第14話 出発
私はゴーレム馬に話しかけると言う他の人から見たら、頭がおかしな人状態になっていた。
「ガイア様、私の神力で話せるようになったと言いましたが、もしかして今後も能力が上がったり、機能が増えたりするのでしょうか?」
「ふむ、そうだな、多分増えると思うぞ。だからアリソンよ、町を離れたら出来るだけ分身体は顕現させた状態にしておくのだぞ」
「分かりました」
ガイア様とゴーレム馬に関する確認が終わったので、野営道具類をゴーレムに収納すると、今度はマルシェに保存食を買いに行くことにした。
最初に向かったのは調味料を取り扱っている店だ。
調味料に使う木の実や葉、顆粒が木箱の中に入れて陳列されていた。
私の目当ては、普段なら鶏ガラや卵白やらを使って時間をかけて作るスープや料理の素が固形物にして売られている場所だ。
普通は干し肉で代用するが、偶にはこういった贅沢をしたい日だってあるかもしれないしね。
いや、絶対にあるのだ。
買い物籠の中にスープの素を入れて行くと、他に塩なども入れるとじっとこちらを見つめる店員が待つカウンターに向かった。
私は堂々とした仕草で籠をカウンターの上に置いた。
「会計お願いします」
調味料は高い。
また、拒否されるのだろうか?
店員はうさん臭そうな顔をしているが、私がそんな店員にこれくらい普通よという態度を示すためにっこり微笑んでやった。
すると店員は小さく「はぁ」とため息をつくと、籠の中の商品を計算していった。
「銀貨9枚だよ」
う~ん、やっぱり調味料は高価だったわ。
私はポケットの中から財布を取り出し、エインズワース金貨をカウンターの上に置いた。
店員の瞳が一瞬泳いだように見えたが、袋に入れた商品とお釣りとしてムーアクラフト銀貨1枚を差し出してきた。
「まいどあり」
次に向かったのは、保存食料を取り扱っている店だ。
店内に入ると、旅行用のローブを着た複数の買い物客が商品を選んでいた。
定番の干し肉にラスク、それに木の実や果物を干したドライフルーツを次々と籠に入れていった。
商品を入れた籠をカウンターの上に置くと、店員が代金を計算していった。
「お嬢ちゃん、お使いかい?」
どうも、この町の人達は私が旅をするとは全く思い至らないらしい。
「いいえ、私の物よ」
「えっ、ひょっとして大神殿に来た巡礼者なのかい?」
「いいえ、私は下級神官ですよ」
「え、えええっ、な、なんで下級神官様がこんな保存食を?」
そう言って会計をしてくれない店員に、私は一言付け加えた。
「それに答えないと、商品を売ってくれないのですか?」
「あ、いえ、すみません」
保存食はひと手間増えるが、それでも調味料と比べれば断然安い価格だった。
手元に残ったお金は、金貨1枚、銀貨6枚それと銅貨4枚だった。
せっかくだからお茶でもと思ったが、明日は早いので止める事にした。
+++++
「どうだい?」
マルシェにあるとあるカフェのデッキ席に座り買い物客を眺めながらお茶を飲んでいるシリルは、隣で果物の盛り合わせを食べているカーリー・ブレナンに尋ねた。
この店はカーリーの希望で、あの娘を鑑定魔法で見てもらう手間賃として入っていた。
そしてお気に入りなのか、楕円形の足付き容器に芸術的に盛られた一口大にカットされた果物の盛り合わせを、美味しそうに頬張っていた。
カーリーはもにゅもにゅと咀嚼しながら、調査対象をじっと見つめていた。
「公子が言っているのは、あの買い物袋を持った黄髪黄目の女の子ですよね?」
「ああ、その子で間違いない。アンスリウムが隠している重大な秘密を知っている可能性がある重要人物だよ」
「へえ、そうなのですね」
カーリーはじっとアリソンを見つめていたが、鑑定が終わったのかちょっと真面目な顔になっていた。
「それなら、ユッカに入る前に聞きだした方が良いと思います」
「どういう意味だい?」
「彼女の魔力量が大したことが無い、という意味です。ユッカに行ったら、まず間違いなく長生きできないでしょう」
シリルはその答えに不満を持った。
「カーリー、ちゃんと見てくれたのか? 神殿側が選んだ娘だよ。普通に考えたら長旅にも十分耐えられると、太鼓判を押したからなんじゃないのか?」
能力を疑ったつもりは無いのだが、カーリーはそう受け取ったようできっと頬が赤くなった。
