第3話 三晩の熱

その夜から、私は三日三晩、高い熱にうなされた。


意識は常に朦朧としていて、現実と夢の境界線が曖昧だった。冷たい氷枕が、燃えるように熱い頭にはひどく心地よかったけれど、それもすぐにぬるくなってしまう。母が何度も取り替えてくれる気配を感じた。そのたびに、母の体から放たれる、心配の色をした薄い藍色の靄が見えて、それがまた私の心をかき乱した。


夢の中では、いつも色の洪水に襲われた。


始まりは、決まってあの葬儀場の藍色だった。瞼の裏で明滅していたピクセルが、夢の中では実体を持って、重たい波となって私に押し寄せてくる。悲しみの色をした水の中に引きずり込まれ、息ができなくなる。手足をばたつかせてもがくと、今度は別の色が奔流となって現れた。


鼓膜の奥で低い金属音が響くような、焦げ付いた赤。その粒子は肌を焼き、焦げた匂いを伴っていた。吐き気を催すような、嫉妬の濁った緑。それは体にねっとりとまとわりつき、息を詰らせる。心臓を鷲掴みにされるような、恐怖の紫。様々な色の波が、代わる代わる私を打ちのめし、飲み込んでいく。


「いやっ……!見たくない!もう見たくない!」


何度も叫んだらしい。汗びっしょりになって目を覚ますと、いつも母が心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫よ、ハル。怖い夢を見たのね」


そう言って、母は濡れたタオルで私の額を拭ってくれる。その優しさに触れると少しだけ安心するけれど、同時に、その母自身からも色が発せられているという事実が、私を混乱の渦に突き落とした。母の愛情は、温かい赤金色をしていた。でも、その奥には、まだ消えない深い藍色が澱のように沈んでいるのが見える。


見たくないのに、見えてしまう。知りたくないのに、分かってしまう。


この目は、もう元には戻らないのかもしれない。熱に浮かされた頭で、そんな絶望的な考えが何度も浮かんでは消えた。氷枕の冷たさだけが、かろうじて私をこの世界に繋ぎとめている。私はただ、この色の嵐が過ぎ去ってくれるのを、小さな体を丸めて耐えることしかできなかった。

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