第2話
現在、
新都心構想により新東京市の一つとして平成時代急速に開発の進んだ地区。
その華やかさと先進性は現在首都東京以上だと言われていた。
晩秋の夜、鬼隠中心部のとある雑居ビル内、有名大手進学塾。本格的受験シーズンまであと僅か、進学塾内は張りつめた空気が漂っていた。
受験生、『
「クソ、このままじゃ合格出来ねえ」
その日、模試の結果は涼守を追い詰めていた。
また志望校を諦めなきゃならないのか? そんな考えが脳裏をよぎった。
受験まで間がない、焦燥感が怒りを生む。
「何やってんの!! 俺!」
思わずコンクリート製の壁を殴った。痛いのは拳の方だった。
そんなバカな事をしてしまうくらい、龍樹涼守は追い詰められていた。
進学塾が終了し、涼守は一人、路面電車の駅へと向かった。寒い。
もう晩秋というよりは初冬……冬と言った方がいいだろう、もうすぐ十二月。
鬼隠地区の路線「中南線」の駅「中央三丁目駅」。進学塾帰り、涼守が何時も利用している路面電車の駅である。
海神市の都市交通システム、その根幹の一つは「路面電車」である。
特に鬼隠地区は最新鋭のLRT(ライトレールトランジット)が導入され、市民の足として利用されていた。
最新鋭の街に相応しい先進的なプラットホーム、鬼隠地区は新都心構想に基づき全てにおいて一世代先の都市計画がなされ、主要な建築物、アーケード類や街灯、更には標識に至るまで統一されたイメージにより洗練された都市景観となっていた。
車両も最新鋭の無人式、最先端のデザイン。涼守は路面電車に乗り込み座席に座った。もう、この時間になると職場帰りのビジネスマンも数少なくなっていた。
涼守は一人、都市の煌びやかな夜景を眺めながら「もっと勉強しなくちゃ」……等と考えていた。自宅まではまだ、遙か彼方。
百万人以上が住んでいる大都会を絶え間なく走る路面電車やモノレール。深夜に近いこの時間でも路線や駅によっては数多くの人々が乗り降りしていた。
仕事帰りのサラリーマンやOL、発車寸前のモノレールに無理矢理乗り込もうとしている。千鳥足で歩く酔っ払いのオヤジ、危ない。イチャイチャしている若いカップル、ムカつく。バイト帰りの苦学生、応援。
数多くの人達が、駅のホームや電車のドアですれ違っている。見ず知らずの人達が同じ車両内で思い思いの時を過ごしている。
スマートフォンで音楽を聴いている者。ゲームをしている者。文庫本を読んでいる者。こんな時間なのに朝刊を読んでいる者、そして隣の人と下らない話している者。
人々は、決して短くはない一生の中で数多くの見ず知らずの人達とすれ違い、或いは同じ電車の車内の中で一時を過ごさなければならない。それは、数多くの人々にとってただ時間を消費するだけの無駄な「
百万都市を行き交う人々。その中で一体どれくらいの人達に、
涼守の乗った路面電車は「中央図書館前駅」で停車した。
ドアが開いた。少女が一人で路面電車に乗り込んできた。「松葉杖の少女」。涼守の視線は自然と松葉杖の少女追った。
凄く可愛いと思った。
それと同時に憧れと嫉妬が入り交じるモヤモヤとした感情が沸き起こった。
松葉杖の少女は、マフラーを巻いただけの制服姿。今年新しく採用されたばかりの未来的かつ斬新なデザイン、ともかく目立つ。
涼守が目指している志望校の制服。
目立つ制服に負けない、可愛らしさ。涼守がまた諦めなければならないかも知れない進学校の制服。
この学園生ならば将来の幸福は約束されているも同然。
心の中、松葉杖の少女を涼守らしくMS(モビルスーツ)で喩えた。
「俺がRB―79(ボール)なら、あの人はRX―78(ガンダム)って事だな。何にしても俺はやられメカか量産型、彼女は主役メカだ」
涼守と松葉杖の少女が乗った路面電車は都市中心部、鬼隠中央地区からベッドタウンである南地区へ向かう。中央地区と南地区を隔てるトンネルを抜けた。
南地区へ入り四駅目。路面電車は鬼隠の最高級住宅街、沢山の高層マンションが建ち並ぶ「鬼隠ヒルズ前駅」に停車した。
松葉杖の少女は鬼隠ヒルズ前駅で降車した。高級住宅街の住人だったのだろうか? ドアが閉まり路面電車が再び走り出した。涼守は窓の外、一人歩いている松葉杖の少女を見つめ続けていた。
路面電車の乗客は、鬼隠南地区内で殆ど降車する。南地区を抜け、またトンネルを潜り海岸線に出る。そのまま終点「鬼隠南駅前」「鬼隠南ステーション」に到着した。
中南線の終着駅まで路面電車に乗っている乗客は僅か数名。大体はここから先、旧市街に向かうバスに乗り込む乗客ばかりだった。
涼守も鬼隠南ステーションのバス乗り場に並んだ。
涼守はバスが到着するまでの間、松葉杖の少女の事を思い返した。そして、とあるガンダム作品のサブタイトルを思いだした。
「「月は出ているか?」……ある訳ねえよ。
涼守は溜息をつき曇り、月は見えない夜空を眺めた。息が白く吐き出されていった。
「量産型(ドートレス)の俺には「
それが現実、それが
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