研修(3)


「学生として移住ならセンタータウンから補助も出るのですけれどね」

「オズワルドだけなら補助が出るから通えるということですか?」

「だがオズワルドだけで異世界に一人で生活させるわけには……」

「皆さん貴族出身なのでしょう? 立ち居振る舞いから見て。庶民の生活できなさそうですしね」

「「「あ」」」


 そ、そうか。

 異世界に爵位などない。

 我々は今、仕事もしていないのだからお金もない。

 平民として生活していかなければならないのに、その平民の生活も未だドローンやシルバーたちに手を貸してもらわねばままならないのだ。

 そんな状態でさらにセンタータウンとは異なる世界に行くなんて――ぐうぅ、難しいか。


「あ、あの、ぼくは別に無理に学校に通わなくても……」

「しかしオズワルド。せっかく体調が安定して健康になったのに……」

「そうですわ。友人を得るのは大切なことよ」

「そうだぞ、オズワルド。今のうちにちゃんと友人を作っておかないと私のようになるぞ」

「う……」


 胸を張るようなことではないが、私は友人がいない。

 幼少期にはお茶会をする友人がいたが、アロークスと婚約して貴族学園に通うようになってからレオンクライン様の護衛にばかりつくことになり、いつの間にか完全に疎遠になったからな。

 入学当初は一緒に授業を、と誘ってくれた優しい令嬢たちも、いつの間にか『レオンクライン様の護衛騎士様と仲良くするのは……』と言葉を濁すようになった。

 おそらくレオンクライン様の婚約者候補の高位貴族の令嬢に色々言われるようになったのだろう。

 一応私も侯爵令嬢なのだが。


「姉様、ご友人がいないのですか……!?」

「自慢ではないが手紙のやり取りをするような友人もお茶会に誘われたことも学園に入ってからというもの、一度もない。完全に疎遠になった」


 うん、と頷くと家族に全員青い顔をされた。

 あれ、これ言ったことなかった?


「アネモネさん……それは本当に自慢ではありませんよ」

「あ……す、すみません」

「でも、なるほど。そうですね……コミニケーション能力は大切ですからね……ええ……」


 ものすごく意味深に微笑まれている。

 なんだ?

 なんだか、体に震えが……。


「まあでも、各自そのように活動と同じくどのような生活をしたいのか、機能を出していただくのは大変参考になります。オズワルドくんは学校に通い友人を作る。他にはなにかありますか?」

「いいだろうか? 私と妻はライバー活動をしながらセンタータウンのどこかで働きたいと考えている」

「兼業を希望ということですか。構いませんよ。いぶこーはまだライバー自体の数が少なくて弱小と言わざるを得ませんからね。兼業はむしろ推奨しています」

「あの、私もできれば兼業を希望しているのですが」

「アネモネさんはコミニケーション能力を少し鍛えた方がいいと思うので、オズワイドくんと一緒に地球で生活しながらレッスンを受けていただけません?」

「へ?」


 にこり、と微笑まれる。

 優しい笑顔なのに、相変わらず圧のようなものを感じるのだが……え? レッスン?


「センタータワー内でも受けられるのに、わざわざ地球に連れてくるのか?」

「若い方は適応能力も高いので、地球に連れて来ても比較的すぐに地球の生活に慣れてくれるんですよね。なにより二十代以下は環境的に人間関係が構築しやすい。三、四十代の方は就職して職場の人間関係がすでに出来上がっている場合が多く、新社会人として入っていくには適応がどうしても遅れがちになりますし」

「それはある」


 あるんだ。

 思わず両親の方を見てしまう。

 今の話の後半は、おそらく両親に向けてのもの、だと思う。


「では、娘と息子ならば地球に行っても適応ができるということでしょうか?」

「ええ、留学生という形でオズワルドくんは小学校、アネモネさんは大学に通うことができると思います。ジュリアナさんはパートという形で就職もできると思いますが……オーズレイさんは多分転職という形で就職してもかなり厳しい。センタータウンで資格取得を目指しながら、即戦力可能な状態で就職を目指してもいいかもしれませんね。元の世界ではどのようなお仕事をされていたのでしょう? それに近い国家資格取得に向けて勉強しながら働きつつライバー活動をしていただくのが一番だと思うのですが」

「元の世界――アルクレイド王国では要塞や城の建築などを担当していたな。設計から現場指揮などをしていた」

「建築士の資格、いいですね」

「そうだな。測量と建築、身近なところだとインテリアデザイナーあたりも持っているといいかもな」


 ノートパソコンをカタカタ打っていたオウエンジさんが、もう一つの機械……あれはプリンター? に手をかける。

 なにか印刷されて出て来て、それを父の方に持っていくようノエラに指示をするオウエンジさん。


「これは」

「資料。読んでおいて、あとで自分でも調べてみるといい」

「ありがとうございます」

「地球の仕事は資格があればあるほど有利なので、特に国家資格は一つあれば食いっぱぐれることがありませんので全員一つは取得を目指すといいかもしれません。ライバーは副業でもいいんですから」

「センタータウンでライバーだけやりたいってのも別にいいけどな」


 そんな扱いでいいのか、ライバー活動。

 ちょっと驚いてしまったが、ナターシャさん曰く「いぶこーはそこまで大きくないですからね」らしい。

 ぶっちゃけすぎませんか?


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