私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?(間違い過ぎだ!) 3

「……なぁ、剣聖? 私は大魔導に何かしたのか? さっきから敵対視されているような気がしてならないんだが?」

「さぁな? 俺にも分からん」


 明らかに拒否反応を示していた日葵を前に、アリンは小声でそれとなくアサヒへと尋ねてみるが、にべもなく袖を振られるだけで終わった。


「よ、良く分からないが……その、だな? 私はお前に助けて欲しいと思っている。だから友好的な関係を構築したい」

「……ほうほう、それで?」

「だから、だな?……そ、そう! 友達! 私の事は友人だと思って接してくれないか!」


 アリンはにこやかに語る。

 他方、日葵は未だ懐疑的な眼をありありと見せていた。


 どうやらブラック企業時代が、彼女の心を性根まで腐らせてしまったらしい。

 アットホームな会社の弊害は、しばらく彼女の心に残りそうだ。


「……やれやれ。仕方ない」


 それら一連の流れを見て、アサヒが少し吐息交じりになりながら口を開く。

  

 日葵との付き合いは、昨日から数えて十数時間程度しかなかったが、それでも彼女が超ド級のヘソ曲がりである事は理解していた。


 同時に、びっくりするまでに貪欲な金の亡者である事も。


「あーっと…だ、日葵? アリンさんは『助けてくれたら報酬を出す』らしいぞ? 偉い人だから、それなりの儲けになるんじゃないか?」


 アサヒは、自分が思い付く限りで日葵の興味を惹くだろうワードを言葉の中に組み込みながら話した。


 刹那――


 キュピーン☆


 日葵の瞳が光った。


「えっ! それはお幾ら万円になる予定ですか⁉」

  

 物凄い勢いで掌を返す日葵がいた。

 きっと彼女の右手にはドリルでも付いてるのだろう。

 見事な高速回転である。


「えぇと……幾らになるのかは知らないが、ここのダンジョンを利用しても良いのなら、相応の金額になる物を用意してやろう」


 突発的に『しゅばっ!』と素早く両腕を掴まれたアリンは、少し焦った顔をしながらも答えてみせた。


「うぉぉぉぉぉっ!」


 日葵は吠えた。

 朝日のカクテル光線に向かって叫んだ!

 エイドリ〇ンが背景に浮かんで来そうな勢いだった。


「それならそうと言って下さいよ、旦那ぁ~♪」


 一気に態度を変えた日葵は、ホクホク顔でアリンに詰め寄っていた。

 アリンの口元がヒクヒクと痙攣する。


「おい、剣聖……今度は懐き過ぎだ。これはなんとならないのか?」

「面倒な事を言うな。これ以上はどうにもならん」


 再び小声で言うアリンに、アサヒは冷ややかに一蹴した。


 他方、テンションが花丸急上昇中だった日葵は、ジャンキー張りの陽気さ加減でアリンへと声を向けて行く。


「それで? それで⁉ 私はなにをやればよろしいのでしょ~か!」


 底なしの上機嫌っぷりを見せて言う日葵に、アリンはやや気圧されながらも声を返した。


「実は、人を探して欲しいんだ」

   



 ~半日後~




「人探しねぇ……」


 テンションが低い人間のお手本みたいな態度と声を吐き出していたのは日葵だった。


 場所は、自宅から少し離れた繁華街。

 隣には、アサヒとアリン。

 日葵の頭上には、スマホを持ったシズ1000が居座っていた。


「どうでも良いけど、なんで人探しで私なの? 私は鼻も利かない普通の一般人なんですけど?」


 つまらない顔をしたまま口を尖らせた日葵は、近くに居るアリンへとぼやいてみせる。


 すると、アリンは笑みのまま言った。


「お前が大魔導だからだ。私が知る限り、大魔導には魔力の残滓を見付ける能力がある。この辺りの何処かにあるだろう、アイツの残滓を辿って欲しいんだ」

「そう言われてもねぇ……」


 アリンの言葉に、日葵は困った顔になってしまう。


 日葵には魔力の残滓が何なのか良く分からない。

 アリン曰く『魔力を持った者の足跡や、魔法の痕跡』らしいが、サッパリだ。

 霞を探せと言われた方が、まだ見つかるかも知れない。


 恐らく、アリンの言っている事は間違いないのだろう。

 大魔導とか言う大層なお方様であるのなら、良く分からない不思議パワーで簡単に解決するに違いない。


 しかしながら、日葵は昨日初めて魔法を使ったばかりの素人だ。

 百歩譲って、大魔導になれる素質があったとしても未来形である。


「残滓とか言うのが、どう言うのかも分からない以上、私には何も出来ないん――」


 ホトホト困った顔になって口を動かしていた日葵。

 がっぽり金を稼ぎたい所ではあるが、いかんせん今の自分には無理だ。


 そうと、諦める感じで声を発していたのだが――。  


「…………」


 日葵はビックリした顔のまま、フリーズしてしまった。


「どうしたんだ、日葵?」


 いきなり固まってしまった日葵を見て、アリンは少し驚いた顔になってしまった。


「なんか変な物でも拾い食いしたのか? 取り敢えず、吐き出しとけ?」


 そうと答えたアサヒの左頬に、日葵の黄金の右が入っていた。


「……残滓ってのが、どんなのかは知らないけど」


 アサヒに右ストレートをかまし、ジンジンする右手を軽く摩りながら、日葵は言う。


 更に一拍置いて、日葵は繁華街の路地裏近辺にある細路地を指差した。


「あそこから、なんだか良く分からない光が落ちてるのを感じるよ……」


 日葵は、顔を引き攣らせながら言う。  

 正直、自分でも何を言ってるのか分からない。


 それだけ意味不明な超現象……そう思えた。


 しかし、二度見しても結果は一緒だ。

 やっぱりおかしな光の様な物が見える。


「今度は見えない物が見える様になる現象ですか? 私の身体は一体、何処を目指しているんですかねぇ?」


 謎の超能力めいた視力が備わっていた現実を前に、日葵は自分に対してツッコミを入れてしまった。

 もう人間をやめてるとか言うオチはないだろうな?……と、珍妙な懐疑心を抱いてしまった程だ。


「ほぅ?……あそこだな?」


 他方、アリンはニヤリと笑みを作りながら動き出す。


 きっと、脳と身体が直結しているのだろう。

 誰よりも素早く動いたアリンは、近くにいた日葵も驚く速さで指を差した場所に立っていた。

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