第4話

「た、たいへんだ、たいへんだ、たいへんだぁー!」

「「ええええええ⁉」」

 ソレがしゃべった。しかも、日本語を。

 うそでしょお⁉ 人形じゃ、ない⁉

 その生き物は私たちに見向きもせず、手足をばたつかせて駆けて行こうとする。

 昴琉は目を見開きながら、頭(?)の一つのとげとげをガシッとつかんだ。

「ふげっ」

「お前……何なんだ? 星? ヒトデ? フツーはしゃべんないよな」

 物おじしない昴琉にまじまじと見つめられたその生き物はぱちくりと瞬き。そして昴琉と私を交互に見ながら、

「うわあああ! 人間にみつかったあ!」

 あわてた様子で小さな足をさらに空中でバタバタさせた。

 どうやら私たちに気づいてなかったみたい?

 私と昴琉は顔を見合わせる。

 その生き物はしばらく体を動かせていたけど、逃げられないことに気づいてプクッと頬を膨らませた。短い腕を一生懸命組んであきらめた様子だ。

 その姿を見て私はくすっと笑ってしまう。

 なんだか、小動物みたいで可愛いかも? 表情もころころ変わってるし。

 明るい黄色の体に愛着がわいてくる。

「それで? お前、何? どっから来た」

 昴琉はしっかりと捕獲しながら矢継ぎ早に聞く。

 星型生物はふてくされたように半眼になった。

「僕の名前はポラリー。北極星です」

「ほ、北極星?」

 北極星ってあれだよね。夜の空に浮かぶ、星?

 昔から北の方向を表す目印にされてるっていう、あの星?

 この生き物……ポラリーが北極星だって言うの?

「えっと……どういうこと?」

「なんでピンと来てないんですか! そのままの意味ですよ。僕は星なんです。宇宙から来たの!」

 ポラリーは憤慨したように「人間って頭がいい生き物だと聞いていたんですけど」と唇を尖らせる。

 いきなりの毒舌に私は目を丸くした。

 わ、私が頭悪いみたいな言い方しないでよ。心外な!

 昴琉はうさんくさそうにはあっとため息をついた。

「はあ? 何言ってんだよ。星がこんな姿になって、しかも喋れるなんて、そんなのありえないだろ」

「ありえないって……じゃあ、この状況はどう説明するんです? この僕をいったい何だと?」

 ポラリーに言い返されて昴琉はうぐっと言葉に詰まった。

 確かに、星型の生き物がしゃべってる、だなんて状況、簡単に説明できない。

 ヒトデが実はしゃべれます! なんてこともないだろうし。

 だからって、いきなり現れて北極星なんですって言われても、信じられないよー!

 うぐぐって押し黙っている私たちを見かねて今度はポラリーがはあってため息をつく。

「仕方ないですね。この僕が一から説明してあげます!」

 ポラリーはエッヘンと胸(たぶん)を張った。

「宇宙にチョー大事なこの僕がわざわざ地球に来たのには、理由があるんです」

「理由? なんだよ」

「今、宇宙では星たちが暴走して大変なことになっているんです。そして昨日……、星たちが地球ににげこんだんです! 今、大ピンチなんですよおー!」

「「は、はああ?」」

 話がどんどん突拍子もないことになってきてるよっ!

 昴琉が困ったように眉間をつまむ。

「あ、信じてないですね? 全部ほんとのことなんですから! 今まで、星たちは宇宙が誕生してからずっと協力して過ごしてきました。でも最近、安定していた星たちの関係が荒れ始めたんです。ケンカがどんどん広がっていって。僕はそれを解決する任務のためにやってきたんです。

もし星たちが暴走を続ければ、いずれ存在自体が消えてなくなってしまう……」

「星が消えちゃう⁉」

 私は驚いて声をあげちゃった。

 星がなくなるなんて、そんな! 私の大好きな星が⁉

 あの夜空がほんとに真っ暗になっちゃうなんて、そんなのあんまりだよぉ!

「それだけじゃないですよ。今回にげてきた星たちが、地球を乗っ取る可能性だってあります」

「乗っ取る? そんなことできんのか」

「はい。星の力は強いですから。彼らが本気になれば、地球滅亡ももうすぐ……」

「こ、怖いこと言わないでよ!」

 私はひょえっと背筋が震えあがった。

 私の好きな星があろうことか世界を崩壊させちゃう⁉ それってお父さんもお母さんもクラスメイトも昴琉だって、みんないなくなっちゃうってことだよね⁉

 そんなの、絶対ダメだよっ!

 すると、ポラリーはポンッと手を打った。

「いいこと思いつきました。あなたたち、探すの手伝ってくださいよ」

「「は、はい⁉」」

 私たちは今度こそ口をあんぐりと開けた。

 私たちが、何するって?

「にげこんだ星たちを僕と一緒に探してください。人間なんだから地球にも詳しいでしょ」

 ポラリーは簡単に言ってのけるけど、地球の存続がかかった重大な問題だよね⁉ そんな重たすぎる荷物、私には背負えないっ!

「そんなの無理無理無理! 私にはできないって!」

「いきなり何言ってんだよ!」

 私も昴琉も前のめりになる。

 一方のポラリーはのんきに「まあまあ」とたしなめた。

「そんなこと言わずに。あなたたち、名前は?」

「……日野昴琉」

「尾月梨杏、だけど……」

 ポラリーは口角を上げてにっこり笑った。

「昴琉、梨杏。地球代表として頑張ってください!」

 はああああああ⁉

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