第二節:やりたい放題な領地改革、始動!
第19話 オーランドってオルソさん的に、どう?
昨日、道中で仕入れていたオーランドの情報と馬車で近づくにつれて感じ取っていた感覚を頼りに、ある実験を行った。
翌日に何か変化がありそうだなとは思っていたけれど、まさか一夜にして外の景色が変わる程の物になるとは、あまり思っていなくて。
すっげ!
流石は、魔法の世界!!
朝起きて、前世を暮らした現代日本ではあり得ない米たちの急成長に、俺はかなりワクワクした。
が、予想より多く・早く実ったたくさんの米をどうしたもんかと悩んで……。
その時ちょうど目の前にいたのが、オルソさんとイリさんだ。
二人はどうやらこの地の農業従事者らしい。
なら、これ以上の適任はいないだろう。
「このお米の収穫、手伝ってもらえませんか? ちょっと思ったよりたくさんできちゃったので、収穫後の食べるところまで、助けてくれると嬉しいんですけど」
もしかして、彼らは彼らで忙しいだろうか。
そう思いながら窺うように見上げると、イリさんが俺と目を合わせるために、わざわざ傍にしゃがんでくれる。
「収穫の手伝いなら全然いいけど、食べるところまでなんていいの?」
「うん。元々この土地あってのこの豊作だし、今ここで出会えたのも何かの縁。大切にして損はないでしょ? ついでと言っちゃあなんだけど、作業中にこの土地の事や、ここでの暮らしについて教えてほしいな」
よかったら、だけど。
と、最後に言葉を添える。
情報は武器だ。
あればある方がいい。
それは前世の営業職では特に顕著で、ここで統治者としてやっていくにあたっても、間違いなく必要なものだった。
だからできれば、今現地で暮らしている人たちの生きた話も聞いておきたい。
そのために……必殺☆五歳児の特権・可愛くおねだり!!
「いいよ!」
「やったぁ! あ、でも……」
「でも?」
「収穫のために使う道具もなくて……」
「そんなもんは幾らでもある」
ため息交じりに言ったのは、イリさんではなくオルソさんだった。
「昔住んでた奴らが使ってたのがな。それでいいなら貸してやる」
いいのだろうか、と思った。
昔住んでいた人のを貰い受けたっていう事なら、もしかして思い出の品とかなのでは? と。
そんな俺の内心を察してか、彼は「別に」と言いながら顔をそむけた。
「あいつらが『持っていくと嵩張る』って言ったから、デカい倉庫と一緒に預かっただけだ。今じゃあもう物置も同然だがな」
昔はその中で脱穀したり、収穫物を仕舞ったりしていた。
オルソさんはそう言って鼻を鳴らした。
オルソさんが「食事がまだ終わっていない」というので少し待ち、朝食を終えて出てきた彼らに稲刈りを教えてもらう事になった。
「稲刈りなら、これだ」
そう言って渡されたのは、前世で知っているのと同じ形の手刈り鎌である。
うちは只の一般家庭で、両親も祖父母もサラリーマン家系だった。
だから田畑なんて勿論持っていなくて農具とも所縁はなかったが、庭の草むしりに使うとかで、俺がまだ子どもだった頃、両親がまだそれなりにきちんと働いていた頃に家にホームセンターで買った安い手持ち鎌があったのだ。
俺も家の手伝いの一環で放っておくとすぐにボーボーになる庭の草むしりをしていたから、使い方を知らない訳じゃない。
が。
農業に使うってなると、使い方が違ったり、コツがあったりするかもしれないしな。
一から十までオルソさんに、使い方を教えてもらう事にする。
「こうして、こうだ。分かったか?」
オルソさんの教えは基本的に「俺の背中を見て覚えろ」スタイルに近かった。
とはいえ、前世の俺の新入社員時代の説明すら満足にないままに「これと同じものを作れ」と言われ、四苦八苦しながら作ったのに「全然できてない」と怒られたりするような事は決してなく、ただ単純に言葉での具体的な説明がないだけで、すぐ隣でやり方を見せてくれる。
優しい。
鎌の使い方それ自体も簡単で、刈るべき稲をむんずと掴み、その下をザッと一息に刈るだけだ。
子どもの小さい手なので、稲を掴むのも一息に刈る力も足りない状態ではあるものの、俺には代わりに魔法がある。
手ずから魔法を使い補助すれば、作業は思いの外サクサク進む。
「……それが魔法っていうやつか。前に酔狂な冒険者がこの辺に来て魔法を使ってたのは見たことがあるが」
「うん。他にも使い様で色々できるけどね。基本的には道具と一緒」
暗に「魔法は攻撃に使うばかりじゃないよ」と言えば、どうやら分かってくれたようで「なるほど。言い得て妙だが、高給取りの使う魔法を『道具と同じ』とは、聞く人間によっては反感を買いそうだな」という、納得と忠告の声が返ってきた。
「そっか。そうとも取れるよね。気を付けるよ、ありがとうオルソさん」
言いながら、オルソさんとイリさん、セズと一緒に、ザックザックと稲を刈り進めていく。
「ねぇオルソさん」
「何だ」
「この土地って、オルソさん的に、どう?」
「『どう』って何だ」
「住みやすい?」
せっかくの時間なので、俺の鎖国計画を実現するために、情報収集をしてみる事にした。
「……一時よりは、随分マシだ。四年前までは酷かった。が、今更統治者に収める税が国の基準まで下がっても、人は戻って来たりしない」
「ちなみに今ここにいるのって何人くらい?」
「大体五十人くらいだ。そもそもはこの二十倍はいた」
「二十倍……そこまで減っちゃうと寂しいね」
「ふんっ、もう四年も経ては、ただの過去だ」
そう言いながらもオルソさんの顔には、うっすらと哀愁が灯っている。
たしかに、余程の事がない限り、元いた人は戻ってこないだろう。
たとえ元に戻ったって、元の場所で一番厳しい時のこの場所より楽な暮らしができているなら、わざわざ一度出たこの地に、半信半疑で戻っては来ない。
そもそも、だ。
もうその時から四年も経っているのなら、本当に戻ってくる気のある人間はとうに戻ってきているだろう。
今こうであるというのは、そういう事だ。
おそらくもう人は、戻ってこない。
「税、国の基準って、どのくらいなの?」
「生産物の三割だ」
「三割……それって、今の暮らし的にはキツイ?」
「不幸中の幸いと言うべきか、ここには金を落とすべき場所がない。自分たちの食い扶持さえまかなえれば問題ない。ほぼ物々交換で、どうとでもなる」
「え、じゃあもしかして食糧自給率って」
「……お前、難しい言葉を知ってるな」
ずっと作業する手元に向いていた視線が、ここで初めてこちらを向いた。
流石に五歳児が知っているような単語ではなかったか。
そう思い、俺は「あはは」と空笑いで誤魔化す。
「足りないものもある。そういうのは、半年に一度くらい来る商人から買う。ここにいるのは殆どが農家だからな。服やら鉄製の生活雑貨やら、なくても困らないがあれば嬉しいものは結構ある」
「商人は、居付いていないんだね」
「『ここを拠点の一つにしている』という意味なら、そんな物好きはいないだろう。圧政の前はいたけどな、あの前任、商人から通行税を絞りやがった」
「あー……」
「通行ルートを変えた商人は、それこそ余程の事がない限り戻ってこない」
「じゃあその半年に一度くらい来る残った商人は、いい人なんだね」
「……いや」
オルソさんが言い淀む。
え、もしかしてなんかあるの?
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