三人。

聖女ミリア――慈愛に満ち、

人の痛みを背負う少女。

騎士リオラ――誇り高き剣士であり、幼馴染として常にアレンを支え続けてきた。

宮廷魔術師カイル――冷徹だが人類の未来のために知略を尽くす青年。


四人はそれぞれの「正義」を胸に旅立った。



---


第二章 血と祈りの道程


◇◆◇


数年にわたる旅路で、

彼らは幾度も血を流し、

幾度も涙を流した。


焼け落ちた人間の村を見つけ、

リオラは剣を抜いた。

 「魔族は人を殺す悪だ。

 だから私たちが討たねばならない」


だが別の日、荒れ果てた魔族の集落を目にしたとき、

ミリアは涙を落とした。

 「……子どもが飢えて死んでいる。

 彼らもまた、

 生きようとしていたのに」


アレンは二人の言葉の間で揺れた。

憎しみが導く「正義」と、

哀しみが導く「正義」。

それは相反しながらも、

どちらも真実に思えた。


やがて、数え切れぬ戦いの果てに仲間たちは命を削り、

勇者一行は魔王城へとたどり着いた。



---


第三章 散る灯火


◇◆◇


最後の決戦。

魔王の軍勢は恐ろしく、

仲間たちは次々と倒れていった。


カイルは血を吐きながら、

最後の魔法を放った。

 「正義は勝った者が名乗るものだ……   

 アレン、勝て。でなければ、

 私たちの死は無駄になる」


リオラは胸に深い傷を負いながら、

アレンに剣を託した。

 「迷うな、アレン。

 お前が人類を導くんだ……」


そしてミリア。

彼女は崩れ落ちる間際、

アレンの頬に手を触れ、微笑んだ。

 「アレン……正義は一つじゃない。

 だから……あなた自身の正解を……    

 見つけて……」


彼女の温もりが消えた瞬間、

アレンの心は張り裂けた。



---


第四章 魔王の言葉


◇◆◇


玉座の間。

そこに立つ魔王は、

疲弊しきった姿でありながら、

その瞳は澄んでいた。


 「勇者よ。人間は我らを悪と呼ぶ。

 だが、我らから見れば人間こそ悪だ。森を焼き、土地を奪い、

 我らを追いつめた」


その背後から、

幼い魔族の子どもたちが姿を現した。

 「父上……もう、戦わないで……」


アレンの胸に蘇る。あの日、

炎の中で泣き叫んだ自分自身の声。

人間の子も、

魔族の子も、涙の重さは同じだった。


 剣を握る手が震えた。

 リオラの声が頭の奥で響く。

 「斬れ! それが人類の正義だ!」


 ミリアの声もまた響く。

 「押しつける答えは

   正解じゃない……」


アレンは絶叫した。

「俺には……

 何が正しいのか、わからない!」



---


第五章 崩壊


◇◆◇


城の天井が崩れ落ちる。

魔王は最後の魔力を振り絞り、

子どもたちを庇い、

アレンを外へと送り出した。


 「勇者よ……片方だけが悪で、

 片方だけが正義なのか? 

 ……その答えを探し続けよ。

 それが、お前の生きる意味となる」


瓦礫に飲み込まれる魔王の姿を、

アレンはただ見つめることしかできなかった。



---


終章 正解


◇◆◇


人類は勇者の勝利を讃えた。

 「勇者アレンが魔王を討ち、

 正義が果たされた!」


だがアレンは沈黙した。

剣を掲げることも、

勝利を誇ることもなかった。


彼は知っていたからだ。

魔族もまた生きるために戦ったことを。

人間もまた恐怖のために剣を取ったことを。


正義と悪は、どちらも一方的に名乗れるものではない。

正解は一つではなく、迷い続けることこそが生きている証なのだ。


アレンはただ、生き続ける。

仲間を失った痛みを抱き、

魔王の問いを抱き、

未来へと歩み続ける。


――正解はどこにもない。

 だからこそ、人は探し続けるのだ。




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