閑話「とある侍女の話」〜エマ編〜


初めてお目にかかります。私(わたくし)、エマと申します。

どうぞよろしく、お願い申し上げます。

今では幸いなことに、この国の末王子のお世話をさせていただいております。

…現在は原稿の修羅場中でございます。

わたくしの現実逃避として末王子のミオ様とわたくしとの出会いの話などお聞きください。

生まれは駆け出し画家の父と、箱入り令嬢の母の間に生まれた長女でした。

上に三人の兄、わたくし、下に妹と弟が一人ずつ。六人兄弟の八人家族。

決して裕福な家庭とは言えませんでした。

…面白くはない話なので、割愛いたしますが、わたくしが生家で学んだことは「理性を忘れない。」ということでした。

出稼ぎという名目で色んなお屋敷にて、奉公することになりました。

そこで、ある公爵夫人に気に入られ、とても良くしてもらい、

なんと、王宮への推薦状をいただきました。

お出しした紅茶の味が気に入られており、始めは台所まわり下働きから始まりました。

その頃、ミオ王子は城内で噂になるほどの「ワガママ王子」でした。

なんでも、手当り次第に王子の注文する絵を描かせてはダメ出しを食らう、というもの。

話に聞いた時は、王族など雲の上の存在で、私(わたくし)には関係ことと日々仕事に明け暮れておりました。

ある日、少し長めの休憩時間に趣味であるスケッチをしておりました。

父親の才能は受け継げなかったようですが、人に見せる訳でもない。と、城内のメイドや下働き少年、お抱えの行商人など、

幼い頃父に教えてもらった描き方で見様見真似で描いておりました。

そんな時、

「ねぇ、きみ!きみは、えをかくの?」

なんとも舌っ足らずな声が聞こえてきました。

振り向くと五歳くらいの男の子。行商人の連れてきた子供、

という線も否めませんでしたが、身なりが明らかに貴族でした。

そして小紫の髪、長めの前髪に隠れて見えずらいですが、黒に青を閉じ込めたような瞳。

特徴があまりにも、第三王妃様そのものでしたので、この方が噂の「ワガママ王子」だと気づきました。

王子の頭より下に頭をさげます。

お許しをいただけるまで声を出してはいけませんので、ひたすら王子の言葉を待ちます。

「あたまさげなくてぃいから、こたぇて!これはきみがかいたの?」

「…輝ける五番目の星にご挨拶申し上げ…」

「ねぇ!!かいたの?!」

「は、はい!何か禁則事項に触れてしまいましたでしょうか?」

「ふぅーん、じゃぁさボクがいったかんじにかける?」

わたくしめは少し知識を聞きかじった程度で、ほぼ独学でございます。そのような恐れ多いことできません。」

「どくがく?!どくがくでこぇをかいたの?!すごぃ!!いぃね!!光るものを感じるよ!!僕さ!デフォルメ調で描ける人探してたんだけど、なんかみんな写実的に描く人ばっかりでさぁ!」

「は、はぁ…?」

舌っ足らずな口調から一気に大人顔負けの口調になっていったのを、今でも鮮明に覚えております。

「いいから!いいから!とりあえず男性描いて!そうだな…あそこの荷物運んでる人をモデルに!」

「えっ?!あっ、はい!!」

「…うん、それでアゴをもうちょいシュってさせて!そうそう…で、目頭と鼻は簡略化して瞳のハイライトを大きめにして…」

「…こんな感じでしょうか?」

「そう!!正しくそう!まさに『貧乏だけど信念だけは曲げない攻めor受け』って感じ!…あぁ、やっと僕の追い求めていた人材を見つけたよ!!」

「…せめ?…うけ?????」

「きみ、名前は!?」

「…へ?…えっ…エマにございます…?」

「そぅか、ならエマ。今日から、きみはボクの専属侍女だ!!」

―この一言で台所まわり下働きから一変、王子付きの侍女となりました。

――――――

「うぅぅぅ〜、エマパイセン!手伝ってください〜!!背景の描き込み、終わんないッス〜!!」

「エナ、エマに甘えないの。…エマ、手が空いたら、ちょっとここのベタ塗ってほしいのだけれど。」

「あっ!!エリパイセンずるい!!」

2人の言葉を聞き流しながら、先程から動いていない王子に声をかける。

「…王子、王子生きてますか?生きてたら手を動かしてください。原稿三ページ分いただいておりません。」

「…天使って案外黒いんだね、陶器の肌っていうか青白い骸骨って感じ。アイゼア兄様みたいな天使がいいなぁ」

「王子?!エマパイセンどうしましょう!!王子が召されそうになってるッス!?!!」

「起きてください!王子!!これが終わったら無気力系書店員×ツンデレ取り立て屋の新刊描くって言ったじゃないですか?!?!!!」

…王子の頬をぺちぺちと叩くエナと王子の肩を揺らすエリを止めるべく、ペンを置き、立ち上がる。

…何はともあれ今日も平和です。

ご清聴ありがとうございました。

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