第一節:鎖国のための領地改革
第27話 何か面白い事、しようぜ!
一方その頃、結界の向こう・オーランドでは。
「あ、誰か来た」
小さな商店街と化した店が並ぶ町の中心街で、オーランドを囲む結界が揺れたのを感じて、半ば無意識的に俺は振り返る。
一緒にウインドウショッピング中だったセズが「魔物ではなく?」と聞いてきた。
多分先日の、仕掛けた罠に引っかからず、直接結界に突進をかましてくる個体がいた事を思い出したからだろう。
しかし俺は首を横に振る。
「いや、人だねこれは。誰かが外から結界に触った」
「結界って、最初のうちはレディウス様の魔法で張ってたけど、たしか今は魔道具で結界を張っているんだよな? それで分かるものなのか?」
聞いてきたのは、鍛冶屋のおじさんだ。
彼はたまに魔物を狩り食料や物作りの材料を集めたりもしている人で、俺の解答如何で、魔物を倒しに行かないといけないか……と思ったんだと思う。
が、それは杞憂だ。
「魔道具は、結局のところ魔法発動の燃料の供給源を人から魔石に置き換えただけ、みたいなところがあるからね。魔法の揺れと同じだから、一応分かるよ。まぁ流石に自分が魔法を使っている時みたいに、来た人数とかまでは分からないけど」
「警報はまだ鳴っていませんね」
「うん。まだ攻撃って言える程の干渉の仕方じゃないから。まぁ、この後鳴る可能性はあるかな。そうなったら出張ってもらう事になるかも」
「もしそうなったら任せてくれ。コテンパンにしてやる!」
「うん、お願いね」
言いながら、俺は彼の店を後にする。
他の店も冷やかしがてら、様子を見ようと足を進めると、セズから「行きますか?」と尋ねられた。
「いや、もっとひどくなってからでいいよ。これで終わるかもしれないし。それよりも、誰なんだろう。外から人が来るなんて、初めてじゃない?」
「まぁここは、国の外れで何もないですからね。……そういえば、先日イリさんが『そろそろ商人が来る時期かも』って言ってましたけど」
「あぁじゃあそれかも。まぁ勿論、買い物どころかこのオーランドの中につま先一ミリだって踏み入れさせないけど」
理由は『オーランドは鎖国をしているから』。
基本的には、俺のやっている事を知られて外からチャチャを入れられたくないからと、住民たちに外から危害を加えられる事を嫌ってだけど、定期的に来るという商人が相手なら、そこにもう一つ理由が追加される。
「しかし商人も驚いたでしょうね。前回来た時と比べると、ものすごい変わり様だから」
「そうだね。だって皆頑張ったもん。だからこそ、ボッタクリ常習犯のクソ商人にはもう手を出させない」
俺がオーランドに来て、約半年。
働きかけたのは俺だけど、俺だけじゃあここまでの発展はなかった。
それには間違いなく彼らの、外から来た俺を迎え入れてくれる広い心と、新しい物を許容して新しい事に挑戦してくれる勇気があってこそだ。
その時の事は、今でも昨日の事のように思い出せる。
……っていっても、まだ半年くらい前の事だから結構最近の事だけどね。
◆ ◆ ◆
半年前。
オルソさんに怒涛のツッコミを入れられて、村の人たちにちょっとだけ顔を覚えてもらった後。
俺は、外に俺のやる事が漏れないようにするため、漏れてこのオーランドが政治ごとに巻き込まれないようにするために、鎖国をすべく準備をし始めていた。
鎖国のために何が必要か。
最低限は「食料自給率百パーセント」と「防御率百パーセント」なんだけど、そこに快適さや日常への彩りを考えると、やるべき事は多岐に渡る。
そのうちの一つに『現状把握』というのもあって。
「へぇ。じゃあ皆毎日、作物を育てるか狩りに出るかなんだね」
「そうだよ。俺たちも手伝えって言われるから、中々遊べないんだ」
「大人も一緒に遊んでくれないしねー。皆忙しいの、『毎日様子見ないと、畑や田んぼがダメになった時に食べるものがなくなる』って言って」
そう現状を愚痴交じりに教えてくれたのは、村の子どもたちだ。
領主館探検から一週間。
彼らとはその時に仲良くなって、今じゃあ会えば普通に話すようになった。
俺が新しい統治者だと知った周りの反応は、大なり小なりはあれど、比較的好意的なものが多かった。
もしかしたら、先にオルソさんやイリさんと仲良くなったのがよかったのかもしれない。
皆、朝起きて会えば挨拶してくれるし、質問すれば嫌な顔一つせずに答えてくれる。
が、大人の中には『三十五番目の王子』という俺の立場を、正しくなのか。
高くなのか、見積もってくれる人も一定数いて……。
別に、嫌がらせされるとか、あからさまに遠巻きにされるとか、逆に変に媚びを売ってくるとか、そういう事はされていない。
その辺は、間違いなくこのオーランドが育んだ飾らない大らかさが育んだ人柄と言えるだろう。
だが、無意識のうちに話を盛る人はいる。
緊張のせいなのか、見栄のせいなのか、遠慮なのか。
ほんの少し大げさに言ったり、逆に少なく言ったり。
悪気がないようなのが、また対処に困る。
だからまぁ、正しい状況を知るにあたり、忖度の類をまだ知らない子どもたちの話は、意外と重宝したりする……のだが。
「俺たちはまだ子どもだから、狩りには連れてってもらえない。だからずっと農作業で、疲れるし全然楽しくないんだよ。だからさぁ、レディウス様。またなんか面白い事しようぜ!」
「面白い事?」
そんな事を言われても、と苦笑した。
これでも俺には色々と、やりたい事が盛りだくさんだ。
そのうちの一つがこうして村民と話して生の情報を得る事な訳だけど、流石に他のを放っておいて本格的に遊ぶような余力までは……って、ちょっと待てよ?
