第一章 Re:ゼロから始める生活資金(金ねーんぢゃぁぁぁっ!) 10
果たして。
「ふふ…ふははははっ! この私を前に、そこまで大口を叩けるとは! 貴様、中々やるな!」
ズゴゴゴゴゴォォッ!
甲高く笑うアリンと同時に、強烈な地鳴りが巻き起こった。
比喩でもなんでもなく、本当に地鳴りが起きていた。
「…………」
アサヒは白目になっていた。
同時に思う。
ダメだ、これはアカン奴だ――と。
確実に明日の三面記事を賑わす、ハチャメチャな大惨事が起こると確信した。
不本意極まる確信だった。
しかし、これまでのアリンがやって来た暴挙を加味するのであれば、この店は廃墟確定だろう。
へたすれば塵も残らないかも知れない。
「良いだろう……その喧嘩! 十円で買ってやる!」
言うなりアリンは右手を日葵の前に向けた。
「おうおう! 日葵さんは安くねーぞ! 十円は安い! せめて百円にしとけ!」
同時に日葵も啖呵を切りながら右手を向けた。
百円なら良いのかとツッコミを入れたくなる台詞だった。
二人は互いに魔導式を頭の中で紡ぎ――。
「私の胸は小さくない! くたばれ!」
アサヒ達の世界でも最強クラスの超魔法が解き放たれようとしていた。
ちなみに、魔導式は次の通り。
{(炎魔法×10+風魔法×5+陽炎魔法²)÷魔力係数(補正値)+(爆破魔法+発揮係数)}×星空エーテル=
――と、まぁ。
見ての通り、魔導式が余りにも複雑過ぎる為、一瞬で発動させるには極めて困難な超魔法だ。
魔導式が常識の世界において、魔法とは秒で発動させる物なので、これだと実用性に欠ける。
だが、一部の天才的な頭脳を持つ魔導士であるのなら、これら複雑な魔導式すらコンマ1秒を必要とせずに発動させる事が出来るのだ。
それが、現世代で最強格の冒険者と名高いアリン・ドーンテンの実力でもある。
果たして。
発動すれば、半径数キロが吹き飛んだ挙句に火の海と化す最強最悪の超魔法が発動する事は……なかった。
「……あれ?」
アリンはポカンとなる。
「おやおや~? どうしたのですか~? この程度で『魔法を封じられる』とか? ビックリなんですけど~?」
少し間を置いてから、してやったりな顔をして高笑いをする日葵の姿があった。
そんな彼女の言葉にもある通り、日葵がアリンへと右手を向けた時に発動させた魔法が『完全沈黙魔法』であったからだ。
尚、こっちも無駄に複雑である。
クソ長くなるので書かないが、並の魔導士であれば魔導式で簡略化された物でも、発動までに軽く数分は必要とする。
しかし、この酔っ払いは一瞬で発動させたのだ。
思い切りアリンを煽った事で『もう寝とけや! アホ!』と、堪忍袋の緒が切れたアサヒにグーで殴られて気絶してた酔っ払いが、だ。
「…………」
アリンは無言になった。
未だ信じられないと言わんばかりだ。
そこから暫く、周囲が鎮まり返る。
やたら大仰に騒ぐ中、他の客も固唾を飲んで見守っていた為、店内その物が鎮まり返っていた。
傍迷惑極まりない静けさだった。
「なるほど……お前が大魔導か」
少し間を置いてから、アリンは独白半分に声を吐き出した。
そこから、ニッコリ笑って言う。
「丁度お前を探していたんだ、大魔導! ちゃんと報酬を出すから、私の力になってくれないか?」
周囲を火の海にする勢いで怒っていた怒気はどこへやら?
一気に口角を上げ、柔軟な態度で緩やかに声を吐き出したアリンは、頭にでっかいタンコブ作って目を渦巻きにしていた日葵の右手を両手で『ギュッ!』と握り絞めながら、謎のお願いをするのであった。
突発的にやって来た謎の銀髪ツインテールの女性――アリン・ドーンテン。
彼女の目的は一体なんなのか?
大魔導の素質を持つ日葵を探していた意図とは?
居酒屋で生中頼んで酔っ払っていたら、チェックインを忘れて野宿を余儀なくされそうな二十五歳独身女の運命や如何に!
そんな所で、今回はここまで!
次回に続く。
~The story continues in the next chapter!~
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