春が来て君は、

流音

第1話

春の嵐が訪れた。

散り始めていた桜が、一斉に空に舞い上がる。

轟々と、唸る風が、白に近い色の花弁をくるくると、くるくると。




「はる」


柔らかい声に、微睡むわたしは「ん、」とだけ返す。

はる、は、わたしの名前。相沢はる。

春に産まれたから、はる。何とも単純な名付け方である。(シンプルイズベストとも言うかもね。)


柔らかい声の主は、「帰るよ」と言って、わたしの教室窓際の席のフックに掛かったスクールバッグをひょいと持ち上げた。

「おとちゃん…」

まだぼんやりとした眼を、制服のブレザーの下に着たカーディガンで擦りながら、わたしはゆっくりと身体を起こした。

おとちゃん、こと新橋音(にいはしおと)は、わたしの家のご近所さん。つまりは幼馴染である。

幼稚園から高校ニ年の春までずっとクラスが同じだというのだから、これはもはや運命を超えて呪いなのではないのだろうかと思う時さえあった。

それでいて、恋愛関係に発展するでも無く 、ただただ居心地の好い男女のおともだちの関係を続けている。



あの、いちどのくちづけを除いては。

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