「私の鑑定魔法は完璧です。公子だからといって、言っていい事と悪い事がありますよ」
シリルはカーリーの権幕に驚いたが、直ぐにフォローすることにした。
「い、いや、そんな事は思っていないぞ。それにしても拙いな。最悪、秘密を聞き出す前に死んでしまう危険があるのか」
「はい、その可能性が高いと思います」
そう言ったカーリーが大真面目な顔なので、これは間違いなさそうだ。
「分かった。ユッカに入国する前に聞きだしてみよう」
「素直に話すでしょうか?」
「話さないようなら、人目のないところで攫って拷問するさ。当然カーリーも手伝ってくれよね?」
シリルがそう言うと、カーリーは嫌そうな顔になった。
「私にはそのような趣味は無いのですが」
「お前も助けたい家族は居るだろう。それに功績は欲しくないのか?」
シリルが痛いところを突いてやると、カーリーは「ううっ」と呟くと困惑したような顔になった。
「・・・分かりました」
+++++
出発日私はまだ神殿中が寝静まっている朝早に起きると、シーモアさんに言われた通り誰にも下級神官になった事もカルテアに向かう事も告げずに神殿を出た。
正面玄関で門番に挨拶すると、そっと勝手口を開けてくれたので、そのまま外に出ると早朝の空気を吸い込んだ。
「うぅ~ん、これだけ朝早いと流石に誰も居ないわね」
だが、馬車乗り場に来ると、そこでは始発の馬車を待つ人達が居た。
彼らは私の神官服を認めると、直ぐに挨拶をしてきた。
「これは神官様、こんなに朝早くから巡行ですか?」
「ええ、隣町まで」
アンスリウムで移動する人達は隣町までの需要が大半であり、乗合馬車もそれに合わせて隣町までの往復となっていた。
なので、私の答えも他の人達の注意をひかないよう隣町までとなるのだ。
集まって来た人達と雑談をしていると、始発の馬車がやって来た。
「利用者の方、順番に乗って下さい」
御者が荷台に乗る為のはしごを降ろすと、早速利用者が乗り込んでいった。
全員が乗り込むと、馬車は隣町に向けて走り出した。
アンスリウムの治安は中心の神都から国境の町に行くほど悪くなるので、神都の近隣町までは何の問題も無く無事到着した。
馬車を降りて別の乗合馬車のチケットを買おうとしたところ、広場に人が集まっていた。
そこでは一段高いところに立ったアマハヴァーラ教の神官が、人々に神の教えを広め、入信を促している場面だった。
相変わらずアマハヴァーラ神がこの地に降り立ち、人々が暮らせるように環境を整えたありがたいお方だと唾を飛ばしながら語り、その恩恵を受けている人々は恩恵が続くように入信して神への感謝を祈らなければならないと洗脳していた。
まあ、私も表向きはあれと同じことをする立場なんだけどね。
乗合馬車の駅でナッシュに向かう乗合馬車のチケットを購入した。
ナッシュはユッカと国境を接する町で、避難民が移り住んでいるせいで治安が悪くなっているそうだ。
そしていよいよ国境の町ナッシュに向かう馬車に乗り込むと、出発直前に慌ててやって来た人達がいた。
「お~い、ちょっと、待ってくれ~」
はぁはぁ、と息を切らせながら駆け込んできたのは腰に剣を付けた男と、先端に宝石を付けた杖を持った女だった。
2人は目の前に座ると、私ににっこり微笑んできた。
「おや、貴女はやっぱり神官様だったのですね」
そう言われて改めて男の顔を見ると、それはアンスリウムで買い物をしていた時話しかけてきた男だった。
「あっ、あの時の」
「思い出していただけましたか。僕はシリル、こっちは」
「カーリーです。よろしく神官様」
「はい、私はアリソンです」
私はこの2人と懇意になるつもりはなかったのでよろしくとは言わなかったのだが、この男の距離感はちょっとおかしかった。
「この先は国境の町ナッシュですが、神官様は避難民への慈善活動ですか?」
「いえ、違いますが?」
「ほう、では、ナッシュの神殿ですか?」
大神殿まで護衛してもらった事があるとはいえ、なんでこの男はぐいぐいくるのかしら?
まあ、でもここは必殺の一言でいいわよね。
「神殿側の秘匿事項を部外者に漏らす事はできません」
私の言葉に2人は唖然と口をあけていた。
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