穀潰し転生末王子はテコでも出てこない ~元35歳の35番目王子は僻地で【鎖国】ひきこもり無双中~
野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中
第1話 俺はテコでも“外”に出ない
ドカァァァァァァァン!!
「……はぁ。皆毎日飽きないなぁ。そろそろラジオ体操の出席カードみたいなの、作った方がいい?」
遠くの方で起きた爆発に、思わずボヤキの一言が出た。
セインディーノ王国の端の端、僻地と呼ばれてしっくりと来る土地・オーランド。
ここに統治者という名目で五歳で追放されて、そろそろ三年の時が経つ。
見た目は八歳児。
中身は前世の三十五歳+八歳。
そんな俺のところには、最近よくこんなふうにオーランドを囲む結界を、過激にノックしてくる者が増えている。
「何で皆こんなところまでわざわざ来るのかな。暇なの?」
言いながら、俺は村のお店で買ってきたイチゴタルトを口に運んだ。
うん、美味い。
「そんなの、ここが金と権力の原石の宝庫だからに決まってるじゃない」
「誰だよ、そんなふうにした奴は」
「今の一言を聞いたオーランド民の全員が、『あんた以外に誰がいるのよ』って言うわよ」
答えたのは、十五歳の公爵令嬢・リアティ。
俺が拾った訳アリで、今は俺のメイドをしている子だ。
「俺は、単に自分たちが暮らしやすいようにしただけなのに」
「そう思ってるのはあんただけよ。オーランド民は皆『統治者として統治区の住民の暮らしを改善してくれた救世主』だと思っているし、外から見たらあんたは充分『あの田舎村を発展させた革命児』だもの」
「いや俺、ただの引きこもりなんだけど。前者は百歩譲っていいとしても、後者は周りが勝手に言ってるだけだよね」
そんな妙な冠を被せられても……。
というのが、俺の正直なところ。
俺の願いは地位や名誉を得る事でも、それで周りからちやほやされる事でもない。
「俺の願いはただ一つ。食うに困らず、権力闘争にも巻き込まれる事のない立場でいる事。それだけなのに」
「あらそれなら叶ってるじゃない」
「物理的に自衛しているお陰でね」
でなければ、今頃貴族や泥沼の跡目争いをしている王族たちの権力闘争に漏れなく巻き込まれてしまっているところだ。
――神様って結構当てにならないよなぁ。
生まれながらの境遇といい、現状といい、『いやまぁ一応俺の願いを叶えた結果なんだとは思うけど、なんか違う!!』感がどうにも否めない。
「俺は外部にうちの生産物も情報も、基本的に外に出すつもりはない。そのための鎖国だし、周りには通告もしてるのに」
「権力が欲しい人たちにとっては、それでも尚自分の物にしたい場所になっちゃったんでしょ。諦めなさい」
「えー?」
「まぁあんたに感謝してる人間もたくさんいるんだし、少々の外からの攻撃なんて、うまく躱しなさいよ。躱せるんだから」
さも「これ以上を望むのは贅沢というものよ」と言いたげなリアティに、俺は「うーん」と納得と不服の間のような声を返す。
まぁ、たしかに周りには恵まれているなとは思う。
オーランドの人たちは、外から来たこんな子どもにもよくしてくれるし、俺がオーランドに住み始めて以降見つけて拾ってきた子たちは、皆いい子たちだ。
周りの評価なんて、本当に当てにならない。
このリアティも、かつては周りから『悪役令嬢』と言われていた。
当時の片鱗は、今やポニーテールの毛先の巻き髪くらいにしか残っていないけど、口調の高飛車さは少し残っている。
まぁそれがいいんだけどな。
前世ではただの庶民、一介の営業サラリーマンだった俺である。
変に遜られたり敬われたりするのはちょっと苦手――。
トットットットッという廊下を走る音を経て、部屋の扉がバンッと開いた。
「また来たので捕まえて、『とりあえず牢』の方に入れておきました! 侵入を試みたアホは三名です!」
「お疲れ様セズ、ありがとう」
腰に帯剣している俺の護衛騎士・セズに、仕事をねぎらう声をかける。
さて、今日はどんな奴だろう。
貴族に雇われて情報や現品を盗もうと、忍び込もうとして失敗したバカな実行犯?
それともどこかの貴族本人?
商品を卸してほしい商人の可能性もあるし、王城から来た使節団や影かもしれない。
まぁ何にしたって、情報が多いに越した事はないな。
という事で。
「『聞き出し役』のテンとシータに、またお願いしておいて」
「分かりました! 防御の方は?」
「あの程度じゃあ、うちの魔道具結界はビクともしないよ。ただ、領主館には一応伝えておいて。あそこには、伝えておかないと後でいじけちゃう子がいるから」
「分かりました!」
元気いっぱいの返事をくれた彼は「じゃあ行ってきますね!」と言って部屋から出て行く。
そんな彼を呼び止めて、先程食べて美味しかったイチゴタルトを一つあげれば、嬉しそうに受け取り美味しそうに食べて、「ありがとうございます、レディウス様!」という言葉と共に弾けるような笑顔が返ってきた。
素直で可愛い。
流石はうちの子。
思わず「うんうん」と一人頷きながら、今度こそ部屋を後にする彼の背中を目で追って――しかしそれにしても、と考える。
「本当に、何でこんなに外からのお客さんで賑わうようになっちゃったんだろう。ちゃんと自分の境遇を自覚して、目立たないように気を付けて、対策だってしてたのに」
もしかしたら幾つか転換期があるのかもしれないが、残念ながら俺には自覚がない。
だからこれから語る事の中から、『どうしてこんな事になっちゃったのか』。
その理由を探し出してみてほしい。
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