第11話 Birthday Present for My Sister その2


 紗世ちゃんとゲームを始めて1時間が経った。

 紗世ちゃんは熱中しているのか、いつの間にかベッドから降りてオレと同じように床に座ってゲームをしている。


 ──それにしても。


 いい匂いが鼻腔をくすぐる。

 それは紗世ちゃんから香ってくる。


 ……香水、だろうか。


 前からつけていたか?


 それに今日の紗世ちゃんはやけにオシャレな気がする。いつもより彩の良い服を着ているし、胸を強調している服装にも見える。

 家でゲームするくらいなら、もっとラフでもいいだろうに。オレが着てる服なんて母親が買ってきた、訳の分からない英文がプリントされてるTシャツだぞ。……やべ。無性に恥ずかしくなってきた。


「お兄さん」

「え、あぁ、どうした?」


 不意に、紗世ちゃんに声をかけられた。


「最近、朝ちゃんとはどうですか?」


 天峰朝。

 オレの妹のことだ。


「いつも通りだよ」


 そう、いつもと何も変わらない。


「いつも通り──険悪だよ」

「……そう、ですか」

 

 オレと妹の仲はよろしくない。

 何故かは分からない。何か明確な出来事があった訳でもないし、あいつに嫌われるような事をした覚えもない。自然とこうなっていた。


「どうして、こうなったんだろうな」

「……」


 気まずいからか、紗世ちゃんは黙りこくってしまう。


 まぁ、理由は薄々わかっている。

 身内とはいえ、オレのようなゲームオタクの根暗に気持ち悪いという感情を抱くのは別に不思議な事じゃない。

 詰まるところ、妹にとってオレは嫌悪の対象でしかないのだろう。


 すると、黙っていた朝ちゃんが口を開いた。


「来月には朝ちゃんの誕生日がありますよね?」

「あぁ…、そういえばそうだな」

「朝ちゃんにプレゼントを送りましょう!」


 プレゼント?


 突発的な話に、オレはクエッションマークを頭の上に浮かべる。


「プレゼントって、そんな単純な話じゃ……」

「お兄さん。最後に朝ちゃんの誕生日をお祝いしたのはいつですか?」


 いつ? 

 そういえばいつだったか。

 朝が小学生の時までは祝っていた記憶がある。けれど、中学に入ってからはそういったことをした覚えはない。


「もしかしてそれが原因か? いや、そんな事で……」

「そうですね。多分それが理由ではないと思います」

「なら──」

「でも、それが理由なのかもしれません」

「……」


 確かに、可能性の話をするならゼロではないだろう。しかし、そんな事を言い出したらキリがない。


 そんな事を思っていると、紗世ちゃんはゲームのコントローラーを床に置く。


「分からないなら、とりあえず動いてみましょう」


 紗世ちゃんはオレとの距離を詰めて続ける。


「朝ちゃんが歩み寄ってくれないなら、お兄さんから迎えに行ってみませんか?」

「っ」


 そして、オレを手を握り、オレの目を見つめて言った。


「そのために必要なら、わたし何でも協力しますから!」

「……」


 真っ直ぐで、綺麗な瞳だ。


「あ、あぁ、ありがとう……」


 そんな紗世ちゃんの眼差しに魅了され、オレはいとも簡単にその気になってしまった。

 オレはこんなにも単純な奴だっただろうか。


 ***


 紗世ちゃんは元々、内気な子だった。

 昔は自己主張をする事はなく、常にオレや朝の行動に合わせ、後ろをついてくるような自分を持たない子だった。

 そんな性格だったからか、同世代の男子によく虐められていた。その度に妹が、男子たちを撃退していたのを覚えている。


 そんな紗世ちゃんが、今では力強くオレを奮い立たせてくれる。

 

 紗世ちゃんは、本当に変わったと思う。

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