第25話 料理対決と幻の調味料 -4

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10. 料理の評価と審査員の反応

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イリスの「伝説の料理」が完成し、審査員たちの前に運ばれた。料理は、見るからに異様な輝きを放ち、その匂いは、香ばしさの中にどこか魔力を感じさせるものだった。審査員たちは、恐る恐る料理を口にする。


「これは……なんだ……!?」

「味覚が……破壊される……!」


審査員たちは、顔を歪ませ、悶絶する。その味は、想像を絶するほどまずいものだった。フィーネは、その光景に絶望する。


「まさか……こんなにまずいなんて……!」

「私の計画が……大赤字が……!」


フィーネは頭を抱え、その場にへたり込んだ。しかし、イリスは冷静に分析する。


「ふむ。味覚の破壊は、想定内ね。

 これは、味覚の常識を打ち破る、新たな芸術形式と捉えることができるわ」

「芸術……?」

「ええ。この料理は、既存の味覚の概念を破壊し、新たな味覚の可能性を提示しているのよ」


イリスの言葉に、審査員たちは困惑しながらも、どこか納得したような表情を浮かべ始めた。


「なるほど……これは、まさに前衛芸術だ!」

「我々は、新たな時代の味覚の誕生に立ち会ったのだ!」


審査員たちは、口々に叫び、拍手喝采を始めた。フィーネは、その光景に呆然とする。


「えっ……まさか、優勝……?」


アリスは、そんなフィーネの様子を見て、リュートをかき鳴らし、高らかに歌い出す。


「〜♪料理はとんでもなくまずかったけど〜、前衛芸術と絶賛され〜、まさかの優勝を勝ち取った〜!ポンコツだけど最強の絆で〜、世界を救う物語は続く〜♪」


フィーネは、その歌声を聞きながら、再び胃を押さえるしかなかった。




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11. 優勝の喜びと幻の調味料の正体

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まさかの優勝に、ヒロインたちは歓喜に沸いた。


フィーネは、大赤字を覚悟していただけに、その喜びはひとしおだ。


「やったー!優勝だー!」

「フィーネちゃん、やったね!」

「幻の調味料、ゲットだぜ!」


アキナが飛び跳ね、セラが目を輝かせ、アリスがリュートをかき鳴らす。フィーネは、幻の調味料を手に取り、その輝きを見つめる。


「これが……幻の調味料……!これで莫大な利益が……ぐふふ」


フィーネは、その調味料を舐めてみる。その瞬間、フィーネの顔から血の気が引いていく。


「な、なんだこれ……!味が……味がしない……!?」

「フィーネさん!?」


フィーネは絶叫した。イリスは、その調味料を解析し、冷静に告げる。


「解析完了。この調味料は、特定の魔力反応を持つ食材の『味』を一時的に消去する効果があるわね」

「えっ、味を消す!?」

「ええ。つまり、この調味料は……ただの味消しよ」


イリスの言葉に、フィーネは膝から崩れ落ちた。幻の調味料の正体が、まさかの「味消し」だったとは。


「はあああ!?味消し!?

 こんなもの、どこで売ればいいんですか!私の利益がーっ!」


フィーネは絶望の叫びを上げた。他のメンバーは、その事実に困惑しながらも、どこか楽しそうにフィーネを見ている。


「味消しか!それはそれで面白いな!」

「実験のしがいがありますね!」

「へへん、最高のオチだぜ!歌のネタが増えるぜ!」


アキナが笑い、セラが目を輝かせ、アリスがリュートをかき鳴らす。フィーネは、その光景に、もはや何も言えなかった。




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12. ギルドでの収支報告とエルザの腹黒い笑み

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冒険者ギルドの受付カウンター。フィーネは、頭を抱えながら、今回の料理対決の収支報告書をエルザに提出していた。


「エルザさん!信じられますか!?幻の調味料が、ただの味消しでした!」

「まさかの大赤字ですよ!私の苦労が報われません!」


フィーネは机に突っ伏し、半泣きで訴える。エルザは報告書をちらりと見て、にこやかに微笑んだ。


「ふふふ……まあ、そうでしょうね。ですが、あなたたちのおかげで、ルチアナ姫様との新たな商談の糸口ができましたわ」

「えっ!?」

「王都の貴族たちの間で、あなたたちの『前衛芸術料理』が話題になっていますもの。次の大口依頼に繋がる可能性もございますわよ」


エルザの言葉に、フィーネは顔を上げて食い下がった。


「未来の顧客獲得!?こんな大赤字がですかーっ!」

「ええ。これは、未来の顧客獲得への先行投資ですわ。今回の活躍が、次の大口依頼に繋がるのですから」


エルザはそう言って、口元だけで笑った。その瞳の奥には、すべてが計画通りに進んだことへの満足感が宿っている。


ギルドの奥からは、アリスの歌声が響いてくる。


「〜♪料理はとんでもなくまずかったけど〜、まさかの優勝勝ち取って〜、幻の調味料は味消しだったけど〜、最強の絆で世界を護る物語は続く〜♪」


アリスは、今回の冒険をすでに伝説として美化し、高らかに歌い上げていた。フィーネは、その歌声を聞きながら、再び机に突っ伏すしかなかった。

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