第20話 虚ろな世界 その2

 

 後輩はポケットから2枚のチケットを取り出すと言う。


「次の土曜、映画に行きませんか?」

「……」


 沈黙するオレ。

 一方、後輩は何故かチケットで自分の顔を隠した。


「……どうしたんだ、そのチケット。もしかして買──」

「偶然たまたま奇跡的に映画のチケットが2枚も手に入ったので!」

「な、なるほど……」


 そいつはラッキーだったな。


***


 そんな訳で、オレと後輩は休日に映画に行くことになった。

 思えば、後輩と外に出かけるのは初めてかもしれない。いつもは家でゲームしているからな。


 待ち合わせは最寄りの駅。


 そういえば、前に紗世ちゃんとプレゼントを買いに行った時と同じシチュエーションだ。

 確かあの時は紗世ちゃんの方が先に来てたんだよな。

 念のため、一応早めに出ておくか。

 もっとも、あの後輩がそんな殊勝なことをするとは思えないが。


 オレは30分前に駅に着いた。


 しかし、そこには既に後輩の姿があった。


 ……お前もか。


***


 今日は想像以上に車内が混んでいた。

 当然、座るところなんて見当たらない。

 オレと後輩はドア付近で立つ事にする。


「……なんでこんなに混んでるんだ」

「さ、さぁ?」


 後輩はオレから顔を逸らした。

 車内は非常に混雑しており、オレと後輩は密着して立っている。体勢的には、オレが後輩を壁ドンしているようにも見える……というか完全に壁ドンをしてしまっている。


 これをあと20分ほど続けなければならない。いくら後輩相手といえど、流石に気まずすぎる。


 全く隙間はないが、オレは少しでも離れようと、無理やり後ろに下がった。


 しかしそんなオレを、後輩は抱きしめる。


「お、おい…」

「周りの人のことも考えてください。迷惑ですよ?」


 そう言いながら、後輩はオレの胸に顔を埋めた。

 そのときの後輩がどんな表情をしているのかオレにはわからない。

 ……果たして、ここまで密着する必要があるのだろうか。


「……」


 そんな後輩を見ていると、思い出してしまう。

 

 3日前、紗世ちゃんに抱きしめられた、あの時のことを。

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