血に宿る力ーMaleficー

ノヴァの戦い

 血は宿命なのか、血は力なのか、血は導きなのか。


 受け継がれていく意思のような概念ではないもの、刻まれたもの、決められたもの。


 それに抗うか、それを受け入れるか、身体に流れる生命の雫が持つものが招くは願い星か凶星か。



ーー


 ドイ湿原にて術式を維持する十二星召ハシュとコスモス総合魔法院院長カミュルを守る為に、その場に残ったノヴァは一人奮戦していた。


「スペル発動ファイアボルト!」


 カードから放たれる小さな火が弾けて近づいていた水牛のような魔物を怯ませ進行方向を変えさせ、魔力の消耗に伴う息切れを深呼吸を繰り返してノヴァは落ち着かせすぐに警戒態勢を維持する。


(魔物の属性を瞬時に見抜いて最適なカードを選んで使ってるな……よっぽど勉強したってことか)


 魔物には属性がある。そして本能的に相反する属性に対して忌避感を本能として持ち、それを利用すれば最小限の動きで退けさせる事ができるのもだ。

 動けないながらも見守るハシュはエルクリッド達が突入してからのノヴァの戦い方に感心し、だが同時に浮遊城アリアンから伝わってくる何かによって周囲の魔物が怯え、狂乱したものが少しずつ増えてノヴァの手に負えなくなるものが来る予感もできていた。


「ノヴァ、そろそろインビジブルのカードを使った方がいいな。魔力の消耗と騎士団の到着予定時間とを考えると今ぐらいに使うのがいい」


「そ、そうですね」


 助言を受けてノヴァがカード入れからカードをゆっくり引き抜いたその時、土が盛り上がりながら何かが迫るのを察したハシュの目線にノヴァも即応し、泥の中より現れる大ミミズの姿を捉え目を見開く。


「マッドワームか、ノヴァそこを動くなよ」


 ピタリとノヴァは身体を止めてじっとし、マッドワームがきょろきょろと周囲を見回すようにしながらやがて地に伏せてゆっくりすぐ隣を這い進む。

 湿地の分解者でもあるマッドワームは力こそ強いが凶暴ではなく、手出しをしなければ攻撃してくることもない。巨体故の恐怖とぬめりのある身体から伝わる忌避感はあるが、ノヴァは目を瞑って動かずにやり過ごし数分もするとマッドワームはその場から去りようやく安堵できた。


「よく頑張ったな。大したもんだ」


「い、いえ、僕はまだまだですよ」


「ちょっとずつでも強くなりゃいいさ。そうやって皆、強くなろうって思って頑張ってるんだしよ」


 励ましつつもハシュが術に集中し続け、さらに警戒態勢のままということからノヴァは笑みを返しながらカードを抜き、次の困難に対する備えをする。


 まだ距離は遠いが大きな魔物の姿が見え、どう動くかはわからない。そしてそれは四方にいて一斉に向かってくるのかどうかもわからない。

 そうした中で的確に判断できるか否かはリスナーに求められる能力であり、その緊張感で研ぎ澄まされていく集中力が成長へ繋がる事をノヴァは体感し、エルクリッドらが普段からしている事の一端を学ぶ事となる。


(少しの失敗も予断も許されない……僕の判断一つで結果は変わる、やれるだろうか……ううん、やるんだ!)


 覚悟を決めるように思いを強めたノヴァの顔つきにハシュは安堵しつつも近づいてくる魔物の気配を察し、ノヴァもまたすぐにカードを使う。


「スペル発動インビジブル!」


 スペル発動と共にぐにゃりと空間が一瞬歪んで戻り、ぬかろみを進みながら近づく長い鼻と牙を持つ巨象の魔物エレファンドが迫るが、ノヴァの目前で避けるように歩き進みそのまま遠ざかっていく。


(インビジブルは別のカードを使わない限りは持続するスペル……ノヴァの魔力じゃ長くは保たねぇが、無事騎士団が着きさえすれば……)


 発動中は周囲に認知されず察知されず、動く事もできなくなるインビジブルのカードの魔力消費にノヴァはどっと疲れを感じるが、ハシュが不安視する中でも深呼吸をして警戒態勢を維持する姿を見せた。

 まだリスナーとして未熟だが姿勢だけは既に本物と伝わり、これからを担うものが育っているのを感じてハシュは役目を続けていく。


 そしてその姿を、遠くから見守る者がいて、静かに彼は浮遊城アリアンを見上げていた。

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