九頭龍という存在にまつわる情報

博雅(ひろまさ)

漁師と『それ』との遭遇

ああ、ありゃ間違いのうてダイオウイカかどでかいタコやったで。体の部分はほとんど見えんかったけど、船の側面にこう、えらい長い触手がびたーっと貼りついてな、離さんかった。まぁとにかく、一瞬のことやったけど、揺れるは揺れるわ、あと一秒でも銛で刺すのが遅れとったら、船ごとやられてかもしれへん。吸盤? ああ、早朝で多少時化しけとったけど、少しなら見えたで。でも驚いたのはあのでかさやな。前足でがっしり掴んでたとしたら、本体含めて27,8メートルはあったやろな。そんじょそこらのんとは別格やで。で、貼りついてたのはどうしたかって? ほら、ここに――


>漁師のBさん(当時57歳)が、赤茶けた肉片が入ったスチロール箱を取り出した。


――これが銛に引っ付いたんや。引っ掛けたときにな。……色々噂があるのは知ってるで。ふかぁいとこにおる神様が住んどる国が、海面近くに浮かぶ前後――何かが起こる、ってな。不漁になんのもそれが原因らしい。あと、不思議と、釣れたら釣れたで、これまた尋常やないデカさの釣果があるとかな。そういうときゃどうしてか、鯨やイルカの類がおらんようなるねん。まぁ、いずれにせよ、長い事漁師やってきたけど、あんなでかいものにぶち当たった経験なんてないわな。同乗しとった知り合いは気がふれてしもうてな。「くとぅるー、ふたぐん」やったっけ? その言葉だけ繰り返すようになってしもた。D区の病院にまだ入院しとるな。

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