さっきこの子は「また」って言った。
っていう事は、俺はこの子たちにとって面白い事を既に一度しているっていう事で……。
他の子どもたちの顔も見回すと、俺に期待に眼差しを向けてきていた。
思い当たる事といえば、『領主館探検』くらいしかないが。
「何が面白かったんだろう」
「探検自体が面白かったというのもあるんでしょうけど、多分それ以上に『新しい事』が面白かったんだと思いますよ」
「セズ」
「俺の故郷も田舎ですが、やっぱり毎日似たような暮らしで、目新しい遊びを探すのって結構難しかったですし」
なる程。
新しい事か。
それなら。
「じゃあ――僕のやろうとしている事、ちょっと手伝ってみる?」
俺も楽できて、彼らを楽しませる事ができるかもしれない、一石二鳥を思い付いた。
オルソさんにあるお願いをして、俺たち子どもはある場所への入室を許可してもらった。
おそらく監視も兼ねてだろう。
まっすぐそこまで行くオルソさんの後に着いて行った俺たちは、彼がガコッガコッと少し建付けの悪い引き戸を開けてくれるのを後ろで待つ。
「しかし、何をするんだ。こんなので。どれもただの農具だぞ」
扉の向こうにあるのは、たくさんの農具。
そう、ここは農業倉庫だ。
先日借りた稲刈り鎌も、ここにあったものである。
「一応もう一度確認するけど、ここの農具、好きに使っていいんだよね?」
「あぁ。元々外に出て行くっていう奴らが置いて行った農具を集めた場所だ。余っているようなもので今は殆ど使っていない。どう使ってもらっても構わんが……」
何をするんだ?
そう言いたげな彼に、俺はニコッと微笑んだ。
「ちょっと『工作』しようかなって」
「工作?」
「うん。もの作り。その材料にしたくてね。という事で、皆、僕がこれから言うものを探して集めてきてほしいんだ。その名も『宝の原石探し』」
「宝?! ここに何かすげぇ物でもあるのか?!」
嬉しそうに目を輝かせた子どもたちに、俺はちょっと申し訳なくなりながら首を横に振る。
「あるのは普通の農具だよ。持ってきてもらうのも、そういうの」
「なーんだ、そっかぁ」
「でも、そんな何の変哲もないものが『宝』になるところを見たくない?」
「えっ、何だそれ、面白そう!」
「じゃあ集めてほしい物を言うよ? まずは――」
そうして俺は、何種類かの物を指定する。
倉庫の中は、結構広い。
子どもたちは皆「よーいどん」で、方々に散らばり指定の物を探していった。
重い物はセズに運んでもらうように言ってある。
オルソさんも、少し警戒気味に俺を見てはいたけど、結局手を貸してくれた。
流石は日常的に農具の類に慣れ親しんでいるだけはあって、子どもたちは俺の予想よりも余程スムーズに、指定の物を探し出していった。
俺も子どもたちに交じって、見つけたものを大きな押し車に積んでいく。
そうして材料を大方集め終わった俺たちは、いっぱいになった押し車を押すセズと一緒に倉庫の外に出て、所定の場所に向かい――。
「で、何をするつもりなんだ?」
オルソさんに背中越しに尋ねられ、遊ばせている土地をバックにクルッと振り返る。
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