32話 幼馴染は切っても切れない
激動のダブルデートが幕を閉じ、再び平穏が戻ってきた。普通に学校に行って、普通に幼馴染に絡まれて、普通に帰宅する日々。
劇的に何かが変わったわけではないが、少しだけ生活には変化が生じていた。
「高峯! カラオケ行こっ!」
「涼⁉︎ どうしてうちの校門の前にいるんだよ」
「良いじゃんそれくらい。それよりも、カラオケだよカラオケ」
そう言って無理やり肩を組んでくる涼。甘い香りが鼻腔をくすぐり、何だかむず痒かった。
ダブルデートを経て、それでも涼は自分の恋を諦めなかった。絶対に振り向かせてみせると決心し、前を向いたのは非常に良いことだ。
良いことなのだが……、
「何かあったのか?」
「趣向を凝らして昨日の夜、メッセージで告白してみたんだけど、またフラれちゃったんだよね。つまり溜まってるんだよストレスが」
「そのストレスをカラオケで発散するつもりか?」
「正解!」
最近、涼は呼吸するように笠松さんに告白しているらしい。その度にフラれるものだから、彼のストレス発散に付き合わされる日々を送っている。
週に一回程度ならいいが、流石に連続は勘弁してほしかった。
「もう三日連続じゃね?」
「あはは、流石に狂いそうだよね」
「分かった。分かったから校門の前で肩組んでくるな。音羽に見つかったら大変――」
「――何しにきたのかな!」
予想した通り、校門の前で騒いでいたせいで鬼がやってきてしまった。露骨に顔が引き攣った音羽は、俺たちの間に割り込んでくると、しっしっと虫を払うように涼を追い払って、不満げなジト目を向けてくる。
「私たち恋人だよ? これってどうみても浮気だよね?」
「だからその設定はデートの時だけだろ。学校ではただの幼馴染だ」
「でも学校には沙羅ちゃんがいるよ? 嘘がバレないようにするには、学校でも恋人を演じる必要があるよね?」
「もう良いだろ、どうせフラれたんだから」
その設定を貫く意味は皆無に等しい。そう思って口にしただけなのだが……、
「どうせって何? ねえ高峯? どうせって何さ」
「やべっ……いや、ごめん。お前を傷つけるつもりで言ったわけじゃなくて……」
「最低だね高峯は! ダブルデートの時だって、ボクを利用して音羽ちゃんとイチャイチャしてたし。ほんと最低だよ」
「いや、別に音羽とイチャイチャは――」
「してたよ! ね? 音羽ちゃん?」
「もちろんだよ! だって私たち恋人だもん!」
満面の笑顔でそう答える音羽。
「だからその設定はダブルデート限定って何度言ったら分かるんだよ」
「――ねえ奏太。あんた今、音羽と恋人って言ったわよね?」
突然の声に振り向くと、そこにはミーナがいた。
「ミーナ⁉︎ どうしてここに?」
「どうしてって校門の前でこんだけ騒いでれば誰でも目につくわよ。で、何? 恋人って? いいから答えなさい!」
腕を組んだミーナに追求させる。音羽、涼、ミーナという色々と濃すぎる人間に囲まれて、頭を抱えたい気分だった。
しかしこの学校には
「高峯くん! イヤホンの実験で高尾山に行きたいんだが早速ついてきてくれるか? 実は気圧の変化が音質に影響を及ぼすか確かめたくてな!」
「響先輩⁉︎ 何ですかその登山装備は!」
「登山部から拝借……ゴホン、借りてきたのだ。さあ、放課後登山と行くぞ」
突然やってきたかと思うと、強引に俺の腕を掴んで登山に向かおうとする先輩。全くもって意味が分からなかった。
「奏太くん! 私たち恋人だよね?」
「どういうことか早く説明しなさいよ!」
「高尾山! 高尾山こそ次の実験場だ!」
三人に取り囲まれて、徐々に壁際に追い込まれていく。いくらなんでも三人の
だから俺は助けを求めるように涼に視線を向けると、
「カラオケ行こうぜ!」
懇願するようにそう言った。
「もう、仕方がないなぁ」
そう口にした涼の表情は呆れたようで、それでいて少しだけ楽しそうだった。
「今日は思う存分歌うよ!」
俺たちの関係性を一般的にどう呼ぶのかは分からない。人によって捉え方は違うだろう。
それでも俺にとって涼は――紛れもなく友達だった。
こうして俺に初めての友達ができた。
「じゃあせっかくだから五人でカラオケ行こっか!」
「おい音羽! 何を言って――」
「いいですね。私も混ぜてくれませんか?」
「笠松さん⁉︎」
「じゃあ六人で行こう!」
まあ結局友達ができても、幼馴染が周りをうろちょろしている時点で、生活が一変することはないだろうけど。
俺にとって幼馴染とは、切っても切れない関係性なのだから。
----------------------
2章完結。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
もしよろしければ、是非★レビューなどで評価していただけますと幸いです。
次は恐怖のお泊まり会(3章)ですが、ストックが少ない関係で週二程度の更新となります。
引き続きよろしくお願いします。
また新作を投稿し始めましたので、もしよろしければこちらもよろしくお願いします。
↓
ハッピーエンドを迎えた後、攻略した激重ヒロインたちに閉じ込められてしまいました。 - カクヨム
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます