2-7 旅立ちの日

 海賊達がハコンダテの町を襲ってから、ちょうど一ヶ月が過ぎようとしていた。フォーダの父はマリウスとの約束通り、出航の準備を整えたのである。


 それというのも、マリウスが町を救った事を領主自ら喧伝けんでんした事もあるが…一ヶ月ハコンダテに滞在している間にマリウスが住人達に馴染んで行った事が大きい。


 マリウスはリンを伴って、困ってる人を見かけては手助けをしていた。時にはフォーダを連れて回る事もあり、徐々に町の住人に慕われていくようになった。


 滞在中、腕が鈍ってしまわないよう練兵場を借りてアベイルやカイと手合わせを繰り返した。マリウスにとってもだが、彼らにとってもいい刺激になったらしい。


 そんな中、海賊達の生き残りの一部がまたハコンダテの町を襲おうと企てている旨の情報が入って来る。勿論、情報源はリンである––––。


 幸い人手を集めていた状態で、海賊達の数は五十名ほど。今の内に芽を潰してしまおうと、討伐にマリウスが名乗りを上げる。するもアベイルやカイだけでなく…フォーダも付いて来ると言って聞かなかった。


 マリウスはフォーダの父に海賊退治について相談したところ、オズマ率いる傭兵団に依頼をしてくれた。その事を保険代わりにフォーダも連れて行く事に––––。


(確かにガザメス程の使い手が居なければ、問題ないだろうけど)


 実際、マリウス達が海賊のアジトに乗り込んだ時には実に呆気ないものだった。傭兵団の活躍もあり、海賊達は完膚なきまでに叩きのめされたのである。


 マリウスにとっては少し拍子抜けする結果だったが、この時予想外の出来事があった。


「貴方がマリウス殿か?」


 傭兵団の団長・オズマが話しかけてきた。二人はハコンダテを守る戦いの時には顔を合わせる事が無かったのである。


「貴方がオズマさんですね?お噂は伺っています」

「ふっ、噂は俺の方こそ耳にしているさ。しかし今回の海賊討伐は消化不良だったろう…どうだ?一つ俺と手合わせしてみないか?」


 マリウスが受けると確信しているのか、既に剣を抜いて構えるオズマ。


(この人…構えに全く隙が無い。久しぶりにいい勝負が出来そうだ)


 アベイルやカイとの鍛錬も決して楽なものではないが、慣れてくると相手の出方や癖も読めて来てしまい最近は物足りないと感じていた。勿論マリウスの天賦てんぷの才があってこその話だが––––。


「ええ、受けて立ちましょう」

「そうこなくちゃな」


 立会人がつき、傭兵団のメンバーも注目されながら二人の戦いが火蓋ひぶたを切った。


「––––––始め!」


 立会人の合図と同時に、すかさずオズマはマリウスに斬りかかる。


 キィンッ–––––––––!


 予想以上のスピードにマリウスも袖の雪で受けるのが精一杯だった。


(くっ…速い!武器の差もあるけれど、今までの相手とは比べ物にならない–––––)


 マリウスは一度剣を弾いた後、今度は自分からも斬りかかる。オズマも刀を剣で受け止め、そのまま何合も打ち合いを続ける。


 キンッ–––キンッ–––!


 激しい戦いの最中、海賊のアジトに残っていた財宝の検分をしていたフォーダ達も騒ぎを聞きつけて二人の勝負に駆け付けた。


「なんだか面白い事になってるなぁ」

「俺もオズマ殿と手合わせしてみたかったんだが…」

「オズマ…どうしてマリウス様と?」


 三人が見ている事を他所よそに、白熱した剣の打ち合いをする二人。


「いい腕だ!なかなか大したもんだな」

「貴方こそ!こんなにワクワクする相手は久しぶりだっ」


 気を抜けば三途の川を渡りかねない、真剣での打ち合いにも関わらず楽しそうな笑顔を見せるマリウスとオズマ。


 周りが息を呑んで見守る熱戦は、意外にもあっさりと終わりを告げる事になった。


 パキンッ–––––––––。


 オズマの使っていた剣が折れてしまった。名刀・袖の雪の威力に、通常の鉄の剣では耐久力が保たなかったのである。


「ちっ…ここまでか。折角面白くなってきたところだったのに」


 折れた剣をまじまじと眺めながら言うオズマに、先程まで勝負の行方を眺めていたフォーダが食ってかかる。


「オズマ!どうして急にマリウス様と手合わせなど始めたのですか⁈」

「それは…マリウス殿が姫様に相応しい相手か見極める為ですよ」

「えっ––––––?」


 ポカンとするフォーダを後に、オズマは傭兵達に声を掛け撤収を始めた。この場を離れる際、オズマはマリウスに声を掛ける。


「今日は楽しかったぜ––––また会おう」

「は、はい!また手合わせしましょう!」


 二人が言葉を交わした後、傭兵達はその場を去った。海賊達のアジトから離れていく最中、オズマは一人呟く–––––。


「あの若さで大したものだが…まだまだ不安は残るな。だがそれ以上に将来が楽しみでもある……よし、決めた。領主からの例の依頼、受ける事にするか––––」

 

◆◇◆◇

 色々とあったものの、マリウスにとっては実りある一ヶ月であった。折角親しくなった人々と離れるのは辛いことだが、祖国に戻る手掛かりを掴むためにも行かなくてはならない–––––。


 ハコンダテの港につけてある大型の船。マリウスは船に乗り込む前に、見送りに来たフォーダの父に挨拶をする。(※リンは先に船に乗り込み、船内を確認中)


「これまで本当にお世話になりました」

「何を言う、マリウス殿。世話になったのはこちらの方だぞ?そうそう、野盗退治の頃からの褒美を用意したのだ。旅の路銀にでも使ってくれ」


・二万五千ゴールドを手に入れた!

(残金:三万三千ゴールド)


「ありがとうございます。その…やっぱりフォーダ達は見送りには?」


 マリウス達を見送る者達の中にフォーダやアベイル、カイの姿は無い。三人とも「見送りには行かない」と言われてしまい、マリウスは別れが辛くなるためそのように言ったのだと思っていた。


「ああ、見送りには来ぬぞ?だがその代わりに––––––」


 パカラッパカラッパカラッ––––––––!


 馬が駆ける音が聞こえて来る。マリウスは急いで音がする方向を見ると、三頭の馬には見慣れた三人の姿があった。


 マリウスにとってはハコンダテの町で一番長く共に居て、生死を共にした掛け替えの無い仲間たち––––。


「みんな…やっぱり来てくれたんだね」


 マリウスは思わず目頭が熱くなるのを感じた–––––。間も無く三人が乗った馬達はマリウスの元に辿り着く。


「もしかしたら見送りに来てくれないかもって思ったけど、こうして来てくれて…本当にありがとう」


 マリウスの言葉にポカンと三人だったが、途端に笑い出した。


「ふふっ、マリウス様?私たちは見送りに来たのではなく…マリウス様と一緒に行くんですよ!」

「えっ……えぇぇぇぇぇっっっっ⁈」


 港にマリウスの驚きの声が響き渡る。


「マリウス様、水臭いですぜ?あの時、忠誠を誓うって約束したのに声も掛けてくれないなんてなぁ」

「ご心配なく、お館様には姫の護衛も兼ねて承諾はいただいてますので」


 三人とも間違い海賊に襲われた時の誓いを覚えていたようだ–––––彼らの申し出はこの上なくマリウスにとって嬉しいものだったが…。


「来てくれるのは嬉しいけど…僕は元の世界に帰るつもりだったから–––––」

「そんなの関係ありません!」


 フォーダは声を張り上げながら、マリウスの胸に飛び込んだ。


「私はマリウス様に身も心も捧げるとお伝えしました。ですがそれは約束だからではありません…私自身の意思です!どうかこれからも…貴方の傍に居させてください––––」

「フォーダ……」


 揺らぐマリウスにもう一人、思わぬ人物から声が掛けられる。


「姫様にここまで言わせたんだ。責任を取って連れて行くしかあるまい?」


 領主の護衛の中にフードを被った者が一人。声の主がフードを脱ぐと…その中はオズマだったのである。


「えっ⁈オズマさん?」

「俺は領主に頼まれてな。お前達の力になって欲しいと話を受けていたんだ。その代わり傭兵団を町で専属に雇ってもらうって事でな?」

「そう言う事だ。儂からも頼む…四人を旅の共に連れて行ってくれ」


 フォーダの父からも頭を下げられ、最早マリウスは頷くしか選択肢が無くなっていた。


「分かりました–––––いや、正直に言うとみんなが来てくれると聞いて本当に嬉しいんだ。これからもよろしくお願いするよ」


「はい、勿論です!」

「マリウス様と一緒なら退屈しなさそうだしな」

「それは言えてるな」

「こちらこそよろしく頼む、マリウス殿」



・オズマが仲間に加わった!



 こうしてマリウスはリンだけでなく、フォーダ・アベイル・カイ・オズマを連れてメイン・アイランドへと旅立つのであった––––。



〜第三章に続く〜


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[あとがき]

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


 第二章はこれで終わりで、二章で仲間になったキャラのキャラ紹介とパラメータを羅列してから第三章に入ります。


 もし物語が面白かった・続きが気になるという方は♡や⭐︎と作品・作者のフォロー、また感想をいただけるとありがたいです( *・ω・)*_ _))

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