第41話 魔法少女ルーちゃんと宇宙間最終小戦争 ➉

 多勢に無勢とはこのことで、避けきれない攻撃によって付いた傷が体を蝕み始めたのだ。

 勿論ゲトガーはすぐに再生を試みてくれているが、それを上回るスピードで私は体に傷を負ってしまう。


 そもそも、今日はすでにブリギオルと戦っているし、二度目の変身なのだ。体にガタがきて当然だ。


 ブリギオルを食べて強化されているとはいっても、こうコンディションが最悪ではプラスマイナスゼロ……いや、マイナスだろう。今の私は、動きにキレがなさすぎる。


 無数のデルデド星人だけでもしんどいのに、嫌らしいのはララガガルドだ。忘れたころに、遠くから針を投てきしてくる。それも、絶対に仲間には当たらないよう、慎重に、だ。ゲトガーが、彼のことを厄介と評するだけのことはある。


 針を肩に受け、頭を骨でぶたれ、刃で腕を切り刻まれ、爪を腹に突き刺される。


 あれ? これ、やばい?


 三人の中で、私が一番ピンチなんじゃ……。


 血を失いすぎたかもしれない。視界がふらつく。意識が朦朧とする。


 ……あー。なんだか。

「――腹が減ったなぁ!」

 叫び、私は目の前の寄生デルデド星人の寄生紋パロテクトを噛み千切り、飲み込んだ。ゲトガーに力が送られ、彼はその力で私の傷を修復してくれる。


 そうだ。エサは目の前にいくらでもある。食べ放題だ。

 それはまるで、エイリアンのビュッフェ。オードブル、メイン、デザート。より取り見取りだ。


 ブリギオルを食べたみたいに、こいつらも全員食って、今日中に完全な魔法少女になってやる!


「ゲトガー! 一旦食らって回復を――」

 私が言いきる前に、フィンガースナップの音が喧騒を縫って私の耳に届いた。行ったのはララガガルド。全員の注目が彼に向く。


「皆さん。一度攻撃をやめてください」

 デルデド星人たちは彼の言葉に素直に従う。鈴生りになっていたエイリアンたちは、私から一定の距離を置いた。


「あなたがブリギオル様を食らったという情報は、ブリギオル様本人からの交信によって伝えられています。しかし、こうされればそんな野蛮な方法での力の補給もできないでしょう」


 ララガガルドは、冷静に同胞に指示を下す。

「彼女とゲトガーさんはもう虫の息です。私一人でも相手取れるでしょう。ですから、寄生済みの方はルドヴィグさんの方へいって、同胞の加勢を。……ああでも、殺さずに拘束してくださいね? そして未寄生の方はカタナの人間の方へいって、ヒットアンドアウェイに徹して彼女への寄生を試みてください」


「こいつ……!」

 武力ではブリギオルの足元にも及ばないけど、かなり頭がキレるし、なによりも指揮の才が凄まじい……! 頭の悪い私とは正反対だ。


 力が全てではないことは知っているけれど、ブリギオル以下のエイリアンにここまで追い詰められるとは思いもしなかった。


 私はどこかで驕っていたのかもしれない。最強のブリギオルを倒し、食らい、パワーアップをした。もう、どれほどの力を持ったエイリアンも、どれだけの数のエイリアンを相手にしても、絶対に負けないと思っていた。


 それが、この体たらくか。


 私は、その場に立っていることができなくなった。膝が折れ、その場にくずおれるように尻もちをつく。


 ララガガルドが手を叩くと、寄生デルデドは委員長の方へ、素体デルデドは椎名さんの方へと移動を始めた。


 まずい。私のせいで、二人が危ない。

 ただでさえ、時間が経つごとに猛スピードで疲労がたまっていく私たちは不利なのに、二人の相手がこれ以上に増えたら……。


 私だ。私のせいだ。

 私が弱いから、二人の足を引っ張ってしまった。


 ……だめなのに。

 魔法少女は、絶対に負けちゃいけないのに。


 ララガガルドが手でくうを撫でる。すると、突如空中から現れた全長一メートルほどの四本の針が私の両手両足を貫き、私を道路に縫い付けた。


 痛みで顔が歪む。ララガガルドの予備動作には気付いていたが、全身の怪我と疲労がたたり、とっさに体が動かなかった。


 私の血が、道路を赤く染めていく。


 崖から椎名さんの雄たけびが響き、山から巨大化した委員長が倒れ込む轟音が届く。

 二人も、必死に頑張ってくれている。


 本来なら、私がララガガルドを瞬殺して二人を助けにいかないといけないのに。私が苦戦しているせいで、二人の負担が増えてしまった。


 両手の平を使い、ララガガルドの針を武器にして利用できないかと思ったが、そこはララガガルド。彼の針は私の手首を貫いているため、どうやっても手の平では針に触れることができないのであった。


 肉が千切れる覚悟で両手足を引っ張るが、駄目だ。肉と、力が足りない。


 ララガガルドは、私の体が生成した血の水たまりを踏み締めながらこちらに歩いてくる。電話ボックス横を横切る際に逆光となった針の異形の姿は、彼岸を彷徨う幽鬼のようで――。


「ウルウさん、でしたね」

 ララガガルドは、私の目の前で足を止めた。その場でしゃがみ込み、私に目線を合わせる。故意なのかそうでないのか、ララガガルドの顔から生えている針の先が、私の顔に刺さる寸前で止まった。瞳の先で、彼の針先が煌めいた。


「あなたに、ご提案があります」

 彼の表情は読めないが、ララガガルドの視線が私の首に注がれているということはなんとなくわかった。


「あなた、ゲトガーさんから他の体に乗り換えませんか?」


「……は?」

 こいつ、なにを言っている?

(――こいつ、なにを言っている?)


「今のは言い方が悪かったですかね」

 自身の顔から飛び出る針の先を指で弄るララガガルド。


「ゲトガーさんを捨て、ゲトガーさん以外の、私たちの同胞があなたに寄生するというのはどうですか? ……と、私は言いたかったのです」

「ゲトガーを……捨てる……?」

(――……ルー)


 こいつ、なにを企んでいるんだ?

 私は、ララガガルドの針をまっすぐに睨む。


「お前は、私を殺しにきたんじゃないのか?」

「殺しにきました。あなたが私たちのブリギオル様を葬ったのかと思うと、今すぐにでもその両の眼を針の先で貫いてやりたいくらいです」

 私の眼前で、ララガガルドの針先がふるふると揺れる。


「しかし、あなたがブリギオル様を実力で殺したことも事実。私はあなたを買っています。特にあなたの、突飛な思考と行動は、敵の予想を超えてくるため非常に厄介です」


「だから、なんなの?」

「では、端的に言います」

 ララガガルドはそこで一呼吸置いて。


「――私たちの仲間になりませんか? と、言っているのです」

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