星座オタクの元OL、宇宙が身近な異世界で新たな星座を作ります!
水涸 木犀
第1章 もふもふ系幼なじみと鉱石族の少年
第1話 宇宙都市に暮らしていますが、私はかつてOLだったようです
「今日は星、けっこう見える」
わたしは、うす暗い帰り道を通るとき、必ず夜空を見上げる。日本の都市部は星が見えないという風潮があるけれど、そう言う人は星座を知らないだけだ。全部で八十八個ある星座の知識があれば、明るい星を手がかりに、かんたんに探し出すことができる。見えなくても、どの辺りに星があるかの推測はできる。明るい夜空でも星座を見つけだせるのは、星座オタクとしての最低限のたしなみだ。
「とはいっても、もっと星が見えるところにいってみたいけどなぁ」
日本国内でも、山奥に行けば星が見えるのは知っている。でも、妙に過保護なところがあったわたしの両親は、人が少ない「危なそうな場所」に旅行に行くのを渋っていた。『莉々子はそそっかしいところがあるから心配だ』といつも言われる。もうすぐアラサーだし、自分のことは自分で責任をとるし、そもそも星空で有名な場所の多くは、観光地化していてよほど無防備でない限り、危ない思いはしないはずなのだけれど。
だからこそ、わたしは都市部の明るい夜空でも、星座を見つけられるようになったから、悪いことではないのかもしれない。
家に帰ると、壁一面の本棚が迎えてくれる。漏れなく、星座に関する歴史や伝承が書かれた話だ。中には専門的すぎて読み切れなかったものもあるけれど、描かれたイラストがきれいで残してある。
わたしはいつものくせで、お気に入りのポケット星図表を取り出して眺める。
「今は二十時半、南西の方向、高さはこれくらい、かな」
星図の時刻と方向をさっとそろえて、部屋の窓を開けて外に顔を出す。今はスマホを向ければ星座の場所がわかるアプリもあるけれど、慣れていれば紙の星図のほうが見やすいし、早い。星座を眺めている間は、仕事のことを忘れられる。
「はあーやっぱり星座を考えた人たちってすごいな。そろそろ寝よ」
ひとしきり星空を堪能したあと、ベッドにもぐりこむ。
そこで、わたしは目を覚ました。
寝ようとしていたところで目を覚ますというのも変な話だけれど、そうとしか言いようのない状態だった。そもそも今の夢は何だったのだろう。疑問に思いつつも、逆になぜか、確信があった。
莉々子は、わたしだ。今いる世界に生を受ける前の……前世の記憶なのかもしれない。くわしいことはわからないけれど、今いすにもたれてうたたねをしていたわたし、リリと、日本という国で働いていて、夜な夜な星座を探して過ごしていた莉々子は同じ人間。でもなぜ今さら思い出したのだろう。自分の見た夢を反芻しようとしたとき、
『お客さまがお見えです』
という人工音声が聞こえて飛び上がる。そもそも目を覚ましたきっかけも、部屋に機械音が流れたからという可能性が高い。となると、短くない時間、外に人を待たせてしまっている。
わたしはすっきりしない頭のまま自室の扉に近づくと、顔面照合で来客者の名前が表示される。親の顔よりも見慣れた文字をみてとって、わたしはすぐに開錠ボタンを押した。
「おはよう、リリ」
扉の前には、肩で切りそろえた黒髪と人なつっこそうな瞳をもつ、幼なじみの青年が立っていた。
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