第三章無職独身女 ~欲望のまま迷宮で暴れたら再生数が爆発した~(ついでに迷宮も爆発した)
第三章・無職独身女 ~欲望のまま迷宮で暴れたら再生数が爆発した~(ついでに迷宮も爆発した) 1
自称剣聖が無職独身女の自宅へと転がり込んで、早三日。
その日、日葵は自宅玄関からボタン一つで行く事が出来る、地味にお手頃なダンジョンへと足を向けていた。
「そう言えば、このダンジョンってどの位の大きさがあるの?」
アリンの一件が片付き、いよいよ本格的なダンジョン攻略が始まって行くのだろうと思っていた日葵は、それとなく隣を歩くアサヒへと尋ねてみた。
「……うーん。実際の所、俺も良く分かってないと言うか」
そこまで答えると、アサヒは後ろの方を示してみせる。
その先に居たのは、空中ブランコに座って撮影している謎人形こと、シズ1000であった。
いつぞやの時と同様、シズ1000は頭上にあるプロペラを『フィ~ン!』と回しつつ、下にカメラを吊るした状態で飛んでいた。
相変わらず、航空力学に喧嘩を売っていた。
そもそも、プロペラが一個しか付いてなかったのなら、作用反作用の法則によってキリキリ舞である。
もはや意味を成してないプロペラを、それっぽく高速で回している胡散臭さが馬鹿っぽい。
「シズ1000なら、ある程度の事を知ってるんじゃないか?」
「あの謎人形が?」
アサヒの言葉に、日葵は少し眉を捻った。
言いたい事は分からなくもないが、日葵的に言うと微妙に懐疑的だ。
「……まぁ、分からなくもないけど」
日葵は目をミミズにして言う。
事実、あの謎人形は存在自体が不可思議な生き物で……と言うか、そもそもあれは生物なのかで悩む様な特殊個体ではあるのだが、間違った事は言わない。
しかしながら、やる事成す事のことごとくが眉唾級なので、どうにも本気で信用出来ない節がある。
ついでに言うと、あちゃらかな物を真面目な顔して混ぜて来るので、何処まで本当でどこまでが冗談なのか? その見極めも難しかった。
「日葵は分からないかも知れないが、シズ1000は
「え? そうなの?」
アサヒの言葉に、日葵は意外そうな顔になった。
ただ、言われると納得してしまう部分もある。
現代の機械工学でも出来そうにないだろう、古代の超高性能なアンドロイドと言われたら、そうかも知れないと思える程度には凄い存在だ。
「元来のゴーレムと言うのは『土人形』を指すんだが、シズ1000は俺達と同じ人間の細胞を持ってるらしいぞ?」
「……え? そんな事ある?」
それはもはや
――と、日葵が心の中で思った時だ。
「本人がそうだと言い張ってたからな」
「自称なのかいっ!」
日葵はツッコんだ。
もう、何処まで本気なのかマジで分からない。
「ともかく、シズ1000が有能なのは間違いない。サテライト・シズテムを使って、本体と交信する事によって迷宮の全体情報を得る事が出来る筈だ」
「相変わらず怪しいシステムだけど……まぁ、この際そこは気にしないで置こう」
「違う。サテライト・『シズ』テムだ。そこは間違えるとシズ1000に怒られるぞ」
真面目に聞いてるのが馬鹿らしくなっていた日葵を前に、アサヒは至って真剣な顔をして語っていた。
日葵は口をへの字にしてしまう。
いばらきといばらぎの違いで怒る人を見てる様な心境だ。
「別にどっちでも良いでしょ? 意味が分かれば」
日葵は目線を明後日の方向にし、軽く鼻を鳴らした。
いばらきの人に激怒されそうな態度だった。
「ともかく、端末のシズ1000が、亜空間を経由してマスターシズテムにアクセスする事が出来てるみたいだから、間違えた事を言う可能性は低い。そこは普通に信用してくれ」
「……まぁ、そう言う事にして置く」
日葵は少し折れる形で頷いた。
率直に言えば、納得は出来てない。
現実味ゼロの話ばかりで納得しろと言う方が無理だ。
けれど、頼れるのがそれしかないのだから仕方ない。
「んじゃ、シズ1000。このダンジョンってどの程度の大きさなの? ザックリで良いから教えてくれない?」
「う~!」
日葵に言われたシズ1000は、軽く返事をする形で声を発した。
でも『う~』とか言う、言語化されてない謎の言葉だったので、至極当然のように何を言っているのか分からなかった。
日葵は口元をヒクヒクさせた。
「このダンジョンは成長型だから、暫定になるけど良いか?……と、言ってるぞ?」
少し間を置いてから、アサヒが翻訳する形で口を開く。
ようやく会話になりそうだった。
「え? そうすると……アレ? 攻略が長引くと、迷宮も大きくなって難易度が上がったりするの?」
日葵は考え込む様に問いかけた。
「う~!」
「難易度が上がると言うか、余計な手間がかかる……だ、そうだ」
「なるほど……」
アサヒが翻訳する形でやって来るシズ1000の言葉に、日葵は少し悩む顔をして両腕を組んだ。
正直、異世界から来た自称剣聖様が居座ってるのは迷惑だ。
これでも(自称)乙女なのだから。
そもそも、危険なダンジョンに付き合ってる時点で論外なのだ。
「ちなみに、一日で完全踏破する……とか、難しい?」
日葵は苦笑交じりに聞いてみる。
本当に一応だった。
それが出来たらきっとやっていると思ったからだ。
「う? う~!」
「やってやれなくはないが……日葵は普通の人間と同じ体力だから、死ぬ程大変になるぞ?――との事だ」
「うん! 普通にやろう!」
日葵はニッコリ笑って自己完結する形で『うんうん』と頷いていた。
そんな日葵は思ったのだ。
コイツらが言う『死ぬ程大変』は『マジで死ぬ』行為であると。
もう、これ以上泣きべそを掻くのは御免だった日葵は、それ以上の詮索をするのをやめた。
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