第36話 魔法少女ルーちゃんと宇宙間最終小戦争 ⑤


 一瞬時が止まったのかと思ったが、委員長の周りを漂う巨大な幹が動いているところを見ると、どうやらそうでもないらしい。恐らく、呆気に取られて私の頭と体が動かなかっただけだ。


 おかしい。


 委員長は死んだ。ルドヴィグに寄生されて。

 私のように、脳をいじるかなにかで寄生されるのを防いだ? いや、でも。寄生紋パロテクトは頭に浮かんでいたし、彼女の枝冠は今も出現している。


 ……となれば。


 私は、以前ゲトガーが言っていた言葉を思い出した。

「ルドヴィグが、体の主導権を委員長に譲った……?」


 ゲトガーは、デルデド星人は自分の意思で体の主導権を寄生先の相手に渡せると言っていた。しかし、そんなことは誰もしようとしないとも言っていた。だって、意味がないから。


 なら、やはり。委員長も私のようにルドヴィグを脅して無理やり共生しているのだろうか?


「ああ。そうだ」

 私の問いに答えたのは、委員長ではなかった。

 それは、私が聞いたことのある男性の声。しかし、ゲトガーのものでも博士のものでもない。


 それは。


「俺が、主導権をイグロに渡した」


 委員長の頭の上の方から、声が聞こえてくる。よく見ると、委員長の割れた寄生紋パロテクトの断面から、粘液を纏った赤黒い舌が飛び出る。気持ち悪っ!


「ルドヴィグ。どうしてそんなことを?」

 ゲトガーの問いにルドヴィグは。

「利害の一致ってやつだ。なにも、一生このままってわけでもない。体の主導権は切り替えることができる。こんな風にな」


 言い終わったときには、寄生紋から出ていた舌はどこかに引っ込んでいた。

 その代わりに、委員長の目が少しだけ金色を帯びているように見えた。今は、委員長の体をルドヴィグが操っているのだろう。


 私は、そんな二人の様子を見つめながら問いかける。

「利害の一致ってなに? 二人の目的は?」

 言いながら私とゲトガーは、自身の力と体力の回復を図っていた。


 すでに椎名さんは刀を抜いて臨戦態勢だが、私が動けないとなると、足手まといにしかならないことは明白だ。


 時間稼ぎが目的の私の意図を汲んでか汲まずか、委員長は静かに語り出してくれた。

「私は、春木博士に聞いた宇宙との交信方法を、四六時中試していたの。そして、とある日。私はルドヴィグとの交信に成功した」

「俺も、交信はたまに行ってたからな。成功したのは初めてだが」


 いつの間にか体の主導権は委員長に戻ったらしく、彼女の瞳の色は元に戻っていた。ルドヴィグは先ほどと同じように寄生紋パロテクトから舌を出して話している。キモい。


「話してみて、私たちはすぐに意気投合したわ。私は世の中にエイリアンを広めたいと思っていたし、ルドヴィグは窮屈な自分の星を抜け出して、革命を起こしたいと思っていたの。……そんな私たちの目的。それは」


 そこで一旦話すのをやめ、委員長はルドヴィグと同時に、同じ言葉を放った。


「全人類エイリアン化計画よ」

「全人類エイリアン化計画だ」


 ……。

 ラボ内に、本日三度目の沈黙が訪れる。


 委員長はドヤ顔で、博士は茫然とし、椎名さんは呆れ、私は開いた口が塞がらなかった。


 得意げな様子の委員長を見ているとなんだかむかついてきた。

 私の声が、静寂を打ち破る。


「全人類エイリアン化計画……?」

「そうよ」


 委員長は、自身の後ろ髪を手で払う。照明が、委員長の髪の束の間で閃いた。


 全人類エイリアン化計画?

 全人類、エイリアン化、計画?


 なんだそれ。なんだ、それ。

 そんなの。そんなの……。


 大きく息を吸って、私は心の限りに叫ぶ。


「頭おかしいんじゃないのっ!?」

「宇宙中の誰もお前にだけは言われたくねぇだろうよ!」

 ゲトガーの鋭い突っ込みが首から飛んできた。


「全人類をエイリアンにするってなに? せめて全人類魔法少女化計画にしようよ!」

「そういう問題じゃねぇだろ」

「閏さんあなた……」

 委員長は、なにか重大なことに気が付いたような表情をして私を見やる。


「残念なほどに頭が弱いのね」


 ……。

 あれ? なんだか涙出てきそ。

 委員長の頭齧り取ってやろうかな。


「その計画は非常に興味深いですがねぇ」

 椅子の軋む音。春木博士がひじ掛けに置いた右腕で頬杖をつきながら口を挟んだ。


「具体的にはどういった計画なんです?」

「別に簡単よ? デルデド星人たちに寄生と侵略を行ってもらって、そのまま交配させ、エイリアンの子を産み続けるの。で、もし逆らう人間がいてもそいつらを全員殺せば、エイリアンだけの世界が完成するわ」


 委員長は、なんともおぞましい計画を真顔で語ってくれた。


 ……ふむ。一度人類を全員エイリアンにしたとする。その後その全員に、ゲトガーのように変身能力を磨いてもらったら、全人類魔法少女化も夢ではないのかもしれない。

 ……いや。そんなことしたら私のアイデンティティがなくなって目立たないか。やーめた。


「ブリギオルの奴はお前たちが殺したんだってな? ゲトガー」

 楽しそうに、寄生紋から垂れる舌を揺らすルドヴィグ。汚い。

「だったら。俺から協力を要請しなくても、同胞たちは嬉々として地球を襲ってくれるだろうな」


「全員をエイリアンにするなんて、そんなことをする理由はなんなの?」

 と、椎名さんは刀を構えながら言った。彼女の視線は常に委員長の方を向いていて、隙があればいつでも飛び掛かってしまいそうだ。

 しかし、委員長の周りに浮かぶ九つの木の大蛇がそれを上手く牽制し、いなしているのであろう。


「単純よ。私が人間嫌いで、エイリアンが好きだから」

 吐き捨てるように、委員長は言う。


「誰でも理想の世界くらい夢に見るでしょう? エイリアンだけの世界が、私にとっての理想の世界なの。それを実現できるチャンスが偶然めぐってきたから、実行に移そうとしている。それだけのことよ」


 自分の理想の世界を作るためだけに、人間を殺してエイリアンにする……?


 そんなの。

 そんなの……。


「狂ってる……!」

(――お前がそれを他人に言う資格ないだろ。突っ込み待ちなのか? こいつ)


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