第4話 神獣討伐と素材の売買 -4

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7. イリスの興味とセラの暴走


エルミナの魔法で神獣の動きが一時的に止まる。イリスは、その隙を見逃さなかった。


「ふむ……この神獣の魔力、興味深い構造をしているわね。

 直接データを収集しないと、論文が書けないわ。これは絶好の機会だわ」


イリスは古文書を片手に、神獣へゆっくりと歩み寄る。


「イリス様、お任せください!

 この魔装具を使えば、神獣の魔力を完璧に制御できます!

 『魔力変換器・改』起動!実験台に最適です!」


セラが興奮気味に叫び、怪しげな魔装具を暴走させ、神獣から魔力を吸い上げ始めた。神獣の体が、わずかに光を放つ。


「イリス様もセラちゃんも!

 何してるんですかーっ!

 作戦は捕獲ですよ!

 魔力を吸い上げたら、神獣が暴走しちゃう!」


フィーネの悲鳴が響く。


「ちょっと待って! 神獣の魔力が不安定になってる!」


イリスが神獣の魔力反応の変化に気づき、眉をひそめる。


「これは危険だわ……!セラ、すぐに魔装具を止めなさい!」


「大丈夫です、イリス様!きっと、新しい発見がありますから!」


セラは、イリスの言葉にも耳を貸さず、魔装具の出力をさらに上げた。


「セラ!聞いているのか!?」


イリスの声が、焦燥を帯びて荒くなる。


「ふふふ、データが、データが……!」


イリスは神獣の魔力変化に夢中だ。


「イリス様!データどころじゃないですよ!

 神獣が暴走したらどうするんですか!」


「静かに。今、重要な局面なのだから」


イリスはフィーネを一瞥し、再び神獣の魔力に集中した。




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8. ルナの予知とリリアのツンデレ救済


セラの魔装具が暴走し、周囲の魔力が乱れる。


ルナは、その魔力に触れ、神獣の記憶や感情が流れ込み、情報過多でフリーズ寸前になっていた。全身を震わせ、顔色は真っ青だ。


「だ……め……このままだと……森が……神獣が……情報……多すぎ……フリーズ……!神獣の……嫌いな……場所が……」


ルナは小声でブツブツと呟きながら、その場にうずくまる。


「ルナさん!?

 どうしたんですか、またフリーズ寸前!?」


フィーネが焦った声を上げる。


「ルナの脳波が異常な活動をしているわ。

 何か重要な情報を感知しているようね」


イリスが冷静に分析する。


「ったく、心配性にもほどがあるわね。

 ほら、しっかりしなさい!

 あんたがフリーズしたら、このパーティ全体が動けなくなるのよ!」


リリアはルナの様子に気づき、舌打ちをした。ツンデレながらも、仲間を心配する気持ちが、彼女を動かした。ルナに触れて、魔力無効化能力で彼女の精神的な負荷を軽減する。ルナの体が、わずかに落ち着いた。


「……南……南に……水……飲まない……場所……泥濘(ぬかるみ)……」


ルナは、辛うじて言葉を絞り出す。


「水、飲まない場所?

 泥濘?

 それが弱点なのか!?」


アキナが目を輝かせる。


「泥濘が弱点!?

 そんなバカな! 神獣ですよ!?

 もっとこう、聖なる剣とか、禁断の魔法とか、そういうのが弱点じゃないんですか!?」


フィーネは信じられないといった表情だ。


「ふむ。ルナのデータは常に正確だわ。

 神獣の生態に、特定の環境への嫌悪の可能性はゼロではないわね。

 泥濘が、その魔力を不安定にさせる要因となるのかもしれない」


イリスが眼鏡をくいっと上げ、分析を続ける。


「泥濘……!

 新しい魔装具の素材になるかもしれません!

 泥を固める魔装具とか!」


セラが目を輝かせる。


「泥濘……破壊しがいがありそうですね。

 とりあえず、やってみますか」


エルミナが無表情に呟く。


「エルミナちゃん! 試さないでください!

 泥濘を破壊したら、神獣が逃げちゃうかもしれないでしょうが!」


フィーネが悲鳴を上げる。


「へへん、泥濘にハマる神獣か!

 これは最高の歌になるぜ!

 『泥濘にハマった神獣のブルース』!」


アリスがリュートをかき鳴らす。


「くだらないこと言わないで。

 泥濘が弱点だとしても、どうやってそこに追い込むのよ。全く、手のかかる奴らね」


リリアはツンデレながらも、ルナの言葉が気になり、地図を逆さまに持ちながら、泥濘の方向へ意識を向け始める。


「リリア、どこ行くんだ!?」


フィーネが叫んだ。


「あんたに言われたくないわ!」


リリアは振り返らずに答えた。


「あいつら、勝手なことばかり……!」


フィーネは、もはや呆れるしかなかった。


「どうするんだ、フィーネ!」


アキナが焦った声で問う。


「私に聞かないでください!もう、私の胃が持ちません!」


フィーネは叫び返した。


「みんな、バラバラじゃないか!」


フィーネが絶叫する。


「統一感なんて、あたしたちには関係ないぜ!」


アリスが笑い飛ばす。


「それが、このパーティの個性よ」


イリスが冷静に付け加える。


「個性で飯が食えますか!」


フィーネは、頭を抱えてうずくまった。




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9. アキナ、絶体絶命のピンチとリリアの奇跡


神獣は、セラの魔力吸収とエルミナの魔法によって、一時的に動きが鈍っていたが、その怒りは増していた。アキナは、神獣の攻撃を受けて吹っ飛ばされ、泥濘に落ちそうになる絶体絶体絶命のピンチに陥る。


「くそっ!流石は神獣、手強いぜ!

 …… でも、ここで諦めるわけにはいかない!正義は勝つんだ!」


アキナはボロボロになりながらも立ち上がる。その瞳には、不屈の闘志が宿っている。


「アキナ、危ない!」


フィーネが叫ぶ。


「……何やってるのよ、バカね。

 こんなところで死なれたら、私が迷惑だわ。まったく、手のかかる奴ね!」


たまたまそこにたどり着いたリリアが、アキナの窮地に気づき、ツンデレ全開で叫んだ。彼女は神獣の攻撃を魔力無効化能力で弾き、アキナを泥濘から引き上げた。


「サンキュー、リリア!助かったぜ!」


アキナは息を弾ませながら、リリアに感謝する。


「フン。礼には及ばないわ。勘違いしないで」


リリアは、そっぽを向いた。

顔が真っ赤だった。


その視線の先にあるものがあった。


「水……飲まない場所……?

 ここ、泥濘じゃない……!」


リリアはルナの言葉を思い出しながら、たまたま目の前の地形が泥濘であることに気づく。


「まさか……これが……弱点なのか!?」


リリアが驚きと確信の入り混じった声を上げた。神獣は、泥濘を見て、嫌悪感を露わにするように後ずさる。


「グオオオ……!」


神獣の咆哮が、森に響き渡った。


「神獣が嫌がってるぞ!マジかよ!」

「この泥濘が弱点なのか!?」


アキナが目を丸くする。フィーネも驚きの声を上げた。


「まさか……そんな単純な……」


イリスが思わず眉をひそめる。

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