【こえけんASMR】キミのお嫁さんが最強でしょ?

尾岡れき@猫部

Voice#1 君のお嫁さんが最強でしょ?


 ――放課後の教室。君(つまり、あなた)が机に突っ伏して寝ている。

 ――そこを見守るのは、学内でメインヒロインと言われている、東雲束彩しののめつかさ。彼女が優しく見守っている。


 //SE 放課後の喧噪


 //野球部「ピッチャーびびってる!」

 //野球部「へいへいへい!」


 //バッドでボールを打つ音が響く。


 //野球部「ナイスバッティング」

 //マネージャー「守備、しっかりー!」


 //陸上部「1,2,1,2!」


 //女子の(黄色い)声援「「「「火花くーんっ がんばってぇっ!」」」

 //相撲部「どすこーい」


 ――色々な声が飛び交う。

 ――と、束彩つかさがあなたの頬を、その指でつついた。


 //SE かちゃりと机と椅子が動く。


 ――束彩が席に腰掛けた。


 ――隣の席の束彩は、君と同じ姿勢になる。ただ、その顔は間違いなく、君のことを見ていた。束彩は、君の耳元で囁く。


「……やっと起きた? 寝坊助さんだね、君は……って、また寝ちゃうの? 困るよ。先生に起こせって言われたのに。もしもし、もしも~し? 応答せよ、応答せよ。起きないとイタズラしちゃうぞ? 寝坊助ネボスケ隊員、これは上官命令である。束彩つかさ大佐の命令を無視するとは、良い度胸じゃない? まあクレープ奢ってもらっちゃうぞ?」


 ――君は起きない。


「困るなぁ。どうせ起きないだろうから、言っちゃうけどさ。君って寝顔、可愛すぎじゃない? 無防備すぎるよ。そういう顔、見せるのズルいよ。分かっているのかな、君は?」


 //SE ムニムニ。束彩が君の頬を抓る。


「ほっぺた、ムチムチ。男の子なのにズルいっ。でも、君っては、こんなことしても怒らないよね? 他の人は、勝手に学内のメインヒロインとか言うけどさ、君ってそういうの頓着しないよね」


 ――耳元でさらに囁く。 


「変に格好つける男子より、よっぽど良いけどね。旦那さんにするなら、君みたいな人が良いなぁ。鈍感マンな君は、どうせ気付いていないと思うけどさ、私ね、実は……君のことが――」



 //SE チャイム。

 //歪むような音。

 //グラウンドで頑張る運動部の声、喧噪、全てがミックスされる。

 //そのなかに、束彩つかさの声も交じる。


『私ね』

『実は』

『ずっと』

『君のことが』



 //音が止まる。

 //無音。

 //ダイレクトに束彩の声が響く。




「……私ね、君のことが好きなんだよ」


 //束彩の声が響く。

 //SE 遠くでチャイムの音が響く。音が反響。そして歪む。

 //そして、しばしの静寂。間。



■■■




 //小鳥のさえずりが聞こえる。カーテンのはためく音。朝の風が気持ち良い。と、その音をかき消すほど、目覚まし時計のアラームが鳴り響く。しばらく、鳴って……鳴り止まない。と、カチッと音。目覚まし時計が止まった。。


 ――君が目覚まし時計を消したのだ。



「起きて。ねぇ、起きて。遅刻しちゃう――って、どうしたの? そんなにビクリした顔して」


 ――ベッドの上に、学内のメインヒロイン、束彩つかさがいるのだ。それは驚くだろう。君は思わず、束彩の名前を呼ぶ。いつものように「束彩さん」と。学内のメインヒロインは、君が名字呼びすることを嫌っていた。その妥協案が「束彩さん」呼びである。


「(照れて)へへへ、君に『束彩さん』って呼ばれるの、懐かしいね。まるで高校生の時を思い出すよ。私体、帰宅部同盟だもんね」


 ――君はきょとんとする。いや、だって僕たちは、まだ高校生で。お互い、進路をどうしようか、とか。帰りにクレープ屋さんをどうしようか、とか。そんあ曖昧な関係のまま、帰宅部同盟を結成するという、そんな間柄で。


「お互い、もう25歳だもんね。懐かしいけど、今はちょっと他人行儀な感じがしてイヤかな? だって、私達、もう夫婦だよ?」


 ――君の思考はフリーズした。それはそうだろう。つい数分まで放課後、いつもの教室でうたた寝をしていたんだ。むしろ、これはさっきまで見ていた夢の延長戦人言われる方がしっくりくる。


「夢? 嬉しいなぁ。夢みたいって思ってくれるくらい、結婚を喜んでくれたんだ? 付き合って8年、新婚3ヶ月。もう飽きたって言われたらどうしようって思っていたから」


 ――束彩つかさは、心底嬉しそうに微笑む。満面の笑み。


「嬉しい」


 //SE ベッドのスプリングが軋む音。


 ――束彩は、君に向かってダイブして、抱きしめる。


「君が悪いんだゾ。そんなに簡単に、私のことを喜ばせて。折角、起こしに来たのにミイラ取りがミイラになっちゃうじゃない」


 ――束彩は君の目を覗きこむ。


「遅刻しちゃうね。でも、ちょっとだけだったら、良いよね?」


 ――束彩は目を閉じる。君は狼狽して、次の動作ができない。


「……まだ寝ぼけてる? 夫婦だもん、キスくらいするよ?」


 ――完全にフリーズした君の呆れ半ば、愛しさ半分。束彩つかさは、上半身を起こし、君にすり寄る。


 //SE ベッドのスプリングが軋む音。


「大好き」


 //SE ちゅっとリップ音は響く。


「ねぇ?」


 ――1回じゃ足りないと言わんばかりに、2回、3回と君にキスをする。それから、君の耳元で囁く。


「君のお嫁さんが、最強でしょう? どう? 私しか勝たん?」


 ――コクコク、君は頷く。



「よろしい」


 ――束彩は満面の笑みを浮かべる。


「大好きよ、旦那様」





 ――束彩にもう一度、抱きしめられて。





「……あと少しだけ、ぎゅーってして?」





 ――誘惑に負けた君は、束彩ヒロインにもう一度、キスをするのでした。




 //SE リップ音がまた響く。反響リバーブ……。





 

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