第三章・無職独身女 ~欲望のまま迷宮で暴れたら再生数が爆発した~(ついでに迷宮も爆発した) 11
「もう、これなんですか? 喧嘩売ってますか? 救ってもらっていいですか⁉」
「オイ大魔導、最後の台詞は意味不明になってるぞ?」
モブキャラ認定された挙句、小馬鹿にされたような身内の返信までオマケで入っていた事で、泣きながら茶の間で暴れる珍獣と化した日葵が居る中、アリンは少し窘める形で声を掛けていた。
「いや、言葉的にあってますから! チャンネル主なのに村人Aの扱いとか理不尽過ぎません? 可哀想過ぎでしょう? 助けて下さいよアリン様ぁぁっっ!」
「ちょっ……やめろ! 鼻水が服にくっ付く!」
直後、ワンワン泣きながら抱き着いて来た日葵に、アリンは不快な顔を露骨に見せて悪態を吐いた。
しかしながら、アリンとしても少し申し訳ない気持ちがある。
曲がりなりにも、このチャンネルは日葵のアカウントである事は間違いないからだ。
そうだと言うのに、まるで自分のチャンネルであるかのような振舞いをしてしまった。
ここは、アリンとしても少し配慮が足りなかったと、少し反省している。
「仕方ない……それじゃ、今度は『日葵を主人公にした動画』を一本作る事にしようか」
やや妥協する形でアリンは言う。
すると、これまで泣き付いていた日葵の身体が『ピクッ!』と、一瞬震えてから動きを止める。
程なくして、いつの間にか日葵の頭上に産まれていた曇天模様の霧が晴れて行き、何処からともなく後光染みた光が『ぱぁぁぁっ!』とやって来た。
一体どうやっているのだろう?
きっと、大魔導だから無意識に魔法を使って、自分の心情を分かりやすく表現しているのかも知れない。
どちらにせよ、無駄に大袈裟だった。
「ア、アリン様ぁ! アンタは神だぁっ!」
瞳にでっかい南十字星を作った日葵は、感涙の涙を流して再びアリンに抱き着いていた。
結局、泣き着いてる状態と大差なかった。
「分かった……分かったから、ともかくは~な~れ~ろぉぉぉぉぉぉっ!」
その後、アリンと日葵の二人はダンジョンへと向かって行くのだった。
~そんなこんなで、ダンジョンへ~
「よぉ~し! 日葵ちゃん頑張るぅ~♪」
物凄いハイパーテンションで、すこぶる上機嫌に分かり易いやる気を出していた独身女が一人。
場所は、前回と全く同じ森林地帯だ。
一応、前回の収録でダンジョンボスの前までは攻略していたのだが、動画の尺と展開的な都合などで、次の動画に持ち越しとなっていたのだ。
「そう言えば、今日も剣聖は来ないんだな?」
少し気になったのか、ふと思い出すような仕草を作ってから、アリンは誰に言う訳でもなく言っていた。
「う~!」
すると、シズ1000がアリンの言葉に答える形で口を開いて行く。
まぁ、何を言っているのかサッパリ分からないのだが。
「……はぁ? 剣聖のヤツ、そんな事をしてるのか?」
正確に言うと、分からないのは日葵だけで、アリンにはしっかりと言語化されていたりもするのだが。
「……なんて言ってるんです?」
異世界人は、どうして『う』とか『う~』だけで意味が分かるんだろう?……と、素朴な疑問を持ちつつ、日葵はアリンに尋ねてみた。
「最近はスロットにハマってて、パチ屋に通ってるそうだ」
聞くんじゃなかったと後悔した。
「……ま、良いですよ。自分の金でやってるんでしょうし?」
「う~!」
妥協半分に日葵が言うと、すかさずシズ1000の声が飛んだ。
当然のように、何を言ってるか分からない。
「もう一度、翻訳して貰っても良いですか?」
どうせ聞いた所で、余計な気疲れを起こすだけだと分かりながら……それでも、アリンに尋ねてみた。
「スロットに使ってる金は、大魔導の通帳からちょろまかしてるヤツだとさ」
「あんのクソがぁぁぁぁぁぁっっ!」
日葵はその場で地団駄を踏んだ!
取り敢えず、頑丈な金庫でも買って、通帳は絶対に自称剣聖の手に渡らないような所に隠してやろうと、心に決めた。
「まぁ、良いじゃないか……ほら、アイツのお陰で生活費に困る事もなくなったんだろう? 少しは大目に見てやれ」
「それは……まぁ、そうなんですけど」
でも、スロカスに金を渡すのは、なんか違う気がする……なんて、微妙にまともな事を考える日葵がいた。
間違った事は言っていない。
でも、きっと自分の金を使われるのが嫌なだけ。
つまり、単なるケチだった。
「ともかく、動画の収録をやって行くぞ? 大魔導なんだから、ド派手な魔法とか使えば取高を稼げる筈だ。派手なのを一発頼む」
「分かりました――どんなのが良いですか?」
アリンの言葉を耳にして、日葵はそれとなく助言を求めた。
なんだかんだ言って、動画に関して言えばアリンが一枚うわてだったからだ。
「そうだなぁ……やっぱり、私は爆破魔法が得意だからと言うのもあるが、視聴者にとってのインパクトも考慮すると、やはり爆破魔法か爆裂魔法のどちらかが良いんじゃないか?」
アリンは軽く考えながら、日葵へと口を開いて行く。
「なるほど、爆破系か」
日葵は素直に頷いた。
言われてみればそうかも知れない。
実際に、アリンも前の動画で、それとなく爆発魔法を使っていた。
攻撃のメインは飽くまでも自分の四肢を使った徒手空拳ではあったが、所々では爆破魔法を使って恰好良くモンスターを倒していたのだ。
そして、収録を生で見ていた日葵も思った。
あれはすんげ~恰好良い!――と!
「よし! それじゃ、張り切ってドカンと一発! ド派手にやってやります!」
これで動画の再生数も超アップ!
日葵の存在感も大きく上昇するだろう。
もう『この人誰ですか?』なんて言わせない!
心の中で一念発起するかのように叫んだ日葵は、意気揚々と森林地帯に足を向けた。
前回の収録で、一回このエリアに来ていた事もあり、日葵にも慣れが生じていた。
初めて来た時は感じる事が出来なかったのだが、今では何となくモンスターの気配を感じている。
例えば、木の擬態をしているトレントが何処にいるのか?
ここらを、なんとなく気配だけで感知する事が出来るようになっていたのだ。
我ながら思う。
少しずつ人間離れしている自分が、微妙に怖い!――と。
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