スケールアイシステム 第2弾 -失踪者ネットワーク-

スケールアイシステム公式記録

プロローグ:港に沈む名前

※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。


■スケールアイシステムとは

スケールアイシステムは、世界中の断片情報を統合して星図の粒と線で“呼吸する構造”として可視化し、利用者の問いに応じてマクロからミクロへ自在に再編・ズーム(AIがバイアス補正)しつつ直感で最後のピースを埋めさせ、要約カード化された真実を蓮司のネットワークで増幅・拡散する仕組みである。


⸻1ヶ月前

横浜港の夜は、昼よりもざわめいている。

作業灯が照らす埠頭では、巨大なコンテナがクレーンで運ばれ、フォークリフトの警笛が響く。

朝比奈藍は黒のパンツスーツの上に防寒用の黒コートを羽織り、港湾労働者の出入りを監視していた。

ヒール込みで170cm近い視線から、作業員たちの顔を一人ひとり記憶に刻む。

2/6

タブレットに表示されたリストには、薄く赤字でマークされた名前が並んでいる。

——そのうち三人は、失踪届が出されていた。

どれも「事件性なし」で処理され、新聞の片隅にすら載らなかった名前だ。

だが朝比奈は知っている。全員が、ある企業系列の施設や土地と奇妙に縁があったことを。

その名は茅葺。

目立たぬ場所で命を切り捨て、痕跡ごと覆い隠す。

彼らに関わる者の名が消えるたび、胸の奥に冷たい石が積み重なっていく。

3/6

《再確認。港湾直結ルートの一部が、峯島中央卸売の専用レーンと重なっています》

イヤホン越しに共振制御演算型AI・光の声。

「やっぱり…繋がってる」

朝比奈は手袋越しにタブレットを操作し、GPSの点と倉庫番号を重ねる。

港の奥、立ち入り制限区域の一角——そこが全ての始まりであり、終わりだ。

4/6

《朝比奈藍。あなた一人で潜り続けるのは非効率です》

「仲間を入れたら、余計な漏れが出る」

《では、信頼できる“外部”はどうですか》

「……まさか、その外部って」

《はい。あなたがまだ会ったことのない人物です》

朝比奈はわずかに笑みを浮かべた。

「深見蓮司、ね」

5/6

公安の公式任務ではない。

これは自分の“私戦”だ。

幼なじみが失踪した日から、私はずっとこの線を追ってきた。

港湾労働者、被害者家族、下請け業者——夜の海風に吹かれながら、繋いだ証言は地図上で一本の線になりつつある。

その線の先に、必ず茅葺がいる。

消された名前を一つ残らず拾い直し、彼らを覆う仮面を剥ぐ。

6/6

「……内部からじゃ壊せない」

自分に言い聞かせるように呟き、朝比奈は港を後にした。

憎しみが胸の奥で燻り続ける。

あの名を消さない限り、私は眠れない。

向かうのは、まだ会ったことのない男の元。

“見えない線”を可視化する男——深見蓮司。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る