第20話 第三王女の突拍子もない依頼 -3
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6. 無自覚な発見と姫の隠し場所
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アキナが高所恐怖症で塔の螺旋階段を上れないまま、立ち往生してしまった。フィーネが「どうするんですか!このままじゃ進めない!」と焦っていると、アキナが震える声で叫んだ。
「だ、だめだ……!もう限界だ!こんなに高いところ、無理だ!」
「アキナ!落ち着きなさい!」
「無理……無理だぁぁぁ!」
アキナは恐怖のあまり、その場で剣を振り回し始める。その剣が、偶然にも壁に隠されたレバーに当たった。ガチャン!と大きな音が響き、壁の一部がずるりと横にスライドする。
「えっ!?」
「な、なんだ!?」
「これは……隠された扉!?」
フィーネが驚きの声を上げ、イリスが眼鏡をくいっと上げながら、知的な興奮を隠せない様子で呟いた。
「ふむ。ルナの言っていた『隠された扉』はこれのことだったのね」
「アキナの暴走が、偶然にも扉を開けた……予測不能な事象ね」
開かれた扉の奥には、小さな秘密の部屋があった。その部屋の真ん中に、ルチアナ姫が悠然と座り、本を読んでいた。まるで、隠れた場所にいることを楽しんでいるかのように。
「あら、あなたたち。どうしてこんなところに?」
「姫様!?こんな場所にいらっしゃったんですか!?」
「はい。わたくし、静かに読書を楽しんでおりましたの」
「静かに……?」
フィーネは呆然とした。アキナは、恐怖のあまりまだ震えながら、姫の姿を見て目を丸くしている。
「姫様、ここで何してるんですか!?俺、心配したんだぞ!」
「あら、ごめんなさい。
わたくし、時々こうして、誰にも邪魔されない場所で過ごしたくなるのですわ」
「邪魔されない場所……」
リリアが眉をひそめて呟いた。
「まさか、これが……姫様の『ポンコツ』な一面、ですか……」
イリスが冷静に分析する。フィーネは、呆れと安堵がない交ぜになった表情で、その場にへたり込んだ。姫の「変わり者」な本質が、思いがけない形で明るみになった瞬間だった。
「さて、皆さま。わたくしが本当に護衛をお願いしたかったのは、実はこの王宮にいる、わたくしの『お友達』を探していただきたかったのですわ」
「お、お友達……?」
「はい。わたくし、なかなかお友達ができなくて……」
ルチアナ姫は、少し寂しそうに微笑んだ。フィーネは、その言葉に絶句する。護衛依頼が、まさかの「お友達探し」だったとは。
「お友達探し!?そんなことのために、こんな大騒ぎを……!」
「フィーネさん、顔が青いですよ」
「こんなの、依頼じゃないですよ!私の利益がーっ!」
フィーネの悲鳴が、秘密の部屋に響き渡る。アリスは、そんなフィーネの様子を見て、リュートをかき鳴らし始めた。
「へへん、姫様のお友達探し!こりゃあ、最高の歌になるぜ!」
「アリスさん!歌わないでください!余計な混乱を招かないでください!」
アリスはフィーネの制止にも構わず、楽しそうに歌い出す。その歌声は、姫の「お友達」探しという、突拍子もない依頼を、まるで壮大な冒険のように美化していく。
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8. 王宮での「お友達」探しとルナの「フリーズ」
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ルチアナ姫の「お友達探し」という突拍子もない依頼に、ヒロインたちは王宮内を奔走することになった。フィーネは、この依頼で「大赤字」になることを確信し、すでに胃がキリキリと痛み始めていた。
「姫様、お友達というのは、どのような方で……?特徴などございますか?」
「そうですね……わたくしと同じくらい、静かに本を読むのが好きな方かしら」
「静かに……?」
フィーネは首をかしげた。このパーティに「静かに本を読む」ような人間は、イリス以外に思い当たらない。
「ふむ。姫の脳波から、特定の人物像が浮かび上がってくるわね。図書館にいる可能性が高いわ」
「図書館……ですか」
「ルナ、図書館の魔力反応を解析して。もしかしたら、その人物の記憶の痕跡が残っているかもしれないわ」
「はい……頑張ります……」
イリスの指示で、ルナは図書館へと向かう。しかし、王宮の図書館は膨大な量の書物と、それに付随する無数の思念に満ちていた。
「ひっ……たくさんの……本……記憶……情報過多……!だ、だめです……フリーズ……しそう……!」
「ルナさん!?」
ルナは、大量の情報に脳が処理しきれなくなり、全身を震わせながらその場にうずくまってしまう。
「ったく、こんな時にフリーズするなんて!ルナ、しっかりしなさい!」
「あんたが固まったら、この作戦がめちゃくちゃになるわよ!」
リリアがツンデレながらもルナを叱咤激励する。しかし、ルナは完全にフリーズしてしまい、動かなくなってしまった。
「ルナちゃんがフリーズしちゃった!どうするんですか、イリス様!」
「困ったわね。これでは情報収集ができないわ」
フィーネは頭を抱え、イリスも困惑した表情を浮かべる。アキナは、ルナの様子を見て心配そうに駆け寄った。
「ルナ!大丈夫か!?俺が守ってやるからな!」
「アキナちゃん、今はそういう問題じゃ……」
アリスは、そんな状況でも楽しそうに歌い出す。
「〜♪フリーズした聖女は〜、情報過多で動けない〜、それでも仲間は諦めない〜、友情の歌が響き渡る〜♪」
「アリスさん!歌わないでください!」
フィーネの悲鳴が、静かな図書館に響き渡った。
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