第11話・逆流する川と遡上する人魚シャチ

 セシルがアメジスト色の道を進むと、凸凹した結晶の道に変わった。

 道の片側には川が流れていて、魚が泳いでいる。

 ホウキから降りて、川の流れをセシルが眺めていると突然、川の流れが止まって。

 川下から川上に川が逆流をはじめた。

「なに? 川が海から山に向かって流れている?」


 川の生物たちも大慌てで対応している。

 海の生物が次々と遡上そじょうしてきて、川上から過去に流された家も逆流に乗ってもどってきた。

 家の中から、手を振っている子供にセシルも手を振る。

 やがて、一匹の頭が人間の人魚シャチが遡上してきて川から飛び出すと、河原でピチッピチッと跳ねながら言った。

「どもっ、人魚です」

 頭以外はシャチの魚体で、目の周りが白くなった……まるで覆面レスラーのような、人魚シャチがセシルに向かって明るく笑う。

「ちょっくら、海から山を見に来ました……ほーっ、あの並んでいるのが『喜怒哀楽山』ですか」


 人魚シャチは、しばらく怒りで頭が噴火している『激怒山』と、ゲラゲラ笑っている『哄笑山』と、涙が川になっている『悲哀山』が並んだ喜怒哀楽山を眺めた。


 三つの山を眺め終わった人魚シャチが、セシルに言った。

「喜怒哀楽山も見たから海に帰りますか……この辺りには『友だちウサギ』が出没するから、気をつけてね……友だちウサギが苦手なのはカメだから……じゃあね」


 そう言うと、人魚シャチはピョンと跳ねて、川の中に飛び込んで海の方へと泳いで行った。

 セシルが、これからどうしようかと考えていると。

 川原の草の中から、後ろ足で立った黒いウサギが現れた。

 黒いウサギが、セシルに近づいてきて言った。

「ねぇ、友だちになろうよ」

 セシルは、それほど深く考えないで答える。

「うん、いいよ……友だちになろう」

「ありがとう……それじゃあ、友だちの証しで」

 黒い友だちウサギは、川原にある大きな石を指差して言った。

「あの石に頭をぶつけて死んで……友だちだったら、できるでしょう」

 ウサギの言葉に驚くセシル。

「どうして死なないといけないの? イヤだよ……友だちだったら、そんなコト言わないよ」


 友だちウサギの、背中のファスナーが静かに下がる。

「やっぱり、君も本当の友だちじゃないんだね……友だちだったら、ボクの言うことを聞いてくれるはずなのに……ウソつき、傷ついた」


 友だちウサギの中から、数体の黒いナースナが現れた。

 細長い体と手足で、のっぺりしていて、ギザギザの歯がある三日月型の口でニャッと、目が無いナースナが笑った。

 逃げ出そうとしたセシルの首筋に伸びてきた、ナースナの腕の先端にある毒針がセシル・リデルの首筋に刺さり毒が注入される。

「あっ⁉」


 毒が注入された、セシルの体から中身がナースナに吸われて、セシルは皮だけになった。

 溶かしたセシルの中身を、黄金の小さな壺に移し終えた黒いナースナたちが歌うように言った。

「セシル・リデルは嘘つきだ♬」

「友だちになると言ってウソをついた♬」

「友だちだったら、なんでも言うことを、聞いてくれるはず♬ 聞いてくれるはず♬」

「セシル・リデルは友だちじゃない♬」

「ナースナを怒らせた、怒らせた♬」

「だから、セシル・リデルの中身を抜き取った……黒いナースナは、皮はいらない中身が欲しい♬」

「白いナースナは、中身を溶かして皮に変えるだけ、変えるだけ♬」


 歌いながらまた、黒いウサギの皮の中に入った、ナースナの友だちウサギは、セシルの中身が入った黄金の壺を持って喜怒哀楽の山の方に走って行った。

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