いざ、ソニックロックフェスティバルへ:生まれた新メニュー

 初日の夜は夕食の時間になっても流石に疎らな集合となった。

 キャンピングカーの周りに集まったのは俺を除いて山口と久保の二名だけ。それ以外の面々は会場で夕食を済ませるとの連絡が既にあった。


「みんな楽しんでるね~」

「チケットを譲ってもらった甲斐があったわけだ」


 日も落ち、キャンプ用の大型ライトでテーブルを照らしながら、俺は卓上コンロで料理を作りつつ、全身をリクライニングチェアに預けている山口の話相手をする。久保はその横で船を漕いでいる。おそらく疲労からだろう、日中に随分と遊んだようだ。


「そういえば、明日は近藤さん主導で新潟観光に行くそうだが」

「うん、言ってたね。私は行かないけど」

「そうなのか。他の参加者は?」


 山口に訊けば、高校生組と八重さんと山田と久保が参加し、それ以外はフェス会場に残るらしかった。


「中田は参加すると思っていたが」

「羽奈ちゃんはお友達がステージに上がるから残るみたい。明後日なら行ってたんじゃないかな」

「む、それなら仕方ない。最終日は翌日のこともあるから観光に出られて遅くなるのは困る」


 最終日に観光を許せば、もし夜遅くに帰ってきて翌朝に起きられませんでしたってのが一番困る。フェスの終わった月曜日は朝一から片づけて撤収だからな。


「……それにしてもいい匂いだね。なに作ってるの?」

「オアシスで食べたタコライス」


 味、手間、コストの三つから考えてネストのメニューに加えてもいいものをお試しとして作っている。


「オアシスエリアで食べたものは、おそらくスパイスで味付けした大豆ミートと、旨味を吸わせたトマトソースを組み合わせたタコライスだった。レタスはシャキシャキだったし、ケールとアボカドにパクチーをトッピングして彩りよかった。夜食べるのに向いているヘルシーな料理だが、食べ応えは抜群でなかなかの品だった」


 だから作ってみたと言ってできあがったばかりのタコライスを皿に盛り、山口の目の前に差し出す。俺謹製のタコライスから香るスパイシーな匂いは蒸し暑さを吹き飛ばして腹を鳴らすほどの威力がある。

 山口は小さくいただきますと呟き、スプーンでタコライスを掬って口に運ぶ。瞬間、目を見開いて俺の肩をパンパンと叩く。


「どうだ」

「美味しい! これ、ネストでも提供しようよ」

「ああ。ビリヤニは厳しそうだが、こっちは行けると思ったんだ。新メニュー候補入りだな」


 マジで美味しいよと俺に告げ、お預けを解除された犬のようにタコライスを貪る山口。その様子で気になったのか、久保も眠たげな眼を擦りながら身体を起こして俺にタコライスを要求してくる。


「私も食べたーい」

「ちょっと待ってろ」


 皿に白米とタコソースを手早く盛り付けてから久保に渡す。それを受け取った久保は「いっただきまーす」とふにゃっとした笑顔で手を合わせてから口に運ぶ。


「あ、マジで美味しい」


 久保は一口だけ食べて俺と山口も映り込む構図で自撮りをした。そして、そのままグループメッセージにその写真のアップロードを行う。


「おい、撮るなら一言」

「ごめんちゃい」


 舌を出してキャピッと謝る久保に呆れを含んだため息を吐き、俺も自分のタコライスをよそって食べる。

 うん、確かに店で出してもいいほどの味になっている。これならばもう少し研究したらメニューに載せてもいいな。


「これいくらで出すの?」

「一皿八〇〇円ってところだな」


 実際に仕込んでみたらまだ安くなるかもしれないが。

 俺の値段設定に山口が眉間を寄せる。


「安くなぁい?」

「高くしすぎてもな。フードはあくまで原価ギリギリと決めている」


 ネストの収益はドリンクで賄う方針なのは前からだ。だから人気のハヤシライスも制限をかけているわけだし。


「でもでも、ネストのハヤシライスってネットで人気じゃん?」

「なに?」


 久保が俺の知らない情報を口にした。ネストのハヤシライスが人気だと?


「実際に食べた人間なんかたかが知れてるのにか?」

「その食べた人たちからの人気が凄いんでしょ。食品会社とかコンビニとかから電話が来てるし」


 そういえばコンビニの商品開発を名乗る人間から電話が来たり、飛び込みで食品会社の人間が訪ねてきたりしていたが、基本的に何も聞かずに断る方針だから詳しく話を聞いたことなどない。詐欺かもしれないので大澤さんと相談して全てシャットダウンと決めているからだ。


「あれか、手に入れるまでが楽しい買い物みたいなものか」

「言いえて妙だね」


 久保が苦笑しながらタコライスを食べ終える。サルサソースのおかげであっさり食べられる。夏場にはもってこいの品だ。

 ……ん? スマホがバイブレートした。メッセージを受信したらしい。

 む、上山から「あと何人前残ってる?」と返信が来た。二人におかわりがいるかを訊いたが、二人とも腹は満たされたようで首を横に振った。


「ということは、三人前ぐらいか」


 鍋の残りを確認してメッセージを打つ。すると、爆速で返事が返ってきた。今観ているライブが終わったらさっさと戻ってくるので残しておいて、らしい。


「せっかくだからフェス飯を楽しめばいいのにな」

「瑠香ちゃんはネストご飯のファンだから一刻も早く新メニューを食べたいんじゃない?」

「いや、身内だからいつだって食べられるだろ……」


 山口は俺の言葉に深く失望したような息を吐いた。

 

「君には情緒ってもんがないのかにゃ~?」

「頬をつつくな」


 腹も満たしてご機嫌な山口がダル絡みモードに移行した。胸を俺の顔に押し当て、その反対から指で俺の頬をグリグリとつつく。あー、鬱陶しい。

 抵抗するのも面倒なのでそのままにしつつ、俺は久保に明日の観光について掘り下げて訊いてみることにした。


「そういえば、明日はどこを回るんだ?」

「清津峡と彌彦神社は確定。それ以外はその場のノリで決めるみたい」

「死ぬほど不安になる旅行計画だ……」


 本当に大丈夫なんだろうな。迷子になって帰れませんは勘弁してくれよ。







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